カイト・カフェ

毎朝、苦みのあるコーヒーを・・・

芸術・音楽・映画・演劇

「現代のジョニーはいかにして戦争に行ったのか」〜現代の「テロリスト群像」

ドルトン・トランボ監督の「ジョニーは戦場へ行った」は私がこれまで見た中で最も後味の悪い映画のひとつです。作品のできがよくないのではなく、最高級の反戦映画なのですが、多くの名作が心に切々と訴えて来るのに対し、「ジョニーは〜」はじかに内臓に訴…

「絵画鑑賞の喜び」③〜ピカソは何をしたのか

三十代も半ばを過ぎてスキーを始めました。 娘が生まれて、いつかこの子にスキーを教え一緒に滑りたい――が表向きの理由ですが、腹の底には別の思いもあったのかもしれません。というのも、あとで気づくとそのしばらく前に映画「私をスキーに連れてって」が大…

「絵画鑑賞の喜び」②〜モネ

三十数年前、私は十年以上住んだ東京を離れ、田舎に帰る決心をしました。それなりに傷ついた帰還でした。 その最後の年は“とにかく遊ぼう、東京を満喫しよう、学校や職場とアパートを往復するだけの生活を見直し、ここでなければできないことをしよう”と頑張…

「絵画鑑賞の喜び」①〜ダリ

東京の国立新美術館に「ダリ展」を見に行ってきました。 今回は娘夫婦と孫、息子、つまり勤務のある妻を除く家族全員が一緒です。 「今回は」と書いたのは10年前、上野の森美術館で開かれた「ダリ回顧展 生誕100周年記念展示会」にも私は行っていて、いたく…

「映画の題名に関するちょとしたウンチク」~つまらない原題に、なんという素晴らし日本語題名をつけたのか!

先週話題にした10月7日のNHK「歴史ヒストリア(「"日本語"を切り開いた"マンネン"な人びと」)」は今年89歳になった私の母も見ていて、「日本語を創った人たちがいたのには驚いた」というような話になりました。 そこで元社会科教師、ウンチクタレの私とし…

「ユア・ロープ(君の縄)」~聞き間違いの話

「君の名は。」という題名のアニメ映画が流行っているみたいで公開わずか8日間で観客動員数212万7800人、興行収入27億1200万円を記録したといいます。子どもが小さかったころは別として、基本的にアニメ映画は観に行きませんから今回もこのままやり過ごして…

「どうしてあんなヤツに」

散々迷ったカラヴァッジョ展、先週土曜日に息子のアキュラも誘って行ってきました。 いくら何でも若冲展を上回って混むことはないだろう、2時間待ちくらいなら我慢しようと出かけたのですが、チケット購入に15分並んだだけであとはスイスイ入れました。中…

「カラヴァッジョ!! アラマッチョ!!」

私は非常に先見性に優れ次の時代を見越すことができる、と思っていたら実は最も早く乗せられるひとりだった――その話は以前書きましたが(「先見の迷」 - カイト・カフェ)、今回も同じかもしれません。 今週の土曜日、国立西洋美術館の「カラヴァッジョ展」…

「天才バカボンとはだれのことか」~プロの漫画家たちの教養が高すぎる話

二十歳代の初めころ一時期仏教に傾倒して少々勉強したことがあります。そのとき知ったのがヒンドゥー教の聖典「バガヴァッド・ギーター」です。これは古代ギリシャの「イリヤド」「オデッセイア」に匹敵する大叙事詩で、インドの英雄クリシュナ神を主人公と…

「美しきイタリア」②〜イタリア奇行《最終》

旅行前、かつての教え子の一人に「イタリアはイケメンばかりだそうだからよく見てきて」とか言われましたがほんとうに多い。フィレンツェは街中がタカラヅカみたいです。 息子のアキュラも「生まれたときからこんなに差があるんじゃ話にならない」と絶望しま…

「印象派から日本人が学んだこと」~印象派の人々②

“印象派”というのは誤解されやすい言葉で、「事物というよりは、その印象を描いた絵」と思い込んでいる人もいますが、そうではありません。その出発点となった記念碑的作品がマネの「印象、日の出(Impression, soleil levant)」だったということ、そしてそ…

「文化の伝承」~ロシア・中国、大昔にしか偉人のいない国の困難

ソチ・オリンピックの開会式の冒頭で、主人公の少女がアルファベットを唱えながらロシアの事物・人物を紹介する場面がありました。たぶんロシア語とフランス語、英語で表記されていたと思うのですが、説明がなかったので半分も分かりませんでした。しかしチ…

「ダ・ビンチ、ラファエロ」~展覧会に行ってきました

東京に行ったついでに上野で二つの美術展を観てきました。東京都美術館の「レオナルド・ダ・ビンチ展」と国立西洋美術館の「ラファエロ展」です。 ルネサンスの三大巨匠のうちの二人の展覧会が、ほぼ隣り合う美術館で行われるのですから効率の良い鑑賞、とい…

「舟を編む」~珍しく映画を観てきた

ゴールデン・ウィークも早いうちに女房孝行をしておいた方がいいのではないかと思う私と、とんでもなく評判の高い映画が来ているらしいと勘違いした家人の思いが重なって、「舟を編む」という邦画を見てきました。夜8時5分からの回で終了は10時近くにな…

「良き本を読むことの意味」~表現力をつける

先週、「老後に“やればよいこと”のひとつは、同じ本をもう一度全部読み直して、新鮮に楽しむということです」とか書いたことが頭の隅にあったのか、土曜日に家を出る際、何の気なしに昔読んだ文庫本をバックに投げ込みました。重松清の短編集「ナイフ」。1…

「ユトリロとその母の話」~夏休みに家で考えたこと④

この夏、ユトリロのことを少し調べました(大して熱心に調べたわけではありませんが)。若いころ好きだった画家です。そして調べる中でとんでもなく興味深い人物を発見しました。ユトリロの実母、シュザンヌ・ヴァラドンです。 ウィキペディアによれば、ヴァ…

「ゴヤ 光と影」~なかなか面白かった

上野の国立西洋美術館に「プラド美術館所蔵 ゴヤ 光と影」という展覧会を見に行ってきました。ここ数年、わざわざ行くというのではないのですが毎年何らかの事情があって大型の展覧会を見に行く機会に恵まれています。 個人の名のついた大型展覧会の良さは、…

「ゴッホ」~ゴッホはどうしてゴッホとなったか

東京に用事があったついでに国立新美術館で行われていた「没後120年 ゴッホ展 こうして私はゴッホになった」を観てきました。 テーマにあるようにゴッホの個人展でありながらゴッホの成り立ちを見るということで、彼に影響を与えた、ミレーをはじめとする…

「名画のある学校」~ボティチェリの「春」の蘊蓄

小野先生が、美術室前の掲示板に4枚の絵を飾ってくださったので、子供たちに注目させてください。「絵が飾ってあるから、見てごらん」程度でけっこうです。いずれも分かりにくい絵ですが(分かりやすい絵というものがあるかどうかも疑問ですが)、こんな画…

「ダ・ヴィンチがそう言った」~「モナ・リザ」が彼の最高傑作である理由

今日、4月15日はレオナルド・ダ・ビンチの誕生日だそうです(1452年)。ダ・ヴィンチについては2004年に出版されて映画にもなった「ダ・ヴィンチ・コード」のおかげでテレビなどでも扱われることが多く、ここ数年はちょっとしたブームでしたので…

「選ばれし者の恍惚と不安」~”選ばれし”にもさまざまな意味がある

選ばれし者の恍惚(こうこつ)と不安、ともにわれにあり−。次期首相となることが確実となった民主党の鳩山由紀夫代表の現在の心境は、さしずめこんなところだろうか。 一昨日の産経新聞の書き出しの一部です。 選ばれし者の恍惚と不安・・・最近ではあるプロ…

「ゴーギャンダム!」~ゴーギャンとガンダムを観てきた。

東京近代美術館に「ゴーギャン展」を見に行ったついでに、お台場まで足を伸ばしてガンダムを見てきました。 男の子の世界では1970年代の「宇宙戦艦ヤマト」、80年代が「ガンダム」、90年代は「新世紀エヴァンゲリオン」と相場が決まっています。私は…

「芸術のある学校」~名画がたくさんあってクラシック音楽の流れる学校があるといい

東京にピカソ展を見に行ってきました。素晴らしい展覧会でした。 絵画は、しばしば個人展でないと理解できない場合があります。特に抽象画家の場合、どういう経過からその絵に至ったのか、成長の流れとして見てこないと理解できないのです。その意味で今回、…

「モナ・リザ」~なぜこれがダ・ヴィンチの最高傑作なのだ?

学校内のたいていのことは説明可能だと思っているのですが、時々どうしても分からないことが出てきます。それはたとえば本校職員室、高井先生の後ろの壁にあるモナ・リザの絵です。伝統ある本校の職員室になぜモナ・リザなのでしょう? どういった教育的配慮…

「水族館にて」~宮沢賢治の「やまなし」に寄せて

宮沢賢治の「やまなし」が好きです。 最初この作品を読んだときに、なにを言いたいのかサッパリ分からず「変な話だなあ」と思っていたのですが、書き出しの「小さな谷川の底を写した、二枚の青い幻灯です。」を見直したら、一気に理解できたように思いました…

「ボクを見守っていて・・・」~小説”Stand by me.”の一節

ホラー小説の大家スティーブン・キング(「キャリー」「シャイニング」「グリーンマイル」等)には、「スタンド・バイ・ミー」という珠玉の作品があります。これは青春小説と呼びうるものですが、それぞれ心に傷を持った4人の少年たちが、好奇心から線路づた…

「直木賞・芥川賞発表!」~応募する賞ではありませんが

昨日はライブドアの事件をはじめ重要ニュースが目白押しの一日でした。その片隅に追いやられて目立たなかったニュースのひとつが、第134回芥川賞・直木賞の決定です。 芥川賞と直木賞は70年ほど前、文芸春秋社の社長をしていた菊池寛が芥川竜之介・直木…

「あっ・・・」~ボクのよく知っている学校のカオナシ

学年会が妙に盛り上がっていると思っていたら、職員演奏の練り直しでした。アニメキャラの名前が次々に出てきて、「銀河鉄道999」の鉄朗の苗字が「星野」だったと再確認したり、「チビ丸子ちゃん」の野口さんが笑子(えみこ)という名前だと新発見したり…

「ラブレターを書くように、子どもを誉める」~表現という恍惚②

太宰治という人はラブレターについても天才的で、延々と用件だけを書いた手紙の最後に「恋しい」と一言書いて切り上げるような、手の込んだことをしたそうです。「あなたはいつか、今よりもずっと激しく人を愛することがあるかもしれません。しかし今よりも…

「音楽や絵画は本源的な欲求である」~表現という恍惚①

一昨日の研究会打ち上げの際、この日報のことが話題となり、その中で校長先生より「副校長先生の文章には麻薬のようなところがあり・・・」といったお話がありました。フムフムとうなづけるところです。 私は、書くことによって考え、書くことで考えをまとめ…