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「NHK大河ドラマ『光る君へ』が面白くないわけがない」~今さら大河、今から大河①

 NHKの大河ドラマ「光る君へ」。
 今ひとつ盛り上がらないのはなぜだ?
 こんなに面白い歴史ドラマは、
 めったにないと思うのだが――
 という話。(写真:フォトAC)

【今さら大河、今から大河】

 NHK大河ドラマ「光る君へ」の視聴率が低調で、「やはり合戦シーンがないとダメだ」とか「登場人物や歴史そのものに馴染が薄すぎる」とか、「新たに覚えようと思っても人物は藤原だらけ」とか「1月8日の第一回放送と能登半島地震のために元日から延期になってきた『芸能人格付けチェック』がバッティングして損したな」とかさまざまに言われますが、視聴率は常に10%を越えて他の民放ドラマの追従を許さないし、そもそも受信料を取って制作しているNHKドラマには特別の役割があって、文化をきちんと伝承していくためには視聴率なんて気にしなくてもいいのです。民放テレビでも劇場映画でも時代劇はさっぱり流行らなくなりました。そうである以上KHKがEテレ並みの使命感を持って、将来に向けて技術を営々と伝えていく必要があります。それがどんなにつまらないと言われても。
――と言いながら「光る君へ」、私は過去のどんな大河ドラマと比べても遜色ないほど面白いと思っているのです。

【「光る君へ」のここが面白い】

 まず、むしろ馴染が薄い時代だから面白い。
 前作の「どうする家康」はよく知った時代だから面白くなく、半年余りでさじを投げてしまいました。私の知っている築山殿(家康の正妻)はあんな人ではありませんし、信長と家康の間にBL(ボーイズ・ラブ)関係があった可能性は、ゼロではありませんがあっても当事者同士の人間関係や歴史の及ぼす影響は大したものではなかったはずです。秀吉は、少なくとも天下を取るまではムチャクチャ愛嬌のある《人たらし》で、ムロツヨシの演じたような近づくのも嫌な胡散臭い男ではなかったはずですし、酒向芳の明智光秀は同じ大河ドラマ麒麟がくる」を見たあとでは薄っぺらに過ぎます――と、いちいち引っかかります。その点、「光る君へ」は知らない世界だから平和です。
 
 紫式部藤原道長では身分が違い過ぎて恋愛関係など発生しようがない、少なくとも独身時代に出会う可能性がない、式部が宮中に呼ばれたころすでに清少納言は宮中を去っているからこれも出会う可能性はほとんどない、二人の才女が互いを尊敬したり才能を競ったりすることもないと、専門家は言いますが、可能性はゼロではありません。どうせ資料などほとんどないのです。紫式部清少納言については生年も没年も、それどころか本名ですら分かっていません。だったら彼女たちの可能性はいくらでも考えられます。
 
 若いころの紫式部藤原道長に恋愛関係があり、式部と少納言が友だちだという設定は、「どうする家康」における築山殿の関東諸侯自由連合構想や信長家康BL同盟よりも可能性の低い話ではなく、恋愛ドラマの名手・大石静の書く物語を私たちは十分に楽しめばいいのです。
「光る君へ」はガチガチの歴史に縛られないから面白く、自由に考えられるその世界で、現代の恋愛劇を観るように楽しめるドラマとして仕立てられているのです。

【登場人物をどう覚えるか】

 本当かどうかがわかりませんが、昔、東大に合格していくような受験生の歴史学習はこうだ、というような話を聞いたことがあります。それによると東大を受験するような高校生たちはとにかく文章を読むのが速い、その凄まじい速読術で戦国時代なら戦国時代に関する新書、数冊をあっという間に読んでしまう。そうすると頭の中には歴史的事項が重要度順に並び、しかも関係性まで定着してしまう、というのです。

 難しい話ではありません。戦国時代に関する本を1冊読めば、信長も秀吉も家康も、繰り返し出てくるでしょう。その出てくる回数がほぼ重要度順です。繰り返し繰り返し出てきますから自然と覚えられます。しかも単語帳を見るのと違い、出てくるたびに他の歴史事項や人間関係を引きずってきますから、なぜ彼が重要なのか、何をどんなふうにしたのかも同時に入ってきます。もちろん一冊だけでは偏りが出ますから数冊以上読むことが大切ですが、それでも単語帳を眺めて暗記するよりははるかに楽でしょう(ただしあくまでも速読が前提ですが)。

「光る君へ」の登場人物が藤原ばかりでさっぱり覚えきらないという人たちも我慢して4~5回分をただ見ていればいいのです。重要な人物は繰り返し出てきますし、出てくるときは誰かと何かをやって見せます。そのことを繰り返して行けば、やがてすべての人々が分かってきます。
 考えてみれば現代劇だって登場人物をフルネームで呼ぶことは稀です。姓か名かどちらか片方しか呼ばれていないのに覚えられるのですから「出てくる人がほとんど藤原」でもなんとかなるのです。

【とはいえ、少し手がかりをサービス】

 普通のドラマだと登場人物から無名俳優を除けば、残りが物語を最後まで引っ張っていく人たちだとだいたい想像がつくのですが、大河ドラマは有名俳優ばかりなのであてが外れます。そんなことから覚えるのに普通以上の時間がかかりそうなので、「とりあえずこの人だけ注目して行きましょう」という人を、俳優さんの名前付きで紹介しておきます(詳しくはこちらへ→*1)。


《中心人物》
まひろ(=紫式部吉高由里子)、藤原道長柄本佑)、ききょう(清少納言:ファーストサマー・ウイカ

天皇家
一条天皇(塩野瑛久)、中宮定子(高畑充希)、中宮彰子(見上愛)、藤原詮子(あきこ:道長の姉で一条天皇の母:吉田羊)

道長を支える人々》
[四納言(しなごん)]藤原公任(きんとう:町田啓太)、藤原行成(こうせい:書家:渡辺大知)、藤原斉信(ただのぶ:金田哲〈はんにゃ〉)、源俊賢(としかた:本田大輔
[距離を置く人]藤原実資(さねすけ:秋山竜次〈ロバート〉)

《その他》
 昨日の回では中宮定子の兄弟である藤原伊周(これちか:三浦翔平)、藤原隆家竜星涼)も重要人物でしたが、遠からず消えていく人ですから気にしなくてもいいと思います。
(この稿、続く)