町内会の仕事は、いくらでも減らしていい。
しかし地域の声を行政に届ける、
大切な機能まで失ってはいけない。
それを失った苦しい前例もある。
(写真:フォトAC)
【上に訴える機能は死守したい】
私のような頑固な存続派でも、役員のなり手のいない現状で、町内会を維持するのが難しいことはよくわかります。しかしどんなに規模縮小あるいは形骸化しようとも、地区の要望を行政に上げる道筋だけは残しておきたい、残すべきだと私は思っています。
もちろん市に要望を出そうと思ったら電話もあれば手紙もある、Eメールもあれば市のサイトには投稿フォームまで備えられている場合もあります。しかし20年ほど前とは違い、要望を出せば必ず返事がもらえるというものではありません。サイトの投稿フォームにもわざわざ「すべてに個別回答するとは限りません」とか「政策判断への参考とします」「同趣旨案件はまとめて扱います」といった注意書きがあって、基本的には返事が来ない仕組みになっています。
それはそうでしょう。地域の要望なのか個人的な考えなのか分からないものにいちいち答えていたら大変なことになります*1。
その点で、町会長を通して市に上げていく要望は公的なものですから、一定の回答を得られます。熱心な町会長なら足しげく市役所に掛け合ってくれるでしょうし、そこまで熱心でなくても、市が地区の要望を吸い上げる仕組みは必ずあります。それを通して市とつながるのが一番確実な道筋です。
町内会をなくした場合の不安は、そのルートがなくなるという点だけではありません。私の地区が町内会をなくしても、他の地区の町内会は残るのです。市の予算はパイの奪い合いですから、『言ったもの勝ち』とまでは言いませんが、要望を伝えなければ不利になるのは確かです。私たちの地区の分け前が、知らないうちに掠め取られるのは困ります。
【失敗の前例】
似た例で言いますと、私の地域の小中学校はともにPTAを廃止してしまいましたが、市内の学校PTAはまだほとんどが残っています。残っている学校のPTA会長は会長会や研修会を通して市や県の情報を手に入れ、また市教委・PTA会長懇談会などの機会に、学校や保護者の要望を市教委に伝えることができます。細かなところで言えば、入学式や卒業式の来賓控室や運動会・文化祭の来賓席で、PTA会長が教育委員の耳元で何をささやいているか、そこにも目を向ける必要があります。いずれにしてもPTA会長がいて、初めて成り立つ話です。
市教委が「あの学校はPTAがないからこちらから気にかけてやろう」とか「PTAがないから資金もない。その分は余計に出してやろう」などと、思うはずがありません。「苦しい思いをしながらPTAを維持し、自前で学校を良くしようとしている学校にこそ、手厚く支援してやろう」。そう考えるのが人情でしょう。
もちろん表立って差別することはしませんが、要望の強いところから順に対応していったら、予算が足りなくなったといったことも、大いにありそうです。
【もう一つの失敗事例】
話を学校に振ってしまったので、もうひとつ失敗の事例を重ねておきます。それは教職員組合です。
現在の教職員組合の組織率は、連合系の日教組で18.8%、全労連系の全教で2.4%、政治色の薄い全日教連で1.5%。全部合わせても26.8%で、とてもではありませんが、全教職員の代表とは言えません。したがってこれだけ教員の仕事が過酷で、土日もなく、時間外労働も過労死ラインを超えていると言っても、それを政治に反映させる力が、まったくありません。マスメディアも、ほとんど取材に行きません。
太平洋戦争前から戦争中にかけて、たくさんの教え子を戦場や満州開拓地へ送り込み、死なせてしまったという深い反省から始まった戦後教育。だから平和教育に力が入りすぎたのもやむをえないものの、教職員の生活を守ろうとしない労働組合が衰退するのも必定だったのかもしれません。しかし多くがやめてしまったおかげで、一番大事な時にも大きな声が出せず、ひたすら少数の人たちがSNSの中でわめいているだけです。
やはり物申す力は死守しなくてはなりませんでした。
【町内に難しい仕事はない】
町内会も、ありとあらゆる仕事をそぎ落として、下から物申す機能を失わないようにする必要があります。そのために、行政の末端として行政のお手伝いもしなくてはなりませんし、形だけでも守っていかなくてはならない役職もあります。
考えてみれば、町内会の役員なんて「選ばれしエリート」の仕事ではないのです。役員のなり手がいないなんていう話は20年以上も前からあったことで、今日までの間に、誰がやっても大きな負担なくできるよう、仕事は簡略化されてきたはずです。怖がらず、やってみればいいのです。やった上で負担に感じる仕事があれば、その部分は自分たちで少しずつ減らしていけばいいのです。
町内会の仕事を減らしたところで、だれも文句は言わないでしょう。文句を言われたら、「だったら次はお前がやれ」と言えばいいだけのことです。
ああ、それにしても、「町内会役員の仕事、これしかありませんよ」という話、どうして役員の人たちはしないのだろう?
(この稿、終了)
*1: かつてインターネットの黎明期、行政がホームページ上にe-mailアドレスを公開して「インターネット目安箱」のように意見を募ったところ、まっとうな意見・提案ばかりでなく、有象無象、虚々実々、無理難題、罵詈雑言、流言飛語等、あらゆる内容が飛び込んできて収拾がつかなくなったことがありました。
一昔前の匿名投書と違って、返信先が分かるため、返事をしないとすぐに「お怒りメール」が届く。さらに返事を出せずにいると、それこそ週に百通もの同じ内容のメールが届く、といった事態になることもありました。
私も、県教委の主事と旧知の間柄だったことから、問い合わせを受けたことがあります、その電話連絡があったのが午後9時すぎ。「メールで内容を送るから、事実関係について教えてほしい。どうせすぐには対応できないから、午前0時まででいい、返事をくれ」と言われて驚いたことがありました。1時間以内に返事を返しましたが、あちらは午前2時ごろ、ようやく差出人に返事ができたみたいです。






(この稿、終了)