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「旧コロナ防疫優等生国:優等生だったことには意味がある」~いちおう終わったことになる新型コロナ禍の、数字で見る世界④

 結局ほとんどの国々が爆発的感染を防げなかった、
 だとしたらコロナ防疫に意味はなかったのか――、
 いやそうではない。初期の防疫優等生国は、
 最終的な死者数で、極端に少なかったのだ。
 という話。(写真:フォトAC)

【旧コロナ防疫優等生国:優等生だったことには意味がある】

 結局コロナ禍が終わってみれば感染状況はどこも同じ、かつて防疫優等生国の筆頭だった韓国は10万人あたりの感染者数で最悪に近いフランスと肩を並べ、台湾・シンガポール・オーストラリア、あるいはニュージーランドもイタリア・ドイツ・イギリスに並ぶ。それよりマシな日本も、もう少しでアメリカに近づく感染大国なっています。(*)
 では、優等生国の努力は結局ムダだったのでしょうか。
 そんなことはありません。感染者数ではなく、死亡者の数でみると状況は、まったく異なったものになるからです。

 下のグラフはジョンズ・ホプキンス大学が集計をやめた2023年3月9日の時点での、各国の10万人当たりの死者数を表したものです。先週金曜日に紹介した10万人当たりの感染者数のグラフに合わせて、
①日本 ②韓国 ③台湾 ④ベトナム ⑤シンガポール ⑥ニュージーランド ⑦オーストラリア。
 アルファベットは、早い段階から感染拡大を防げなかった国々、いわばコロナ防疫初期劣等生国で、
aイタリア bスペイン cフランス dドイツ eイギリス fスウェーデン gオランダ hチェコ iアメリカ合衆国となっています。オランダとチェコを入れたのは、あまり話題にならなかったものの感染状況が極めて悪かった国だからです。また今回はここにJのハンガリーとK・ペルーも加えてあります。死亡者の数が異常に多かった国々で、特にペルーは10万人当たりの死者が660人を越えているのでグラフの枠にさえ収まってきません。ほんとうに大勢の人を死なせてしまったわけです。ちなみに、今回も②と③の間でほとんどグラフになっていないのが中国です。
 これを見ると一目瞭然、かつて防疫優等生国と呼ばれた国々(①~⑦)は、死亡者数において極端に低いことがわかります。

【なぜ死者数は低く抑えられたのか】

 国家の防疫の最大の目標は国民を死なせないことです。国民を不安にさせないこと、経済への影響を最小限に抑えることも大事ですが、第一目標はやはり生かしておくことでしょう。そうなると防疫優等生国が優等生だったことが改めてわかります。
 ではこれらの国々は、最終的な感染拡大を抑えることはできなかったにもかかわらず、なぜ死者数は少なく抑えることができたのでしょう?
 
 答えは簡単です。
 旧防疫優等生国がその座を降りなければならなかったのはオミクロン株に席巻されたからですが、この株には二つの大きな特徴があって、ひとつはそのすさまじい感染力ですが、もうひとつは従来の株に比べると極めて毒性が低かったという点です。かなり早い段階である医師が「オミクロン株は新型コロナ感染の救世主かもしれない」と語っていたのを私は印象深く覚えています。実際にそれに近いものがあっのかもしれません。

 オミクロン出現のころまでにはワクチンも開発され、接種もかなり進んでいました。さらにわずかとはいえ、治療薬も承認され、治療方法に関する病院の知見もかなり蓄積されるようになっていました。つまり爆発的な感染拡大を先延ばしにすることには重大な意味があったわけです。
 そう考えると、初期に最大の感染拡大を迎えなければならなかった欧米諸国と、後半になってようやく荒波を受けた東アジア・オセアニアの国々とでは、運命に天と地ほどの差があったといえます。

【優等生の何が優秀だったのだろう?】

 コロナ禍初期の感染拡大を防げなかった欧米諸国と、何とか凌いで感染爆発を先延ばしにしてきた東アジア・オセアニア。しかしこの分類、もしかしたら地続きの国と島国という分け方の方がよかったのかもしれません。韓国だって北朝鮮という半鎖国の国が北にありますから大陸から切り取られた島国のようなものです。
 さらに前者にはイギリスという島国があって後者にはベトナムという地続きの国がありますが、それでも自由に行き来できたEUと、物理的に国境を閉ざすことが簡単なだった東アジアの国々とでは、感染状況に差ができるのは当然です。

 それ以外の点については防疫優等生国同士でもむしろ異なっている部分の方が多かったように思われます。中でも日本は超高齢化社会であるとともに大都市への人口集中も高く、不安要素は山ほどだったのに一度のロックダウンもせず、オンライン決済の履歴といった個人情報にも頼らずに、極めて低い死者数を実現したのです。
 その意味では優等生中の優等生でしたが、それを可能にした条件――故安倍晋三首相が「日本モデル」と自賛したり、山中伸弥先生がファクターXと名づけたものが何だったのか、それはいまもはっきりしていません。
 あれは何だったのでしょう。

(この稿、続く)


(参考)人口10万人に対する感染者数(再掲)
(防疫優等生国)①日本 ②韓国 ③台湾 ④ベトナム ⑤シンガポール ⑥ニュージーランド ⑦オーストラリア。
(防疫失敗国) aイタリア bスペイン cフランス dドイツ eイギリス fスウェーデン gオランダ hチェコ iアメリカ合衆国
(感染者多くて話題になった大国) Xインド Y南アフリカ共和国 Zブラジル