カイト・カフェ

毎朝、苦みのあるコーヒーを・・・

「初心だった:韓国が感染爆発を防げなかった理由」~いちおう終わったことになる新型コロナ禍の、数字で見る世界③

 2022年春、日本を含むアジア・オセアニアがオミクロン株に苦しんでいる際中、
 欧米諸国は脱コロナを始めようとしていた。
 何故そんなことができたのか。
 ”K防疫”の韓国はなぜ感染爆発を防げなかったのか。 
という話。(写真:フォトAC)

【かつての防疫失敗国は何をしていたのか】

 2022年春、新型コロナウイルス・オミクロン株の圧倒的な感染力の前に、オーストラリア・ニュージーランドベトナム・台湾・韓国・日本など、かつての防疫優等生国が次々と屈服して感染者数を増やしている時期、かつての失敗国、イギリスやスペインは何をしていたのか――実は、それらの国は早くも脱コロナを計ろうとしていたのです。

 例えばスペインはすでに2020年の暮れから、土日の感染報告を律義に休むようになっていました。それが22年になると週休三日とか、三日休んで一日報告してまた二日休むといったいい加減さで、ラテン民族のおおらかさを十分に発揮するようになります。そしてその年(去年)の夏から、イギリス・フランス・ドイツといった国々も、これに追従するようになったのです。
 彼らはもうコロナ禍が終わったと考えたのです。ヨーロッパでは規制を解除したのに日本は1年遅れているといわれるのはそのためです。

【ほぼ納得できるイギリスの脱コロナ】

 ヨーロッパ諸国が「コロナは終わった」と考えたことには理由があります。2022年夏の段階で、すでに1年以上、感染拡大の大波はやってこなかったからです。

 下はこの3年余りの、イギリスにおける新型コロナの死亡者数をグラフにしたものです。感染者数を参照しないのは、よく知られているように新型コロナでは無症状の感染者がかなりいて、この人たちの数は統計に載って来ないからです。感染者数の統計は必ずしも正確とは言えません。そこで死亡者数に注目するのです。すると、

 見ての通りイギリスは2020年2月末からの第一波で大きな打撃を受け、同年夏から翌年春にかけての第二波で、さらに大きな被害を受けてからは比較的安定した感染状況を見せるようになっています。
 昨日、申し上げたように一日の死者数の最大値は韓国が470人、日本が503人ですから、グラフの中におおよその高さを思い浮かべてみましょう。イギリスが2020年から21年春にかけてどんな苛酷な運命を受け入れなくてはならなかったのか、自ずと分かってきます。しかも人口は日本のほぼ半分、韓国より少し多いだけなのです。

 「2021年の夏以降は安定した」とは言っても1日200人を越える死者数で、それが受け入れ可能かどうかは議論になるところです。
 しかしイギリスでは200は受忍範囲内でした。何といっても2020年秋から21年春まで続いた爆発的感染拡大では1日に2000人近くも亡くなった日があったのです。それに比べたら200なんて大したことはありません。
 それに2020年の暮れからはワクチン接種も始まっていて、無症状や軽度の感染者も含めれば80%を越える人が免疫を獲得して集団免疫を獲得している可能性もかなり高かったのです。
*22年夏以降のグラフに隙間があってしかも高さが延びているのは何日か分をまとめて報告するからで、特に死者数が増えているわけではありません。そう思って見ると2年近く、状況は変わっていないと見ることもできるわけです。

 さらにこのグラフに、かつての防疫優等生国の韓国・日本を重ね合わせてみるとまた別の面も見えてきます。

*注意しておくべきは、縦軸の目盛りが日韓は同じでありながらイギリスのみ四分の一に圧縮してあるということです。最初の一年半にこの国どれくらい叩かれたかは一目瞭然。2021年4月30日までにイギリスで亡くなった127,775人は、ジョンズ・ホプキンス大学が集計をやめた今年3月9日時点の220,222人の実に58%にも当たり、約6割が最初の1年で死んでしまったことになるわけです。

【韓国が感染爆発を防げなかった理由:初心だった】

 イギリスは最初に叩かれて、あとは何とか持ちこたえてきた、それ対して韓国は正反対の過程をたどりました。韓国では2020年の2月末に大邱の宗教施設で大規模なクラスターが発生して、それを力づくで抑えることに成功すると、その後2年近くに渡って、感染拡大を低く抑えることに成功するのです。

 韓国ではSARS事態の反省から、大量の検査薬を生産できる体制づくりができていたこと、兵役猶予のある医学生を検査官として動員できたこと、オンライン決済の記録などから感染者を特定して追跡する仕組みがあったことなど、総じて自ら“K防疫”と呼ぶようなシステムによって、2021年秋まではほぼ完ぺきに感染拡大を抑えることができました。やがてそれが裏目に出ます。要するにウイルスに対して初心だったわけです。感染経験者が極端に少ない国に感染力のやたらと強いオミクロン株が上陸すると、ひとたまりもありませんでした。
 結局2022年度末までにこの国で感染した人は29,116,800人にも上り、その数は総人口の56%にも当たります。もちろん無症状ですり抜けた人もいますから、あるいは感染による抗体を持つひとだけでも8割近くもいるのかもしれません。ほぼ集団免疫が完成した状態です。

 もちろんこの時期までに韓国でも90%近い人々がワクチン接種を終えていましたが、イギリスのように、そもそも相当な数の国民がすでに感染によって免疫を獲得し、その上でワクチンを打って強化するのとではわけが違います。しかも韓国で初期に使われたのは、効果が弱いとされたアストラゼネカ社のワクチンでしたし、時間が立てば免疫力はさらに弱まります。

 ちなみにイギリスでもコロナ抗体をもつ人はほぼ8割。この数値は過去2年間あまり変わらなかったと思われます。2022年の春、極めて感染力の強いオミクロン株が上陸しても大きな感染拡大に至らなかったのは、そうした事情があってのことでしょう。翻って日本の場合、報告された感染者数は5月8日までで33,801,932人、人口比で26・3%しかなく、統計に表れない感染者も含めても抗体を持つ人は4割程度だと言われています。
 欧米に比べて日本は規制緩和があまりにも遅れたと批判されますが、それにはそれなりの理由があるのです。
*再びちなみに――、
 欧米に比べて「遅れた」「遅れた」とあまりにも言われたのでついついその気になっていましたが、日本では5月8日に新型コロナウイルスが5類に移行したのに、アメリカ合衆国は11日になってようやく国家非常事態宣言を解除したみたいです。
 政府は許容していなかったのに、アメリカ国民が勝手に「終わったこと」にしてしまっただけのようです。そしてそのことが、今回のコロナ禍に見る世界の姿と大いに関係があるのです。

(この稿、続く)