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「それでも結局わからないアフリカ諸国と中国」~いちおう終わったことになる新型コロナ禍の、数字で見る世界⑦

 3年間、世界の感染状況を見てきて、しかし分からないことも多い。
 誰も説明してくれないが、
 アフリカ諸国は、なぜああも感染者が少なかったのか、
 中国では、実際になにが起こっていたのか。
 という話。(写真:フォトAC)

【世界は案外いい加減なんだ】

 三年間、世界各国のコロナ感染状況の統計を見てきて、率直に思ったことのひとつは、「世界って、案外、いい加減なんだ」
ということです。
 日本では2020年の秋に東京都が感染者数を訂正したところ「今どきファックスなんぞを使っているからミスが出る」だの「世界の趨勢から後れを取った」だの散々な言われようでしたが、“世界”の方はネットでつながったこちら側で、人間が正確な入力を怠っていたのではないかと思わせる場面が多々ありました。
 
 とくにイギリスは半年先まで遡って訂正することが2~3回あって、そのたびに私も一日ずつ数字を打ち直さざるを得ず、ほんとうに大変でした。日本国内の分はNHKがエクセルでも提供してくれていたので楽でしたが、世界のほうはまとめて処理できるデータがなかったのです。
  もっとも当初のイギリスの状況は日本の比ではなく、1日の感染者数が7万人近く、死者は1800人越えなどといった日が続けば、統計が怪しくなるのも仕方ないとも言えます。2020年4月の中国のように、死亡者が日々0~6人だったのがいきなり1290人も計上して翌日から0といった国もありますから、直してくれるだけでもまだまし、といったくらいなのかもしれません。

 日本では政府や保健当局がやたらと叱られていましたが、基本的に日本人はみな真面目に、誠実に、仕事にあたろうとしていますからもう少し大目に見てってもいいはずです。その真面目さはグラフからも分かります。不自然な隙間とか高すぎる棒とかはほとんどないでしょ?

【謎のアフリカ諸国】

 不自然と言えばこの3年余り、私がずっと首を傾げてきたことがあります。それはアフリカ諸国の動向です。
 世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長はエチオピアの出身で、そのため当初からアフリカにおける感染拡大を危惧して、繰り返し先進国に善処を求めてきました。医療も衛生環境も情報も不十分な国ばかりです。貧しい国々ですからワクチンだって買えない。そんな地域にコロナウイルスが入ったらどんな悲惨なことになるのか――テドロスはそれを恐れたのです。
 
 案の定2020年4月にはエジプトで、6月には南アフリカ共和国で大規模な感染拡大が発生してパニックが起きます。南アはその後も21年暮れまで4回の大波を受け、ベータ株もオミクロン株もこの国から出てきたとされています。
 したがってどれほど甚大な被害があったのかと思われるのですが、終わってみれば(終わったことにしてみれば)エジプトの単位人口あたりの感染者は日本の0・2倍、死者も0・4倍しかありません。南アフリカは感染者で日本の0・27倍。死者は多くて3・17倍ほどですが、イタリアの5・4倍やイギリスの5・7倍に比べたら大したことはありませんでした。
 さらに言えばエジプトを含む地中海沿岸諸国と最南端の南アフリカ共和国は、アフリカ大陸の中でも異端なほどに感染の多かった地域で、その他のアフリカ諸国は呆れるほど感染者数も死亡者も少なかったのです。(日本経済新聞新型コロナウイルス感染 世界マップ参照)*1
 例えばテドロスの母国エチオピアは感染者が約50万人、死亡者は7300名ほど。国民十万人あたりで計算すると感染者が457・7人で死亡者6・7人。これは日本のそれぞれ1・7%、11・5%にすぎません。

 ではなぜアフリカ諸国では深刻な感染状況にならなかったのか――。これに関する合理的(かもしれない)説明を、私がメディア等で目にしたのは一度だけです。曰く、
「深刻な感染症に不断に襲われているアフリカ諸国は、感染拡大に対してロックダウンを含む強権をもって対抗することに慣れている。だから拡大しないのだ」
 しかし強権ではないものの台湾やニュージーランド、日本のような国土を閉ざしやすい国でも防げなかった感染拡大を、地続きのアフリカ諸国がなぜできたのか、なかなか説明のつくものではありません。

 私は実質的な問題ではなく、数え方の問題だったのかもしれないと考えています。
 日本では「コロナ患者が交通事故で死んでもコロナ死だ」と揶揄されるほどコロナに寄せて数えられましたが、平均寿命も短く、さまざまな感染症や病気に曝され慣れているアフリカ諸国では、死因に対する意識が薄い――何で死んだかはそれほど問題にならない状況でもあるのかもしれない、と思ったりもしているのです。
 そもそもコロナウイルスに感染しても病院にも来ず、死んでも原因を特定せずに埋葬してしまえば統計には上がってきません。
 実際のところはどうだったのでしょう?

【もしかしたら政府さえ実態を知らない中国】

 いったい新型コロナはどこから始まったのかというのも大問題ですが、私にとっては数字の整合性の方が気になります。
 何しろ中国における最終的な感染者数は2,023,904万人、死亡者は87,468人(2023.03.09現在)。同じ時期の日本は感染者数33,320,438人と一ケタ多く、死者は72,997人と似たようなものです。
 しかし人口が12倍近くもある国です。こんなに少なくていいのでしょうか?
 しかも単位人口当たりで計算すると感染者が日本の1%未満(0・55%)、死亡者は約1割(10・9%)。感染者数に対する死亡者、いわば死亡率は4・32%で日本の31倍という医療の後進性――そんなことがあるのでしょうか。
 
 振り返ってみると、中国では2020年正月はじめに武漢での感染爆発が起こり、2月12日の死者242人を記録しました。そこから徐々に数を減らし、4月に入ると0~2人の日が続きいていちおう終息したように見えました。そのころのグラフが次です。

 ところが4月17日にいきなり中国全土での死者数1,290を発表して、グラフの細かな値が見えなくなります。(下図)
 2020年4月下旬以降、まれに死者1あるいは2が報告されるだけで、ほとんど死者数ゼロという日が2年近く続きました。
 ところが2022年の4月になったら突然、死者10だの30だの85だのといった数字が発表され、また落ちてしばらくゼロが続いたと思ったら23年1月15日に59,895人、1月21日に12,658人、2月4日に3,278人と発表してさらにグラフが分からなくなります。(下図)

 結局いまだに、中国では何が起こっていたのかは分からずじまいなのです。
 
 中国政府が正確な数値を持っていながら隠しているのか、そもそも政府にすら正しい数値が上がってこないのか――。前者ならまだしも、後者だと誰も中国のことを分かっていないわけで、末恐ろしい気がします。自国の実態を知らないのに平気で動いていく超大国ということですから。
 (この稿、終了)