「『永訣の朝』と宮沢賢治三昧」~記念館と童話村

 宮沢賢治と聞くと まず胸が苦しくなる
 「決別の朝」に関する苦い思い出があるからだ
 そのことを思い出しながら
 「宮沢賢治記念館」と「宮沢賢治童話村」を回った

というお話。

f:id:kite-cafe:20190927065514j:plain(「宮沢賢治記念館」玄関にて)


【「永訣の朝」のこと】

 宮沢賢治については手痛い思い出があります。
 恐らく高校生のときだと思うのですが、国語の教科書に賢治の詩「永訣の朝」が載っており、その4行目「(あめゆじゅ とてちて けんじゃ)」で笑ってしまい、あとで意味を説明されて地の底まで落ち込む感じを受けたのです。

 持ち上げられて落とされるようなものです。
「卑怯じゃないか」
と、そんなふうに思ったのかもしれません。

 「永訣の朝」は賢治の最愛の妹が25歳で死んでいくときのことを書いた詩です。
 今日の記事の最後に全文を引用しておきますが、中で「とし子」と書かれている妹の臨終の言葉は三つ、それぞれカッコのついているものですが、東北弁のため若干の解説が必要です。

「(あめゆじゅとてちてけんじゃ)」は「雨雪(窓の外に降っているみぞれ)を取って来てください」という意味。
「(Ora Orade Shitori egumo)」は、「私は私で、ひとりで逝きます」の意。
「(うまれで くるたて こんどは こたに わりやの ごとばかりで くるしまなあよに うまれてくる)」は、「再び生まれてくるなら、今度はこんなふうに自分のことばかりで苦しまないように(誰かの役に立つように)生まれてくるね」という意味だと解釈されます。
 
 病床に寄り添って何もできない賢治に「みぞれを食べたい」と言ってせがむ姿は、マリー・ローランの詩の「馬」にも通じるものがあり、それだけでも胸を締め付けられます。看取る者には仕事が必要なのです。

kite-cafe.hatenablog.com 妹のためにしてあげることのできた賢治は、それこそ鉄砲玉のようにみぞれを取りに病院の外に出て、鉛色の空を見上げるのです。

 なんど読んでも嗚咽が漏れそうになる詩です。

 

宮沢賢治記念館】

 宮沢賢治については不勉強で知るところは多くありません。読んだものと言えば今の「永訣の朝」、有名な「雨ニモ負マケズ」、「注文の多い料理店」「セロ弾きのゴーシュ」「よだかの星」「やまなし」「銀河鉄道の夜」くらいなもの。しかも「注文の多い料理店」と「銀河鉄道の夜」以外はすべて教科書で習ったか教えたものです。


 ただ「永訣の朝」と「雨ニモ負マケズ」は一時期そらんじるほど読み込みましたし、「銀河鉄道の夜」は夢中になって読んだ上に(よせばいいのに)クラスの子に読み聞かせなどしてしまい、5時間余りの授業を潰してしまったことがあります(さすがに子どもたちはゲンナリしていました)。
また「やまなし」は今でも最も好きな物語で、情景描写のお手本のように考えています。

雨ニモ負ケズ」と「やまなし」についてはこのブログでも何回か扱っています。

kite-cafe.hatenablog.com

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 ただこの程度の知識では「宮沢賢治記念館」を十分楽しむことはできません。

 1982年(昭和57年)に開設され最近大改修されたばかりという記念館は、広い展示室の壁面に詩、童話、教育、農業、科学の5分野に分類した資料がびっしり展示され、中央ではスクリーン映像やさまざまな工夫でイーハトーブの世界を表現しようとしています。

 賢治の傾倒した仏教関係の資料や鉱物の話、農業の話、さらには本人が書いたとされる楽譜など、そもそもそんなものがあることすら知らない私には、新鮮であると同時に酷くガッカリさせられるものでした。もっとしっかり勉強して来れば夢中になって巡ることのできる空間だと思ったからです。
 事実、つい最近ここを訪れた知り合いの元教師は「3時間いてもきっと飽きないよ」とか言っていました(私はもちません)。
 中学生くらいの子に、死ぬほど勉強させて連れて来れば、きっと涙を流して見学するだろう――そんなことも考えながら小一時間、読み易いものを選んで、丁寧に見ながら回りました。

 なかなかいいものです

 次は「宮沢賢治童話村」

 

宮沢賢治童話村】

 花巻市の観光案内には
 宮沢賢治童話村は、今にもジョバンニや又三郎、山猫がでてきそうな賢治童話の世界で楽しく遊ぶ「楽習」施設。
 童話村は、「銀河ステーション」、「銀河ステーション広場」、「妖精の小径」、「天空の広場」、「山野草園」、そしてメインの「賢治の学校」があり、賢治の学校の中は「ファンタジックホール」、「宇宙」、「天空」、「大地」、「水」の5つのゾーンに分かれています。
 また、ログハウス展示施設「賢治の教室」も見どころ満載です。

とありました。

「賢治の学校」は五つのゾーンに分かれた大きな建物。中は15分程度で回れます。「賢治の教室」は七つのログハウスからなりそれぞれ「動物の教室」「植物の教室」「星の教室」などと名付けられ、宮沢賢治の世界の簡単な学習ができるようになっています。

 わざわざ遠くから来て訊ねるほどの施設ではありませんが、「宮沢賢治記念館」を見学したあとだと非常に気楽に楽しめます。入場料も2館共通券で550円、安いものです。
 私はとても良かった。
 
 詳しく説明するほどのものでもありませんので、付録として「永訣の朝」の下に写真だけ張っておきます。


                       (この稿、続く)


(付録1)

 

永訣の朝
                 宮沢賢治

けふのうちに
とほくへ いってしまふ わたくしの いもうとよ
みぞれがふって おもては へんに あかるいのだ
(あめゆじゅ とてちて けんじゃ)

うすあかく いっさう 陰惨(いんざん)な 雲から
みぞれは びちょびちょ ふってくる
(あめゆじゅ とてちて けんじゃ)

青い蓴菜じゅんさい)の もやうのついた
これら ふたつの かけた 陶椀に
おまへが たべる あめゆきを とらうとして
わたくしは まがった てっぽうだまのやうに
この くらい みぞれのなかに 飛びだした
(あめゆじゅ とてちて けんじゃ)

蒼鉛(そうえん)いろの 暗い雲から
みぞれは びちょびちょ 沈んでくる
ああ とし子
死ぬといふ いまごろになって
わたくしを いっしゃう あかるく するために
こんな さっぱりした 雪のひとわんを
おまへは わたくしに たのんだのだ
ありがたう わたくしの けなげな いもうとよ
わたくしも まっすぐに すすんでいくから
(あめゆじゅ とてちて けんじゃ)

はげしい はげしい 熱や あえぎの あひだから
おまへは わたくしに たのんだのだ

銀河や 太陽、気圏(きけん)などと よばれたせかいの
そらから おちた 雪の さいごの ひとわんを……

…ふたきれの みかげせきざいに
みぞれは さびしく たまってゐる

わたくしは そのうへに あぶなくたち
雪と 水との まっしろな 二相系をたもち
すきとほる つめたい雫に みちた
このつややかな 松のえだから
わたくしの やさしい いもうとの
さいごの たべものを もらっていかう

わたしたちが いっしょに そだってきた あひだ
みなれた ちやわんの この 藍のもやうにも
もう けふ おまへは わかれてしまふ
(Ora Orade Shitori egumo)

ほんたうに けふ おまへは わかれてしまふ

ああ あの とざされた 病室の
くらい びゃうぶや かやの なかに
やさしく あをじろく 燃えてゐる
わたくしの けなげな いもうとよ

この雪は どこを えらばうにも
あんまり どこも まっしろなのだ
あんな おそろしい みだれた そらから
この うつくしい 雪が きたのだ

(うまれで くるたて
  こんどは こたに わりやの ごとばかりで
   くるしまなあよに うまれてくる)

おまへが たべる この ふたわんの ゆきに
わたくしは いま こころから いのる
どうか これが兜率(とそつ)の 天の食(じき)に 変わって
やがては おまへとみんなとに 聖い資糧を もたらすことを
わたくしの すべての さいはひを かけて ねがふ

 

(付録2)

《入場口「銀河ステーション」》
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《妖精の小径》
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《賢治の学校(外観)》
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《賢治の学校(内部)》
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《賢治の教室(内部)》
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《タクシー乗り場付近》
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