【ポスト真実】
先月中ごろ、新聞に次のような記事が出ていました。
「ポスト真実を選出」 〇英 今年注目の単語
【ロンドン共同】
英オックスフォード大出版局は16日、今年注目を集めた英単語として「客観的な事実や真実が重視されない時代」を意味する形容詞「ポスト真実」(POST-TRUTH)を選んだと明らかにした。英国の欧州連合(EU)離脱をめぐる国民投票や、トランプ氏が勝利した米大統領選挙の選挙運動の過程で使用頻度が急増したという。
「ポスト真実の政治」などの形で使われ、真実や事実よりも個人の感情や信念が重視される米英の政治文化や風潮を表現していると評価された。
米大統領選の運動期間中には「オバマ大統領が過激派組織『イスラム国』(IS)をつくった」といった主張がネットで出回ったほか、英国のEU離脱派も「英国はEUに毎週3億5千万ポンド(約476億円)拠出している」などと事実に反するスローガンを使った。
「ポスト真実」という言葉自体が怖ろしい響きを持ちます。なにしろ『真実』が表舞台から退席してしまうわけですから。
今回のアメリカ大統領選挙ではボランティアが最初から候補者の発言をチェックしており、トランプ(当時)候補の発言はその7割がウソや錯誤であることが明らかになっています。また同じ時期、SNSでは「オバマIS創始者説」ばかりではなく、「1970年代、オノヨーコとヒラリー・クリントンの間に性的関係があった」とか「ローマ法王がトランプ支持を明らかにした」といったヨタ話が蔓延していました。
そんな怪しげな情報が、しかしアメリカ国民には信じられた、そしてトランプ次期大統領が誕生したのです。
さらに遡ってブレグジット(英国のEU離脱)の際の離脱派幹部の鮮やかな引退、主張の取り下げを思い出すと、「ポスト真実」は笑い話ではなく、ほんとうに世界から“真実”や“正義”が退出してしまうのではないかと、怯えざるをえないのです。
【汚いホンネがまかり通る】
思えばネットの広がりは、これまでマスメディアが扱わなかった“事実”や“ホンネ”を次々と打ち出してきました。
たとえば人権問題が起こるたびにテレビや新聞は「本当に困ったものですねぇ」とか「絶対許せません」といった発言は取り上げるものの、「差別されて当然!」とか「あんな虫けら、なんで大切にしなくちゃならねぇんだ!」といった“正直な私”には目もくれませんでした。と
ところがネット社会では堂々と発言が取り上げられ、次々と市民権を得ていきます。マスメディアが扱わない分、“非マスメディア的な真実”“秘話”“隠された真実”といったかたち信憑性が深まっていったのです。
“メディアの伝える真実”と“ネット上の真実(私の真実)”はこうして対置されるようになり、等価で検討されるようになりました。
【マスメディアは正しい報道をしていない】
「ポスト真実」は「客観的な事実や真実が重視されない時代」というのが定義ですが、おそらくネット住民はこれに反発するでしょう。
「そうじゃない! 政府やマスメディアこそ客観的事実や真実を伝えてこなかったじゃないか!」
私も一部賛成です。
教員でしたから学校や教員、授業や子どもの実態についてはほかの人よりものを知っています。そうした目から見ると、マスメディアから聞こえてくるアナウンスのほとんどが間違っていたりお門違いだったり、あるいは著しく偏向していたりするのです。
先週お話ししたPISAの分析記事などもそうですが、国立教育政策研究所もメディアも、間違った方向に私たちを引きずり込もうとしている、そう思うことがしばしばなのです。
私は、そうした政府やメディアに対する腹立たしさからサイトを立ち上げブログを書き始めた。しかし他の業界の人々だって、同じように苛立ちを募らせているはずです。
(この稿、続く)