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『豪華すぎる、好青年過ぎる、怪しすぎる』~2025年秋ドラマのここがすごい④

 『もしがく』は豪華過ぎた、
 『じゃあつく』は好青年過ぎる。
 『イイワル』はいいか悪いか分からない。
 そんな2025年の秋ドラマのまとめ。
――という話。(写真:フォトAC)

【オール・スター・キャストだと構造が分からない】

 テレビドラマ『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』(以下「もしがく」)のエンドロールを見ているとアンミカと秋元才加が他の7~8人と一緒に「その他大勢」みたいな扱いで出てきます。確かに俳優としては一流ではないにしても、番組によっては単独でも名前の挙げられる人たちです。この二人が「もしがく」と同じように粗末な扱いを受けるとしたら、あとはNHK大河ドラマだけでしょう。何しろ大物俳優が目白押しですから入る空きがない。
 「もしがく」の低視聴率の原因は、NHK大河ドラマのここ2年余りの低調と同じなのかもしれません。何しろ大物俳優ばかりが出てきますから、どこに焦点を当てればいいのか分からないのです。

 同じ大河でも繰り返し扱われている源平・戦国・幕末維新ならいいのです。それだと後白河法皇が出てきても伊達政宗が出てきても、あるいは高杉晋作でも、出てくるだけで注目し見ることができます。大河ファンの頭の中で、きちんと位置づけされるのです。ところが平安時代(「光る君へ」)だの江戸中期(「べらぼう」)だのといったことになるとよくわからないのです。
 昨年の「光る君へ」で言えば、藤原道長(榎本祐)が重要人物であることは分かるにしてもほかの出演者の重要度が分からない。同じ貴族でも生涯道長を支え続ける「四納言(しなごん)」と総称される4人*1と、ちょっと毛色の変わった立場の藤原実資*2が重要な役どころとわかってようやく落ち着きます。ドラマにおける人間関係の構図が見えてくるからです。
 ただ、そこまで我慢できない人もいる。それで多くの大河ファンが離れたのが一因ではないかと思うのです。

 加えて、昨日お話ししたように、極めて狭い範囲の特殊な人々(ニッチな世界のコアな人々?)を扱っていますから、私のように小劇場に友だちがいてストリップ業界にも知己がいるという特殊な状況にないと、あの人々の熱気や失意や痛みが分からないのかもしれません。
 
 三谷幸喜は日本の演劇・テレビ界の功労者です。偉大な三谷のために金も時間もふんだんに与えて好きなものを作らせた、その結果、一般性のない特殊なドラマができてしまった、そういうことかもしれません。スポンサーには気の毒ですが、視聴率さえ考えなければなかなか良い作品です。優れたドラマを世に残したということで、満足していただきましょう。

【好青年の好演技】

 その他、2025年秋ドラマでとびぬけて評判がいいのは竹内涼真主演の『じゃあ、あんたが作ってみろよ』です。竹内涼真君という俳優さんは何ともさわやかな青年で、男の私でもほれぼれします。同棲していた相手(夏帆)にプロポーズしたその日に振られ、あれこれくよくよと考えているうちに、次第に自らの気遣いのなさに気づいていくという物語ですが、素直で、前向きで、見ているだけで気持ちがいい。
 なぜこんな誠実な男が何年もの間、相手の気持ちに無頓着でいられたのか――そうした本質的な疑問を別にすれば、よくできた変則ラブストーリーです。作品自体がのちのちまで残るかどうかは分かりませんが、竹内涼真君の評価自体は上がるでしょう。ただしこれで役の幅を狭めなければよいのですが――。

【もしかしたら逸材かもしれない『良いこと悪いこと』】

 2025年秋ドラマで取り上げる最後の作品は間宮祥太郎・新木優子W主演の『良いこと悪いこと』です。妻が見るともなく見続けているドラマなので私も見ているだけで、優れたドラマだとか、見た方がいいと勧めるつもりもありません。

 22年ぶりに小学校のグラウンドに集まった元同級生たちがタイムカプセルを掘り起こすと、入っていた卒業アルバムの中の6人の顔写真が黒く塗り潰されていた。それは当時のいじめっ子グループで、やがて一人ひとり、順番に殺され始める――という推理サスペンスです。
 最新の世帯視聴率ランキングは4.92%の第8位で、「もしがく」(11位)より上ですからなかなかの健闘と言えます。しかし内容的にはツッコミどころ満載。

 例えばいくらリーダーとはいえ、小学生が仲間に「キング」といった尊称めいたあだ名をつけることはありませんし、22年ぶりに会った級友を「ちょんまげ」といった侮蔑的なあだ名で呼ぶことも常識的にはないでしょう。その「ちょんまげ」が22年も前に強制された頭のちょんまげを、30歳を過ぎた今も結っているというのもおかしな話です。
 前回の放送では主人公たちが所在不明だった「ちょんまげ」の電話番号を知って会いに行く場面があったのですが、相手は留守でいったん帰らざるを得なくなります。しかし変ですよね。電話番号を聞いたら普通はまず電話をかけて打ち合わせをするだろうし、打ち合わせがあれば相手もわざわざゴミ屋敷みたいなアパートで会う約束はしないでしょう。やはり事前の打ち合わせはなかったのだと納得しようとしても、「じゃあ住所はいつどうやって知ったの?」という別の疑問が浮かんできます。そんな調子で10分に一回は文句を言っているのです。
 そんなに不満なら見なければよさそうなものですが、それでも見続けるのは、謎解きの面白さとともに何か特別なものがあるからでしょう。欠点だらけなのに何か引きつける――。

 私は若いころ、中途半端なものを世に出したくないという思いばかりが強くて、何をやっても成し遂げるということがありませんでした。細かな点をいつまでもいじっていて、完成することがないからです。
 兼好法師徒然草の中で、「芸能を身につけようという人で技を完成させてから世に出ようという人は成功しない。未熟なうちから人前に出て、笑われても恥ずかしがらず、頑張る人こそ大成するものである」(第150段)といったことを語っています。
 若いころのスピルバーグも細部を言えばひどいものでした。それでも主題をグイグイ押してくる――。『良いこと悪いこと』の脚本家のガクカワサキというのは知らない人ですが、しばらく注視していきたいと思います。もちろん大したことのないまま、ということもありますが。

 ちなみに女優の剛力彩芽さんが第一回に出ていて、以降、テロップに名前は出るものの1度の出演もありません。今後、重要な役どころで出てくるかもしれませんが、そうだとしたら犯人です。「もしがく」と反対で、有名俳優はわずかですから目立ちます。
 (この稿、終了)

*1:源俊賢藤原公任藤原斉信藤原行成。演じたのは本田大輔・町田啓太、金田哲渡辺大

*2:ふじわらのさねすけ、演じたのはロバート秋山