カイト・カフェ

毎朝、苦みのあるコーヒーを・・・

「どちらに転んでも国民の半数が不満という苦渋」~子どもと一緒にブレグジットについて学ぼう 

 明後日、いよいよ英国下院の総選挙が行われ、
 EU離脱問題に決着のつきそうな雰囲気。 
 子どもたちと一緒に歴史の一場面に立ち会うとともに、
 国を二分することの危うさについて学ぼう。
という話。
f:id:kite-cafe:20191210081333j:plain(「夜のロンドン イメージ 3」PhotoACより)
 

【子どもたちと歴史の一場面に立ち会う】

 明後日(12月12日)はイギリス議会下院の総選挙です。結果が出るのは日本時間で13日、あるいはそれ以降になるかもしれませんが、重要な選挙です。社会科の先生はもちろん、教科は違うが学級担任をしているという先生も注視して、朝の会などでひとこと触れておくといいでしょう。

 私は現実に起こっている事件の重大さを判断するのに、「このできごとは50年後の中学校の教科書に載るか」「高校の教科書なら載るか」といったことを基準に考えます。
 私が生きてきたこの数十年間についていえば、次の内容は教科書に載っています(または載る予定です)。
・ 高度成長(その象徴として第一回東京オリンピック大阪万博
・ 戦後の終焉(沖縄返還日中国交正常化
オイルショック
バブル経済
ベルリンの壁崩壊→冷戦の終結
・ 平成不況(失われた10年・20年)
アメリ同時多発テロ→合衆国の凋落・中国の台頭
・ IT革命
東日本大震災
 ざっとそんなところでしょうか。

 阪神大震災東日本大震災に上書きされますし、あれほど世間を騒がせたオウム真理教事件も、歴史を動かさなかった、人々の生活に大きな変化を与えなかった、という意味で教科書には載ってきません。

 そうした基準からすれば、明後日のイギリス総選挙でEU離脱が決まったとしても、それだけでは日本の教科書に載りません。ただし数年後、“あれがEU崩壊の端緒だった”ということになれば様子はまた違って来るでしょう。
「オレたちは歴史の瞬間に立ち会った」
ということになるかもしれませんから、意味が分かってもわからなくても、一応、話しておくことは大事でしょう。

 

【自ら進んで苦杯をあおる】

 今のところ予想はジョンソン首相率いる保守党有利ということになっています。
 保守党が勝利を収めることになれば、現在、宙に浮いている離脱案が議会を通過し、来月の31日の離脱が正式に決まり、来年12月末までの移行期間を経てイギリスはEUから完全に分離することになります。
 4年に渡るすったもんだからようやく解放されるわけです。

 イギリスとEU諸国間の物と人の行き来は、日本と諸外国がそうであるように通関手続きなどありきたりで不自由なものとなります。関税もかかるようになります。
 その代わりイギリスは独自の裁量で中国や日本と取引できるわけで、特にイギリス連邦の国々、オーストラリアやニュージーランド、マレーシア、シンガポールなどとの関係を深めて、かつての隆盛を取り戻そうと考えているみたいです。

 しかしイギリス以外のほとんどの国の人々が思っているように、すでにイギリスは大英帝国ではなく、ヨーロッパのはずれの普通の国になってしまっていて、だからこそEUに加盟したのを今さら離脱しても昔ようにいかないことは火を見るより明らかです。

 それにも関わらず今回の総選挙で「今すぐの離脱」を掲げるジョンソン首相率いる保守党が勝利しそうなのは、ジョンソンさんの個人的人気もさることながら、“もうブレグジットにはうんざりだ”という人たちの一部が、
「ここまで対立が深まったら、将来、再加盟を申請するにしても、とりあえずいったんは離脱して様子を見るくらいのことをしないと先に進めない」
と考え始めたことによると説明されます。

 その考え方は理解できないわけではありません。
 私はアメリカのトランプ大統領の一から十まで嫌いですが、唯一トランプが大統領でよかったと思うのは、あのときヒラリー・クリントン大統領が誕生していたら、アメリカ国内にいつまでたっても「トランプなら何とかしてくれたに違いない」という鬱屈が溜まっていたに違いないからです。
 私たちはほんとうに堪え性がありませんから、時には自ら進んで苦杯をあおるしかないこともあるのです。

 

【どちらに転んでも国民の半数が不満という苦渋】

 明後日の総選挙も含めて、私がブレグジットを通して子どもたちに学んでほしいことは「国を二分することの危うさ」です。

 EU離脱を巡るイギリス国内の対立は、二重、三重、四重くらいに複雑で厄介なものです。
 保守党(離脱)と労働党(残留)、イングランド(離脱)とスコットランド及び北アイルランド(残留)、イングランド内の田舎(離脱)と都市(残留)、年配者(離脱)と若者(残留)、それらすべてに深い亀裂が生じています。

 同じことは合衆国でも起こっていて、親トランプと反トランプ、白人と有色人種、古い産業と新しい産業、米国中央農村部と都市部――かつて大統領の仕事のひとつは統合を守ることでしたが、今は大統領自らが分断を煽っています。

 お隣の韓国でも進歩と保守、全羅道慶尚道親北と反北は、常に五分五分で拮抗していて、どちらに転んでも半数の不満を抱えることになります。
 
 今の日本には国を二分するような対立軸はありませんが、この先、憲法改正のような重要な問題も出てきます。
 どのような問題であってどちらに転ぶにしても、国を二分してにっちもさっちもいかないよりはマシ、私はそのように思うのですが子どもたちはどう考えるのでしょう。
 聞いてみたいところです。

(参考資料)