カイト・カフェ

毎朝、苦みのあるコーヒーを・・・

「『クローズアップ現代+』(2017.02.06)が教えてくれたこと」

 昨夜(2017.02.06)の『「NHKクローズアップ現代+」〜フェイクニュース特集 “トランプの時代” 真実はどこへ』 は非常に有益なものでした。

「300万人の不法移民が不正投票した」、「オバマ政権はオーストラリアから不法移民を受け入れた」米トランプ大統領が連日のように発信するツイッターのメッセージ。テレビ局や新聞は証拠が曖昧で一方的だと指摘。トランプ大統領はメディアを「フェイクニュースだ」と批判する異例の事態が続いている。 「真実とは何か」をめぐって社会に大きな亀裂が生じているアメリカ社会の現実を見つめ、人々が信じたいものだけ信じる時代がなぜいま生まれているのかを読み解く。

 普段このブログは一日に二つの記事を載せることはないのですが、今夜その続編があるというので、急いで紹介しておきます。

【私の抱えた二つの謎】

 私は先月30日から5回に分けで「真実はネットの中にある」1 - カイト・カフェというタイトルでこの問題について考えてきました。そのとき記述したのは、

  1. 日本においてもマスメディアは不誠実な(あるいは不正確な)情報を流し続けてきた。
  2. 従って私たちは潜在的にマスコミ不信を抱えている。
  3. 一方ネットの中には玉石混交のありとあらゆる情報があり、そこには“私のマスコミ不信”に答えてくれるような情報と情報の束(コミュニティ)があある。
  4. もともとマスコミ不信を持った人間がそこに足を取られると、抜け出すことは容易ではない。

と、いったことです。そんな流れで書いたつもりです

 しかし書きながら、自分自身納得のできない面もありました。
 そのひとつは“人はどうやってそのコミュニティにつながるのか”ということです。

 実際私も「トランプはほんとうにバカなのかもしれない」と考えている人たちのコミュニティを探したのですが容易にアクセスできない――1億2700万人もいる日本で、私一人が孤独な思念にふけっているなんていったことはありえませんし、娘のシーナも一度はそう考える人たちの世界に足を踏み入れたと言っていますから絶対あるはずなのですが――なのに近づけない。
 翻って合衆国で、トランプ支持者たちはどうやってネットの中に自分の仲間を見出したのか、ということです。

 もうひとつの謎は、
 自分と同じ考え方を持つコミュニティに出会ったとして、社会を生きている限り、それとは異なる見方考え方にはどうして接しざるを得ない、自分と異なる考え、自分の信奉する情報を否定するような別の情報は否応なく入ってくるはずなのにトランプ支持者たちはどうやって遮断することができたのか、ということです。

 昨夜のクローズアップ現代+は見事にそれにこたえてくれるものでした。

【『クローズアップ現代+』(2017.02.06)が教えてくれたこと】

 要点は次の三つです。

    1. 無邪気につくられている相当数のフェイクニュースがある。
    2. 正しいニュースがフェイクに書き換えられて拡散する。
    3. アメリカ社会にはSNSを通してのみ、ニュースに接する人が相当数いる。

 まず①ですが、ネット上にはエイプリル・フールのような気軽な気持ちで作成されたWebニュースが数多く存在します。「クローズアップ現代+」で紹介されたのは“RealTrueNnews”というwebサイトで、この名を見ただけでも『ウソ新聞』であることは明らかです。
 私も覗いてみましたが、大統領選終盤にトランプ当選を恐れたオバマがISに命じてトランプを誘拐させたといった実に他愛ない、無邪気な記事にあふれたサイトです。

 ところがそんなサイト記事から、「秘密の調査によるとトランプがヒラリーを圧倒」といった部分だけがまことしやかに拡散していくのです。

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 ②は悪意に満ちたフェイクニュースです。

 番組で紹介されたのはドイツの地方紙がWeb上に発信した「年越しを祝って花火に興じる難民」という記事と、「近くの町では花火が修理中の教会の足場を燃やしてボヤになった」という記事が故意に合成され、「ドイツの地方都市で難民が暴動をおこし、国内最古の教会のひとつに火を放った」という記事になって世界数万か所に拡散した例です。
 新聞社は慌てて訂正記事を作り配信するのですが、その記事は600人弱に読まれたにすぎません。先に出て行ったフェイク・ニュースはその間も拡散し続けたのです。

 しかしなぜそんな子どもだましに類する情報をアメリカ人たちは信じるのか――そこにはアメリカならでは事情があります。それが③です。

アメリカ人はマス・メディアに接しない】

 アメリカ人の中低所得層の多くは新聞も見なければテレビも見ません。彼らの多くはネットから情報を採るのです。
 昨夜の「クローズアップ現代+」に出てきた女性の場合はスマートフォンで、SNSを通じて情報に接するだけです。ところがそこに落とし穴があるのです。

 最初、彼女はいろいろな立場の人と繋がってい様々な情報を得ていました。
 ところが情報量が多くなりすぎるとすべてに目を通すことができなくなります。そこで自分に不必要な(あるいは自分に合わない)情報は次第に遮断し始めるのです。
 そしてある日気づくと、スマホの中には自分に都合の良い情報しか入ってこなくなっています。自分に都合のよいコミュニティの完成です。

 私が謎だった情報遮断の方法がここにありました。
 自分の過ごしやすい世界は、まさにスマートフォンの中にあったのです。
 

【その流れは日本にも来るのか】

 しかしまだ残っている謎があります。それはなぜアメリカの中低所得層は新聞もテレビも見ないのかということです。
 もちろん新聞を見ないのは理解できます、お金がかかるからです。ではテレビはなぜかというと、アメリカの場合これもお金がかかるのです。

 国土の広いアメリカの場合、電波が届かないこともあってケーブルテレビは早くから発達しました。その加入率はテレビ離れの進んだ現在でも6割を越えています。
 もちろん3大ネットワークなどは地上波放送を続けていますが、2009年のアナログ放送停止の際に多くの視聴者が受像機の買い替えと一緒にケーブルテレビに加入し、その後アンテナを立て直さなかったようなのです。そして生活費に窮するとケーブルテレビの契約を切ってしまう――時代が変わり、ネット社会ではもうテレビがなくても生活できると感じた人が多かったのです。

 日本の場合、新聞を見ない時代が来ても(事実そうなりかけてもいますが)、テレビを見ない時代は来ないような気もします。しかしマスメディアが十分機能を発揮しなくなれば、NHK受信料を払いたくない人からひとりずつ、スマートフォンへの移住が開始されるのかもしれません。

 さて、今夜の放送を楽しみにしましょう。