カイト・カフェ

毎朝、苦みのあるコーヒーを・・・

「犯罪に巻き込まれる」Ⅱ〜イタリア奇行③

 海外旅行に出かけるにあたってまず守らなければならないものは、第一に命、次がパスポート、クレジットカード、大口のユーロ、続いて円、そこまでは考えていました。ですからパスポートとクレジットカード1枚、翌日以降のための現金はインナー・ポシェット(小型の頭陀袋のようなもので服の下に入れる)に入れ、それこそ“肌身離さず”持ち歩いていました。万が一のために用意したもう一枚のクレジットカードは二重にチャックのかかる上着の内ポケットに入れてあります。それでほぼ完璧なはずでした。“守るべきもの”の中に「情報」があることに気づかなかったのです。

 ローマの地下鉄でスマートフォンを抜き取られたこと自体は腹をくくれば大した問題ではありません。しかし中のLINEの投稿に、クレジットカードの画像を残したことは決定的な問題でした。しかも私はその画像の存在自体を忘れてしまっていたのです。

 ただし幸運なこともありました。
 私はもともとケータイにロックをかけるような人間ではありません。操作にワンステップ、ツーステップが入るのは面倒ですし何より他人、特に家族に対して秘密を持っているような感じが嫌なのです。ケータイにロックをかけないことは、“私は公明正大に生きてきたし、どこを探られてもやましいところはない”というひとつの表明のような気がしていたのです。
 ところが4か月前、iPhone6を買ってあれこれ遊んでいるうちに、「指紋認証」というのを発見します。これは下のボタンに指を押し当てると電源が入ると同時に指紋を認証し、ロック解除をしてくれるという優れものです。
 ほんとうに指紋を認識してくれるのか、登録したのとは違う指では開けないのか、それが試したくて何度も親指を押し当て指紋を覚えさせてロックの設定をします。これが他の面倒なものだったらすぐにも設定を解除してしまうところですが、暗証番号と違って電源を入れる操作を多少ゆっくりやればいいだけですから私は設定を解除することもなく、そのまま持ち歩いていました。ロックが嫌いなのにロックをかけたままにしていた――私にはまだまだ運があります。

 また息子と一緒の旅立ったことも幸いでした。何といっても家族ですからこき使うのに遠慮はいりません。それにアキュラのスマホだったらどんなに電話料金がかかっても帰国後の円払いです。ホテルの電話を使ってユーロで請求されたらかないませんし、いったいどのくらいかかるのかも分からないからです。かくしてここからアキュラの助けに頼ることになります。

 午後の時6時半ごろにケータイを盗まれ、その足で帰ったホテルで番号を確認して現地の旅行会社の緊急対応に連絡します。すると「とにかく一刻でも早く回線を切れ」とのこと、それから明日でいいので警察に行って盗難の証明を作ってもらえとのことです。
 後者については早々に却下。旅行保険にもケータイ保険にも盗難補償はつけていませんから行くだけムダ。仮に入っていたとしても旅行日程はあと一日です。エネルギーや時間のコストを考えれば決して有利とも思えませんし、つたない英語でやり取りして目的を達成する自信もありません。ケータイ本体の損失は早々に諦めてしまいます。けれど前者は深刻ですぐにも対応しなくてはなりません。そしてここでつまらないことが問題になります。

「国際電話の掛け方が分からない」
 さらに正確に言えば「国際電話のかけ方が分かっていない」こと自体が分かっていないのです。

(この稿、続く)