カイト・カフェ

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「炭鉱のカナリヤとペストのネズミ」~ノロ魔が語るノロウイルスと新型コロナ

 私は感染症との親和性が強い。
 罹り易いというのではなく、行く先々で流行する。
 その分、感染症には詳しいのだが、
 どうやら新型コロナウイルスは、ノロウイルスによく似ていて、
 さらに決定的に異なる部分に特徴があるようだ。

という話。f:id:kite-cafe:20200306073415j:plain(「カナリヤ」Freepikより)

【私は感染症を持ち歩いている――のかもしれない】

 若いころは、年寄りが信心深いのはお迎えが近いので神仏に頼るようになるのだと思っていましたが、自分がその年齢になったらちょっと違うように感じ始めています。

 それは長い人生経験の中で、運だとか運命だとか、因縁だとか奇跡だとか、あるいは不可思議といったことにいくつも出会い、もしかしたら不合理にも意味があるのかもしれない、神や仏、宇宙の原理といったものがあるのかもしれないと考えるようになるからです。

 昔、街で偶然、かつての同僚である若い女性教諭に会ったことがあります。赴任先が大変な水害にあったばかりのころで、思わず声をかけて「大変だったね」とねぎらうとすかさず彼女は、
「あれって、校長先生が悪いんですよね?」
 私は返答に窮しました。その校長は変な意味で悪名の高い人で、人柄はいいのに、行く先、行く先で災害が起こると評判の人だったからです。まるで悪運を連れて異動しているようです。

 かくいう私にも実は似たところがあって、ひとにはバレませんでしたが、感染症に非常に弱い。赴任する先々で何らかの感染症が蔓延するのです。

 管理職として初めて仕事をした学校では2年連続のノロウイルス禍。3年目は自ら責任を取っての我が自宅のノロ感染禍。

 次に赴任した学校では、最初の年に12月と2月に分けての2回の大インフルエンザ禍。そうかと思ったら2年目の冬はなんとA型とB型の両方のインフルエンザを交互に抱え、春が来てヤレヤレと思っていたら新型インフルエンザの年で、赴任校は市内で最初の感染者を出すこととなってしまいました。おまけに校長先生まで校長会唯一の罹患者となったのです。

 3年目は4月に入学式をやろうと思ったらインフルエンザで在校生の数が足らず、翌日からいくつも学級閉鎖を出す始末。
 中旬に何とか回復したので授業参観・PTA総会を予定通り行おうとしたら、連休明けの参観日はごっそりと児童がおらず、あんなに寂しい参観日は後にも先にも見たことがありません。PTA総会の会場にも「なんでこんな日にやったのよ」といった不穏な雰囲気が色濃く漂っていました。

 そうした豊富な体験のおかげで、私は教員としては最も経験豊かな感染症の専門家となってしまい、報告手続きや書類の書き方については後々多くの同僚から頼りにされたものです。自慢になりませんが――。

【ある意味、大したことない“ノロとの戦い”】

 ところで最初に挙げたノロウイルス禍――校内で感染した児童・教員は何%くらいだったと思います?
 ほんとうに正確なことを言うと、実は確定患者はゼロなのです。誰も検査を受けていませんでしたから。

 細かなことは浜松市の小中学校で2014年に起こった集団感染に関する、kite-cafe.hatenablog.com
kite-cafe.hatenablog.com
 ブッシュ元アメリカ大統領の「テロとの戦い」に掛けて書いた我が家の体験記、kite-cafe.hatenablog.com

 さらには今から三年前に孫のハーヴの支援に行って逆にうつされた、kite-cafe.hatenablog.com等を読んでいただきたいのですが、要するに検査に1万円前後の費用と2日間ほどの時間がかかるのに、ノロ感染は症状が厳しいわりに予後が良く、2日ほど嘔吐・下痢を繰り返しながら絶食治療をするとけろりと治ってしまうのです。医師がせっかく検査機関に検体を送っても、結果が出るころには治ってしまって患者は病院に来てくれません。検査結果を治療に生かすどころか、本人に知らせることもできないのです。

 ですから近隣にノロ感染が広がっていて、患者が38℃以上の高熱・悪寒、激しい胃の痛みと嘔吐・下痢等を繰り返していたら、「たぶんノロ感染でしょう」と言って検査なんかしないのです。
 これといった特効薬があるわけでもなく、気休めに胃薬でも渡して家に帰ってもらうほかありません。お年寄りと基礎疾患のある人、幼児は心配ですが、たいていの人はそれで治ってしまいます。

 ただし極めて感染力の強いウイルスですから、触れたものは片っぱし消毒し、特にトイレの掃除は繰り返し行うようにします。人によっては症状がなくなっても一カ月以上も便からウイルスを排出しますし、その際の便が飛沫となって周囲に飛び散っている場合もあるからです。

【炭鉱のカナリヤとペストのネズミ】

 ところで、ふと気がついたのですが、「凄まじい感染力」「ほとんどが重篤な結果に陥らず治る」「症状がなくてもウイルスを出し続ける」「お年寄りと病気のある人は心配」「これといった治療法がない」――そう並べてみると、新型コロナウイルスノロ・ウイルはよく似ていることが分かります。

 ただしノロは「子どももかかりやすく、乳幼児の場合は命に係わることもある」「潜伏期間が12時間から48時間と短く、発症する前は他人にうつす心配がない」という点で新型コロナとは違っていて、この点が決定的なのです。

 なぜならノロはかかるとすぐに発症し、すぐにそれと分かるので、周囲が警戒態勢を取り易い。最初の罹患者は炭鉱のカナリヤ()と同じ強力な警告者で、本格的な感染対策はそこから始めることになります。
*昔は炭鉱で有毒ガスを検知するために、カナリヤを連れて坑道に入ったと言われます。オウム真理教事件のときも、サリンガスを恐れた警察はカナリヤを連れて教団本部に入りました。

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 それに対して新型コロナの方は、特に若い世代で発症しないまま、あるいは発症してもごくごく軽いまま、自由に歩き回ってウイルスをまき散らすことがあるようなのです。何度も言いますが、それはまるで“自らは発症せず病原体だけをまき散らすペストのネズミ”と同じなのです。

 若い人たちに自重を求めるとともに、学校が休校になって本当によかったと思うのはそのためです。

 それ以外はノロ感染と同じ、怯えすぎることなく、しかし警告が出ないのですから、今から手洗いとうがい、その他の警戒を怠らないことです。