カイト・カフェ

毎朝、苦みのあるコーヒーを・・・

「教師が修学旅行で布団を畳ませるほんとうの理由」~旅館の布団は畳まない方がよいとの話で

 ホテルや旅館に泊まった翌朝布団を畳むのは
 従業員にとってむしろ迷惑な話だという
 それは修学旅行で教師が間違ったマナーを教えたためだというが
 なぜそんなことになってしまったのか
というお話。

f:id:kite-cafe:20190627065658j:plain

【チェックアウトの時、布団は畳まないで!】

 しばらく前のニュースに「『チェックアウトの時、布団は畳まないで!』旅館の清掃係の呼びかけが話題に。その真意とは?」(2019.06.11 Exciteニュース)
というのがありました。
 これは旅館の清掃係を名乗るTwitterユーザーが
旅館の清掃係からのお願い。
チェックアウト時は「布団は畳まないで、そのまんまで部屋を出て」ください。
丁寧に畳んで下さってる方がいらっしゃいますが、
・「布団に挟まった忘れ物チェック」と
・「結局、畳み直し」
…で、二度手間になります。
部屋はそのまま、出発のほどお願いします。

というツイートをしたところ、同じ宿泊業の関係者から、
「善意なのは分かるけど、畳まれるとめっちゃ困る」「これは切にお願いしたいです」「旅館だけでなく、ホテルも同じ」など、賛同するコメントが多数寄せられた。
というのです。

 さらに一般からも、
「なるほど!知らなかった」「目から鱗でした」「話を聞いて納得しました」など、多くの反響を呼んでいる。
とのことで、Exciteニュースが記事にした段階で、5万2000件ものリツイートがあったそうです。

 記事は最後に、
 相手を思って行っていたことが、実は相手にとって迷惑であったということはよくあること。
(中略)
 今後、旅館やホテルを利用した時には、布団は広げたまま、チェックアウトをしてほしい。
と結んでいます。

 ただこれだけならいいのですが、途中で、
しかし、私たちはなぜ旅館で布団を畳むのだろうか? 多く寄せられた意見が、修学旅行の際、先生に布団を畳むように指導されたという経験だ。「自分で使ったものは自分で片付けましょう」と先生に言われ、キレイに畳まれているかチェックされたという。筆者自身も同じような経験が確かにある。
があり、まるで先生たちが間違ったことを教えたからいかんのだ、みたいになっていてこれはカチンと来ます。
 分かっていない。

 この記事は言わば、
「宿泊業の事情に疎い人のために書いた、学校の事情に疎い人の記事」
なのです。

 確かに「来た時よりも美しく」は旅行行事につきもののスローガンですし、「自分の使ったものは自分で片付けましょう」は旅行に限らず、日ごろから口うるさく言っている指導項目です。
 しかしそれがすべてではありません。

【教師が布団を畳ませたがる真の理由】

 教師が宿泊行事で布団を畳ませたがる最大の理由は、まさにツイッターの清掃係さんと同じ、
「布団に挟まった忘れ物チェック」
なのです。

 教師たちは、朝の集合とあいさつの真っ最中に、生徒が、
「先生! サイフがない!」
とか、
「腕時計がなくなりました」
とか、
「部屋に水筒を忘れてきたみたいです」
とか言い出すのは最低だと思っています。
 そこで費やす5分~10分の遅れが後々どんな災厄につながるか分からないからです。もちろん10分で見つかる確証があればいいのですが、そんな確実ななくしものなどあるはずがありません。
 また「先生! サイフがない!」の声を聞いてそこからバッグを開いて確認し、「私もない!」と言い出す子が出てくるとさらに多くの子がバッグを広げ始め、図らずも持ち物確認が一回増え、今度はそのこと自体が時間を遅らせます。
 それで例えば新幹線に乗り遅れでもしたら、引率する160人の席はどう確保すればいいのでしょう?

 だから教師は旅館やホテルを出るとき絶対に忘れ物をさせたくない。仮に「先生! サイフがない!」と言い出す子がいたら、
「部屋は空っぽなんだから絶対バッグの中にある。バスに乗ってから荷物を全部開いて、もう一度探し直せ!」
と言えるようにしておかなくてはなりません。
 万が一ということもありますから、部屋に戻ってざっと目で確認するぐらいのことはしなければなりませんが、“ざっと目で確認”できるためには相当きれいに片付けられていなければならない。
 それがあの「畳み直し、やり直し」の意味なのです。

 だからこの件で学校を徹底的に叩くと、教師はいったんきちんと畳んだ布団をもう一度敷き直すしかなくなります。いわば旅館ホテルに押し付けていた二度手間を学校が背負うだけで、その時間はもったいない。生徒の心にも二度手間を強いる教師への不審感が芽生えます。

 しかしこれは修学旅行に限ったことではないでしょう。大人になっても布団を畳みたがる人の中にもきっと「忘れ物チェック」のためにやっている人が多くいるはずです。
 特に家族で行く温泉旅行のようなゆったりとした旅では、部屋に滞在する時間が長い分、何を出してどこに置いたかなどはどうしても忘れがちです。部屋を出る際に布団を全部上げて、シーツをパタパタと払って畳んでしまえば、たいていのものは出てきます。広くがらんとなった部屋では、そのあとで忘れた物も見つけやすい。

【理由はそれだけではない】

 ただし私個人について言えば「忘れ物チェック」よりももっと重要な理由があります。
 それは美学の問題なので他の人と共有できなくても構わないのですが、旅行行事で布団を敷きっぱなしにするとほとんどの布団が子どもたちによって踏みつけにされる、それが私には我慢ならないのです。

「布団は足で踏んではいけません」というのは小さなころから教えられてきた最低の躾で、衛生面からも理由のあることです。それが平気でできるのは、トイレに行った足で踏みつけられたシーツに、深夜知らないうちに唇をつけてしまっている自分が想像できない人で、やはりおかしい。「だから寝る前の布団は踏んではいけないが、朝の布団は踏んでもいい」と考える人は合理主義者ではありますが道徳の何たるか、人間の何たるかを知らない人です。

 一部屋にぎゅうぎゅう詰めに生徒を入れている修学旅行はもちろん、家族旅行だって布団の敷かれた部屋では歩くける部分が極端に少なくなります。従業員のために布団は敷いたままでいちいち避けて歩けばいいのですが、それはあまりにも面倒。
 学校行事となればなおさらで、朝は急がせていますから「布団を踏むな」という指導も徹底できません。
 だから踏むのはしかたないと考えることもできますが、それでも私は嫌なのです。従業員の方に迷惑をかけても、布団は畳んで踏ませないようにしたい。

【さらに別の理由もある】

 新婚とは言えないものの夫婦としての年月が浅いころ、ふたりで泊まったホテルのツインルームで、翌朝、妻がせっせとベッドを直しています。まるで使用前のベッドメイキングみたいな丁寧さなので笑って、
「そこまできれいにする必要はないじゃないか」
というと、妻は困ったような顔をして、
「だってゆうべ何かあったかって、人に想像されるのってイヤじゃない」
と答えます。

 要は私の寝相が悪すぎて妻の寝相が良すぎることに問題があるのですが、わざわざ妻の方のベッドまで荒らすこともないでしょう。両方ともきちんと整えればいいだけです。

 そのときは“おや、おや、この人にはこんな慎ましいところもあったのか”と感心しましたが、引用した記事の趣旨からするとホテルの従業員の煩わしさを考えないワガママ者ということになるでしょう。

 そろそろイライラしてきました。
 私は本来そういう言い方をする人間ではないのですが、ついつい口走りたくなります。
「布団を畳むか畳まないかなんて、どちらでもいいじゃないか。こっちは金を払ってるんだ、好きにさせろよ!」

 失礼しました。
 だめですか?