カイト・カフェ

毎朝、苦みのあるコーヒーを・・・

「金の卵を探す」~福岡県の「(スポーツ)タレント発掘事業」について

 少し古い話になりますが、10月14日体育の日、NHKの9時のニュースで面白いものをやっていました。「核心:埋もれた“金の卵”を探せ」という特集です。それによると福岡県は10年前から「タレント発掘事業」というのを行っており、優秀なスポーツ選手を掘り出そうとしているのだそうです。

 まず県内の小学校5年生から中学校3年生までにおよそ20種の運動能力テストを行わせ、瞬発力や持久力反射神経など測定します。そして成績の上位の子どもを選抜、その子たちに個人種目からチーム種目まで最大28種の競技を経験させ、才能を見極めるというのです。
 番組の中で紹介された高校3年生の末本佳那という選手は、このテストで射撃の才能を発掘された人です。

 もともとはバスケットボールが専門でバスケ大好き少女だったのですが、とてもではありませんが国際試合を目指せるような選手ではなかったようです。それが「タレント発掘事業」で才能を見出された射撃よって、今年1月、オーストラリアで開かれた国際大会ではみごと銅メダルに輝いたのです。
 今では東京オリンピックで競技している自分や表彰台に立っている自分は想像できる」と言うほど自信にあふれた末元さんですが、実は、
「小さいころから集中力はない子だったので、“じっとしていられない子”とお母さんも言っていて…」
と言うように、スポーツテストがなければ自らの才能にまったく気がつかなかった人なのです。
「でも、射撃のときは集中しているなと。(適性は)自分では絶対分からなかったから、すごい自分でもびっくり」

 例えば北島康介が水泳をやらず、体操競技に進んでいたらどうなっていたか・・・。
 もちろん答えは不明です。「北島ほどのアスリートなら体操でも金メダルを連発していたろう」というのも説得力がありますし、「いや、そこそこの選手にはなっただろうが、金メダル連発というわけには行かないだろう」、それも説得力があります。しかし「選択を誤ったばかりに凡人のまま終わった無数の『金の卵』は、絶対にあったはずだ」ということはほぼ確実なことのように思われます。

 何もスポーツに限ったことではありません。私たちの前には無数のタレントを持った子供たちが大勢いるはずです。また、福岡県の「タレント発掘事業」も手を学術・文芸に伸ばすものではありません。だとしたら誰かがそれを発掘しなければならないのですが、今のところ日本国内でそれができるのは親と学校教師ぐらいしかいません。
 もちろん人は能力のみで人生を決めるものではなく、能力はなくともやりたいことのある子も少なくありません。最後の選択は自分がすればいいことです。私たちのできることは、その子の前にできるだけ多くの可能性のカードを広げてやることだけです。しかしそれも並大抵のことではなさそうです。