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「60歳以降の教師の働き方」~今月定年退職する先生方へ②

 年金支給が65歳まで引き上げられたのに、
 定年延長は容易に追いつかない。
 そこで教師の60歳代は、とても複雑になった。
 とりあえず、見てみよう。
という話。(写真:フォトAC)

【教員の定年って何歳? 定年延長って何?】

 公立学校の教員(公務員)の定年がいつかという問題、当事者以外は案外分かっていないかも知れません。現在は61歳です。もうすぐ終わる今年度(2024年度)中に61歳になった人がこの3月に定年退職になります。
 ところがそれより一歳年下で、来年度(2025年度)61歳になる人は来年度から定年が62歳に引き上げられるため、2026年度末まで働くことができます。さらにもうひとつ年下の、2026年度に61歳になる人は、翌2027年度末に62歳で定年と思いきや、この年から63歳定年になるので、2028年末まで在職することになります。
 だいぶ分かりにくいですが、そんなふうに2年ごとに定年年齢がひとつずつ上がり(2023年度=61歳、2025年度62歳、2027年度=63歳)、2031年から65歳定年になって、以後、大きな制度変更のない限り65歳定年のままです。

 なぜ65歳かというと、公務員の年金支給が65歳からということになっているからです。定年が65歳まで引き上げられると給与から年金へと、収入が間断なく続くことになります。けれど現在のところ定年は61歳で、年金受給まで4年もの空白があります。そのままだと収入が途絶え、生活できない人も出てくる可能性があります。どいうしたらよいのでしょう。

 そこで出て来るのが「暫定再任用」という制度です。定年から年金受給の65歳までの空白期間を、本人が希望すれば再任用しましょうという制度です。「暫定」というのは65歳定年制が完成する2031年以降はなくなってしまうからです。

【定年延長に留意点三つ】

 留意点が三つあります。
 ひとつ目は、そんなふうに定年年齢は繰り上がって行きますが、役職はいったん60歳で解かれるということです。それを「役職定年制」といいます。理屈上は校長先生も副校長(教頭)先生も、ヒラに戻って現場の最前線に立ってもらうことになります。それがいやなら役職定年の60歳で早期退職してもらうしかありません。その場合、定年(61歳)前の退職ということになりますが、自己都合による退職と同じにならないよう、記録上は「定年退職」として扱われるみたいです。
 役職定年制については、東京都のように慢性的に管理職の不足している自治体もありますから、そうしたところでは実施しないということもあるのかもしれません。

 ふたつ目は定年延長後の60歳を過ぎてからの給与は、60歳時の給与の7割程度にカットされるということです。これは民間に合わせた処遇で、一般に「60歳を越えると生産性が落ちる」という考え方から来ているものです。3割カットは痛いですが、以前の再任用制度では5割カットでしたから、それよりはマシといえます。

 三つ目は退職金です。退職金というのは退職時の給与及び調整額から算出されるものです。しかし定年延長で3割カットになった給与をもとに計算されたら、とんでもなく目減りしてしまうことになります。そこで退職金に関しては計算上のピーク(普通は60歳の最後の月)の給与をもとに計算し、うしろ倒しで退職時にもらうことになっています。細かな計算については各自治体に問い合わせてみるといいでしょう。

【教員の60歳以降の働き方】

 なかなかややこしいのですが、今年度(2024年度)59歳、来年度(2025年度)60歳を迎える先生たちが、「この先も生きて元気でいる限り、ずっと教職を続けたい」と希望した場合、どんな雇用形態でどんな働き方になるか、簡単にまとめてみましょう。

  1. 2025年度末(60歳)
    60歳になった年度を最後に、役職についていた人は役職を解かれ、その年の最後の給与と調整額を元に退職金が計算されます。校長先生も来年度は学級担任です。できるかな?
  2. 2026年度(61歳)
    一般の教員としてフルタイムで働くことになりますが、給与は3割カット。年度中に61歳の誕生日を迎えますが、前の年(2025年度)から62歳定年制が始まっているので、もう一年長く働けるような気がしています。
  3.  2027年度(62歳)
    いよいよ定年退職の年と思いきや、2027年度から63歳定年制になるのでもう一年そのままです。
  4. 2028年度(63歳)
    ついに定年退職の年。よくここまで頑張ってきました。年度末には退職しなくてはなりません。しかしまだまだ年金受給まで2年もありますし元気です。そこで暫定再任用制度に手を挙げることにします。
  5.  2029年度(64歳)
    暫定再任用で給与は60歳時の半分。モチベーションはだいぶ下がりますが再任用職員は正規職員。福利厚生等は現職の時と同じですから、家でボーっとしているよりはマシです。
  6. 2030年度(65歳)
    年度中に65歳となり、いよいよ年金生活が始められます。しかしここまで働いてきてつくづく思うのは「まだまだ働ける」「まだまだ働きたい」ということです。しかし暫定再任用期間はもう終わり。
  7.  2031年度(66歳)~
    考えてみたら「講師」というテがありました。正規採用ではありませんが福利厚生に大きな差があるわけでもありません。また働き方によっては5割カットの再任用職員より収入の多い場合だってあります。
    いや、そんなに収入はいらない、もう少し気ままに働きたい。そういうことであれば希望にふさわしい時短勤務など、様々なバリエーションも取り揃っています。産育休代替のような不定期も都合いいかもしれません。それらをうまく利用しながら、動ける間は動いていましょう。慢性的な講師不足の昨今、歓迎されるのは間違いありません。

 いま挙げた例は2024年度中に59歳になった教員の話で、今日の記事のサブタイトルにつけた「今月定年退職する先生方」とは多少状況が違っています。今月定年退職される先生方がいるのは、箇条書きの4番目のおしまい――暫定再任用制度に手を挙げて学校に残るかそれとも別の世界に進むかという岐路のところです。

【実は私の場合は――】

 実は再任用制度は私の退職する前の年から始まったものですが、私自身は手を挙げず、60歳定年の後は別の仕事につきました。指導の最前線を離れて10年も経っていましたから、子どもたちと一緒にやっていける自信がなかったというが一番の理由ですが、先輩や周囲からこうも言われていたのです。
「再任用というのは給与こそ半額だが正規職員だぞ。そんなところにオマエが手を挙げたらどうなる? オマエのために有望な若者の座る席が、ひとつなくなってしまうのだ――それでいいのか? 正規にしろ講師にしろ、若い志願者のためにきちんと席を空けておく、それが俺たちの役目だろ」
 特に管理職経験者は進んで道を空けるのが当然と考えられていた時代です。だから私は道を空けたという面もあります。
 ところが私の次の年には、管理職経験者が続々と再任用に応募するようになり、再任用期間を終えても講師として働き続ける人が大量に出て来たのです。

 騙されたと恨みごとを言いたいのではありません。教員希望者が枯渇して、校長・副校長(教頭)経験者も総出で支援しなければならないほどの教員不足が来るなんて、直前まで誰も考えていなかったという話をしたのです。
(この稿、続く)