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「校長先生! いまさら学級担任の仕事、務められますか?」~公務員の定年延長が始まった

 来年度から、公務員の65歳定年制への移行が始まる。
 しかし調べてみると厄介なことも多い。
 教員採用試験の倍率低下には歯止めがかかるかもしれないが、校長先生方、
 アナタ、今さら教育の最前線に戻れますか?

という話。

(写真:フォトAC)


【公務員の定年延長始まる】 

 2023年度より10年がかりで公務員の定年延長が計られます。来年度(2023年度)中に60歳になる昭和37年生まれの人が61歳定年、再来年度(2024年度)60歳になる昭和38年度生まれが62歳定年となって、2027年度以降に60歳になる人はすべて65歳定年となります。
 見かけ上は2023年~2024年の間が61歳定年、2025年~2026年が62歳定年と、2年ごとに1歳ずつ引き延ばすことになるので65歳定年が完成するのが2032年。だから「10年がかりで」という言い方をすることもあるのです。
*以前、ここで間違った数字を出しましたので確認してください。

 本給が60歳時の7割となり、役職定年制も導入されますので、学校の場合、校長・副校長・教頭は任を解かれ一般職として続けることになります。もちろんそれを機に早期退職してもかまいません。
 例外規定もあって、東京都のように管理職が不足している自治体では引き続き現在の役職を続けることもできます。該当の方はよく確認しましょう。

 ただし今さら現場に戻る自信がないという人はおやめになった方がいい。再任用制度の始まるずっと前の話ですが、定年退職を機に講師として現場に戻った元校長先生が、わずか3カ月で学級崩壊、うつ病を発症して半年足らずで現場を去ったということがありました。とても立派な方でしたが、10年も最前線に立ったことのない老兵が、いきなり銃を手にしてもたいへんなのでしょう。
 しかも現在は小学校英語だのプログラミング学習だの、戦場そのものが変わっています。日ごろから校長職をサボって(と言ったら言い過ぎですが)あちこちの教室に入り込み、一緒に勉強をしてきた先生なら別ですが、校長室でふんぞり返っていたような人はやめた方がいい。晩節を汚してはいけません。

 こんな私でも退職後のしばらくは「講師がいなくて困っているが、来てくれないか」という相談を、現職の校長先生からたびたび受けました。しかし相手がどれほど困っていても、要請に応じることはありませんでした。遠からずもっと困るような立場にする可能性があるからです。そうなったら、さらに申し訳ない。

【暫定再任用と再任用、そして退職金】

 従来の再任用制度は「暫定再任用」と名前を変えて継続されます。
 現在61歳以上で「再任用」と呼ばれている先生たちも名前を変えて65歳まで働き続けることができるわけで、名前以外は何も変わりませんからここから先はどうでもいい話です。

 来年度末延長された61歳定年で2024年度末退職される先生は、希望すればそのまま(62歳以降も)再任用教職員として働き続けることができます。65歳定年制度完成までのつなぎの制度ですのでこれを「暫定再任用」と言います(そこまでの「再任用」の名前を変えただけです)。
 ただし給与は今の「再任用」と同じで60歳時の5割程度。つまり60歳までの10割から新しい定年までが7割、そこから暫定再任用の5割と下がっていく状態で、意欲的に働けるかどうかは不明です。

 また今年度(2022年度)3月までに退職して再任用に応募した先生(現在再任用と呼ばれている人たち)は、いつまでたっても5割給与だというのに、後輩の今年度59歳は来年度再来年度の2年間は7割給与、1・4倍も貰うわけですから不公平感は否めません。しかし我慢しましょう。若い教師と違って2度も更新講習を受けさせられたという点では、同じ被害者なのですから。

 定年延長で給与が7割に減ったからと言って、その金額で退職金が計算されるわけではありません。60歳までの給与・年数でいったん計算され、それ以降の分は別計算で足されますからご安心ください。そのほかの細かな点については、次のサイトで確認するとよろしいでしょう。
国家公務員法等の一部を改正する法律 改正の概要~定年の引上げ等について~

【学校への影響1:教採の倍率低下に歯止めがかかるかもしれない】

 さて、この定年延長が学校にどういう影響を与えるかというと、ひとつ考えられるのは60歳を過ぎても辞めない先生が大幅に増えるのではないかということです。5割なら別の再就職を考えるが7割なら続けてみよう、そういう人も少なくないように思うのです。

 すると向こう10年間、新規採用者の枠が減ります。枠が減ると必然的に採用試験の門が狭まり、倍率が回復する可能性が出てきます。もしかしたら優秀な人材を採用できる、これが最後の10年かもしれません。黄金の10年。

 倍率が回復したことにほっとして、教員の働き方改革をサボって問題を先送りするか、10年の余裕の間に教職員が「毎日明るく、楽しみに登校してくる学校」(なんだか学校教育目標みたい)を実現するかは、私たち、市民・有権者の考え方次第です。


【学校への影響2:管理職の立場が難しくなる】

 管理職の立場は厄介になるかもしれません。
 私は先ほど「管理職の先生方は10年以上も最前線にいなかったのですから、よほどの自信がない限り、現場に残るのはおやめなさい」と言いました。しかしそうなると65歳までの無年金期間をどう過ごしたらよいのでしょう。もちろん良い再就職口があればいいのですが、なければ残らざるを得ません。

 定年延長の7割給与はかなり魅力的です。60歳の校長という給与表で最高位にある人の7割ですから結構な額になるでしょう。それに匹敵する再就職口など、簡単に見つかるはずがありません。5割だって難しいくらいです。
 現在の60歳は晩婚時代の先駆けですから、退職時のお子さんがまだ学生という人もすくなくありません(私がそうでした)。自分の食い扶持だけでなく、仕送りのことも考えなくてはいけません。

 もうしばらく働くしかない、なのに現場に戻る自信はない。十分な収入を得られる再就職口もない――どうしたらいいでしょう。そこで思いつくのが、
「そもそも管理職になんかなったのがいけなかった」
ということです。私もそう考えました。
 教頭や副校長は殺人的な忙しさですが面白さもハンパではありません(校長はつまらない)。しかし生活を考えれば、現場を離れず、担任として授業や生徒指導をし続けることこそ、人生設計として選ぶべき正しい道筋だった――。

 現在も一部の自治体では管理職離れが進んでいて、再任用校長に頼らざるを得ない状況があります。
 もう30年近く以前のことですが、管理職登用試験受験を強要された教諭が自殺で抗議したという事件もあったりしました。
 65歳定年制への移行を機に、もう一度自分の人生設計をし直してみることも大切でしょう。仮に60歳を過ぎても管理職が続けられるよう制度が変わったとしても、現在50歳ですでに校長先生になってしまったア・ナ・タ、首を洗って過ごす生活を、今後15年も続けられますか?