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「平成の米騒動は再現されないが、それでも米不足は起こる」~備蓄米とコメ不足の話

 昨年の米の作況指数は平年並みの101、
 それなのにこの夏はなかなか深刻なコメ不足が起こっている。
 米はどこへ行ったのか、
 備蓄米もあるというのに、今後も同じことは起こるのか、
という話。(写真:フォトAC)

【1993年:平成の米騒動とは】

 昨日ちらっと触れた「平成の米騒動」というのは1993年(平成5年)の記録的冷夏に起因する極端なコメ不足のことを言います。その2年前の1991年6月、フィリピンのピナツボ火山で起こった噴火は20世紀最大の火山噴火と言われ、その影響が冷夏となって1993年に現れたのだと言われています。
 とにかく寒い夏で、まだ三歳だった娘のシーナを市民プールに連れて行ったはいいものの、水に入ってわずか5分で唇が紫色になってしまい、そのまま帰宅したことを覚えています。それでも暖かな日を選んで行ったのですが。
 
 余りの寒さと日照不足のために「今年の米はダメみたいだ」という噂の流れだした8月中旬には早くも米が不足し始め、凶作が決定的になると米屋やスーパーから一斉に米袋がなくなってしまいました。
 9月になると政府が外国産米の緊急輸入を発表して、実際にタイやアメリカから大量の米が輸入されたのですが、始めて食べるタイ米はこれまで口にしたことのない長粒米(インディカ種)で、粘りもなければモヒモチ感もなく、チャーハンやピラフにするとおいしいのですが、普通の日本の食卓には全く合わないとんでもない代物でした。
 最終的に発表された作況指数は「著しい不作」の基準である90を大きく下回って74。影響は翌94年の秋の新米が出るまで続きました。

【令和のミニ米騒動

 ただ単純に考えると作況指数74は平年の74%しか米が収穫できなかったという意味ですから、逆に言えば例年の4分の3も確保できていたわけです。当時の日本人は今よりはるかに米飯中心の食生活をしていて、三食とも米飯でなければ気が済まないという家も少なくありませんでした。ですからせめて93年~94年にかけての1年間だけでも、日本中の家庭が1日3食の米飯をやめて、パンか麺に切り替えるだけで、おそらく米騒動は収まったはずです。それが一粒も出回らなくなったわけですから、コメ不足の要因は単なる天候不順だけではありません。
 
 現在進行形の今年の米不足も単純な話ではないようです。なにしろ昨年(2023年)秋の米の作況指数はなんと101。一昨年より1%余計に収穫できていたのです。*1それなのにシーナの言うとおり「スーパーに米がまったくない」という状況があるとしたら、そこには特別な理由があるはずです。
 現在ウワサされている要因としては次のようなものがあります。

  1. 昨年から続いている小麦の異常な価格高騰がコメの相対的な安さを際立たせ、一時的な米飯回帰が進んで需要が高まったから。
  2. コロナ禍明けの外食ブーム、およびインバウンドの復活で、飲食店の売り上げが伸び、特に高級米の需要が高まっていた。
  3. しかし供給側では、作況指数こそ101と一昨年よりも高かったものの、1等米の比率は前年より16.2ポイントも低い59.6%と過去最低、高級米市場で実質的な米不足が起こっていた。

 つまり全体としては足りているはずなのに、1等米から順次足りなくなっていき、一部の人々が「買い占め」「売り控え」に走ったため、今回の米不足は起こったと言われているわけです。
 もっとも平成の米騒動とは違って、今回は待っていればいずれ市場に米は出て来ることがはっきりしていましたから、ミニ米騒動という程度の騒ぎにしかなりませんでした。しかし将来はどうでしょう?
*1:「『作況指数』というのは、10アール当たりの平年収量を100として、その年の収量を表す指数ですので、作付面積が減少していた場合は作況指数101でも1%増えたことにはならない」という指摘がありました。この件は私の不勉強で、ご指摘の通りです。コメント欄に詳しいのでご確認をお願いします。

平成の米騒動は再現されない】

 昨日はタイトルに「私たちの子どもたちは、本格的な令和の米騒動を乗り切れるか」と書いて少し大げさに言いましたが、実は10年に一度の凶作にあっても平成の米騒動のようなことにならないよう、政府は対策を打っているのです。
 1993年の騒動に懲りた政府は法律を定め、1995年から毎年20万トン超の米を購入して5年間で計100万トンを備蓄するようにしたのです。6年目からは毎年20万トンを購入すると同時に5年前の購入分を20万トン、飼料として安く放出します。その費用は倉庫代など保管などにかかる経費が113億円、購入費と販売費の差額がマイナス377億円で計490億円。これだけの税金が、備蓄のために毎年つかわれているのです*2
 したがって1993年並みの凶作が起こっても「平成の米騒動」は再現されないと考えるのが常識的な見方です。安心してください、(倉庫に)入っていますよ。
 ただし米の流通は単純ではありませんから、「米はあるのに米不足」という今回の令和の(ミニ)米騒動は今後も繰り返される可能性はあります。
*2:政府の備蓄米には大災害に対する備蓄という意味合いもあって実際に東日本大震災熊本地震でも数万トンが放出されています。

【コメはどこへ行ったの?】

 せっかく備蓄米があるのに、今回の米不足に備蓄米が放出されなかったのはなぜか。スーパーをあちこち探し回った人たちからは不満の声が上がっています。一説には高騰した米価を急落させたくなかった、そうやって農家・業者を守りたかったからという話もあります。しかし基本的には実際の米の量が十分足りていたからなのでしょう。ここで政府が備蓄米を放出してしまうと一カ月足らずで放出分が余り始め、最終的には廃棄されることになります。それはそれで批判対象になるでしょう。
 米不足がいわれ出して実際にスーパーから米袋が一袋もなくなっても、一カ月も凌いでもらえば新米は出てくる、そこまでは自助努力で頑張ってもらおうというのが政府の腹です。したがって「私たちの子どもたちは、本格的な令和の米騒動を乗り切れるか」という問題はやはり残っているのであり、どこかに独自のルートをもっている人は米不足のうわさが広まっても、安心・安全、悠々自適、泰然として日々を過ごせるはずなのです。