カイト・カフェ

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「教職が子ども相手の楽な仕事で、高収入だと思われていた時代の話」~少子高齢化が教員の働き方改革を阻害する①

 つい数年前まで、教職は子ども相手で楽な、
 高収入の、安定した仕事だと思われていた。
 だからいくら負担を増やしても、誰も心傷まなかった。
 その時のツケが、今、回り巡って来た・・・
という話。(写真:フォトAC)

 先週の水曜日(12日)のこのブログで、明治時代、近代化を急ぐ政府は国民を説得してその子女を学校に出させた、いわば国民にお願いして学校に来ていただいたわけで、そんなところから学校教育は丁寧で、至れり尽くせりなものとならざるを得なかった、というお話をしました。翌13日はその続きで、
「しかし現在は明治とは違った意味で、懇切丁寧で至れり尽くせりの教育が必要とされるようになっている」
というお話をするつもりだったのですが、10日のNHKクローズアップ現代「悲鳴をあげる“官僚”たち 日本の中枢で今なに」で、残業手当があるにも関わらず時間外労働が収まらない官僚の話が出て来て、しばらく浮気をしました。
 今日は時間を巻き戻して、12日の続きから始めようと思います。

【教職が子ども相手の楽な仕事で、高収入だと思われていた時代の話】

 ここ数年、教職がほんとうに大変で、多くの教師が過労死基準を越えて働いているのに残業代も出ないということが、「定額働かせ放題」という便利な言葉とともに知られるようになってきました。けれどほんの数年前まで、教職は子ども相手の楽な仕事で、待遇的にも一般公務員よりさらに恵まれた高収入の職業だと信じられていました(子ども相手だから楽だという誤解は今もありますが)。

 私のこのブログにも2005年の財政制度審議会で分科会長が「教職員をあまりにも優遇しすぎた。この制度は現実離れし、既得権益になっている」と語ったという記録が残っていますし*1、翌2006年には、文科省「仕事をしてもしなくても貰える4%の調整額は闇給与だ」という世間の批判に応えて、「時間外手当の導入や、年功主義をやめて能力・業績を本格的に給与に反映させることなどを検討する」という方針を示したことも記録しました*2

 ところが調整額を廃して残業手当の支給に方向転換をしようとして試算したところ、残業手当創設のための予算は当時の調整額予算1,800億円をはるかに超えて、5,000億円も必要だと分かったのです。そこで文科省は慌てて口をつぐみ、密かに引き下がってしまったのです。
 それはそうでしょう。調整額は月8時間の時間外労働に相当するもので、すでに過労死基準を越えて80時間以上も働く教師が半数以上になっている状況で、残業手当など導入したら、どれほど抑圧しようと一人30時間分~40時間分の残業手当は必要になります。5,000億円の試算は、むしろ低すぎるくらいです*3

【民間があまりに悲惨だったあの時期、公務員は引いた】

 今、記録を残した2005年~2006年(平成17年~18年)と言えば第三次平成不況(2000年~2002年)からようやく脱しようとしていたものの、まだまだ先の見えない時代です。実質的な経済状況より気分の方が大不況を引きずっていました。いわゆる就職超氷河期世代というのは1993年から2005年にかけて卒業・就職活動をしていた世代ですから、その人たちや保護者から見れば、当時の公務員、特に教育公務員はとんでもなく恵まれているように見えたのかもしれません。

 好待遇に恵まれながらさっぱり仕事をしない(と思われた)日本の教育は、「すでに死んだ」と蔑まれ、したがって再生のための荒療治が必要でした
 そしてその時期、「教育再生」の名のもとに教員の仕事はどんどん増えていきましたが、そのことに危機感や抵抗を感じる人はほとんどいませんでした。社会的に恵まれない人々は、公務員が自分たちの要求に応えるのは当然だと考えるようになってきましたし――というより、むしろ学校や教委の方から、積極的に恭順の意思を示し要求を先取りさえし始めたのです。
 さらに言えば30倍近い教員採用試験を潜り抜けたエリート教師たちは、初任でほとんどド素人であったにもかかわらず、その重荷を軽々と背負えたのです。
 生活科、総合的な学習の時間、キャリア教育、そのほか環境教育を始めとする各種追加教育はすべて平成になってから始められたものです。総合的な学習の時間や特別の教科道徳の評価をすべて文章でするという無謀や、教員評価・学校評価、教員免許更新制度などといった無意味も、全部この時期に始められました。

少子高齢化が教員の働き方改革を阻害する】

 2013年に始まるアベノミクスによる景気回復は、すぐさま新たな時代の大きな課題を浮き彫りにしました。少子高齢化です。
 中でも労働人口の減少・不足は深刻で、介護・看護など医療の現場はいきなり人手不足に陥り、やがてIT業界・自動車整備等「メンテナンス・整備・検査」「建設業」「製造業」「運輸業」などへと飛び火していきます。2020年からはそこにコロナ禍が被さり、外国人労働者が入国できなくなると、問題はさらに深刻になっていきます。もはや誰の目にも労働者不足が将来の経済発展の足枷になること、今後どのように景気回復を計っても必ず足を引っ張ることは明らかでした。

 そしてこのことが、結局、教員の働き方改革を阻害するのです。
(この稿、続く)