さまざまな職種の女性が一斉にZoomの招待に応えられる――。
Zoomはいつの間にこれほど一般的なものになったのだろう。
遅れを取った私たちは慌てる。
しかしがんばって追いついたとしても、技術は一回しか使えないのだ。
という話。(写真:フォトAC)
【Zoomはすでに常識!?】
妻の加入する生活共同組合の班長会が、オンラインと会場のハイブリット(なんで「両用」とか「同時活用」とかいった日本語にしないのか)で行われることになり、希望を募ったら25名全員がオンラインだった、という話を聞いて私がショックを受けた話をしました。
これが日ごろ班長会で使い慣れたLINEのビデオ通話で行うならまだしも、「Zoom(ズーム)」という専用アプリでやると言うのでびっくりしました。自分がすでにIT弱者となりつつあることは分かっていましたが、まさか「Zoom」が「スマホ」と同じくらい世間一般に広まっているとは、夢にも思わなかったのです。
もちろん現職の教員である妻もオンライン授業やリモート研修でZoomには慣れ親しんでいます。ところが聞けば授業や研修のセッティングはいつも担当者にやってもらい、自分はカメラの前でしゃべったり師範をしたりするだけで操作についてはなにも知らないというのです。Zoom使いにもいろいろあるのです。
そう考えると先の25人――いや妻を除いた24人は、主体的にZoomに関わってきたわけで、いったいどういう背景を持った人たちなのか、ひとりひとり探ってみたい気にさえなりました。
【私の場合】
さて私はというと、一度だけ使ったことがあります。
半年ほど前に大学時代の仲間とオンライン飲み会をした際、LINEのビデオ通話で始めたところ画質が悪かったりいろいろ不都合もあり、ひとりが「Zoomでやろうぜ」と言い出して招待メッセージを残してさっさと退出し、もう一人がすぐさま後を追ったのです。
私を含む残された4人は困ってしまいました。しばらく待ったのですが二人はいつまでも帰ってこない。ZoomミーティンのURLを残していかれても経験のない者にはなすすべがありません。私は残ったメンバーと話しながらあれこれ考え、試しに招待メッセージの中のURLを叩くと、ナント、自動的にアプリが立ち上がり、主催者の許可を待つ画面になったのです。たまたま1年前にインストールして放置したままだったZoomが稼働した瞬間です。
許可が出て入ると、
「お、T君も来たか」
と歓迎されますが冗談じゃない。私はたまたま入れたが、他の三人はアプリのダウンロードから始めるしかない。
「時間もそんなに残っていないんだから、多少勝手は悪くてもLINEで続けようぜ」
そう言って二人を連れ戻したのです。
それがZoomを使った最初で最後、一度だけの体験です。
【Zoom!あっぷあっぷ】
しかしどんなことにも初めてはある。私は妻のコンピュータとスマホの両方にZoomをインストールし、繋げてみると案外うまく運びました。
私のコンピュータから妻を招待し、妻はどちらも使えるようにとコンピュータとスマホで参加する練習をし、それでも不安だったので東京にいる娘に主催者になってもらい、三人でミーティングの練習をして準備万端、本番を迎えました。
ところが・・・。
Zoomをやり慣れている人なら常識だと思うのですが、ミーティングへの招待はいくらでも早くできるのであって、妻のLINEにはすでに一週間前からURLが送られてきていたのです。私はそれを知らず、ギリギリまで招待が来るのを待っていたのです。あとから考えればアホな話ですが、知らないというのはそういうことです。そのために直後の不都合に対応が遅れます。
すでに招待が来ていることに会議開始の10分前に気づき、練習したように急いでURLをクリックすると、あれ? 過去三回の練習では見たことのない画面が出て先に進めません。
「zoomはご使用のブラウザではサポートされていません」
妻のスマホのブラウザはSafariです。対応していないはずがありません、と言うか練習ではできたじゃないか・・・というか、そもそもZoomアプリで練習したのだからブラウザは関係ないじゃないか・・・と、そこからはほぼパニックです。会議開始まであと5分。
【答えは難しくなかった】
間違いの詳細を書いても意味がないので省略しますが、ヒントがあるのではないかと妻のLINEのやり取りをあちこち探し、それらしいURLを見つけて叩くとZoomのダウンロード画面に誘導され、あるいは娘との練習の際のミーティングにうっかり入ってしまい、あるいは全文英語のわけのわからないページに入ったり・・・30分近く悪戦苦闘してようやく会議に参加することができました。
終わってみれば答えは簡単で、URLをクリックして入れなかったらその下に書いてあるミーティングIDとIDをメモし、Zoomアプリを立ち上げて窓に書き込めばいいだけのことでした。Zoomへの入り口は二つも三つもあるのです。
そのあとは順調でしたが、すっかりビビってしまった妻はLINEメッセージにあった「生活音を遮断するために、発言するとき以外は音声をミュートにしてください」という注意書きに対しても怯え、きっと唇を噛んでひとことも発しないという極めてアナログな方法で対処したみたいです。下手なところを触って終了になっても困りますから・・・。
【高齢者の俺たちに明日はない】
新しいことを始めるのに、みっともなかったりカッコウ悪かったりすることには慣れっこです。三十代後半でスキーを始めたり、四十代で初めてマウスに触ったりしたときもそうでした。うまく行かないことは何ともない。問題はそんなふうに恥をかきながら手に入れた技術を、次に生かせる機会はくるのかということです。
さすがに来年4月の同窓生との飲み会はオンラインではなくリアルになっているでしょうが、万が一コロナ感染第10波くらいが来て、しかも「今度はZoomでやろうぜ!」となっても、今回手に入れた技能が役立つように思えません。たぶん忘れているからです。
高校時代に学んだベクトルも摩擦係数も漢文も英語も、みんな忘れてしまったのは「使わない技能は失われる」という鉄則に従ったからです。
その意味で「高齢者の俺たちに(技能を維持する)明日はない」のです。
*なお、発端となったハイブリット会議がZoom一色になったのには理由があって、LINEのやり取りの中で「Zoon」に関する丁寧な説明が繰り返しなされていたのです。それで全員がやってみようという気になったらしいのですが、実際にはうまく行かなかった人も何人かいて、会場の画面には数人の班長が隅に映っていました。少しほっとしました。
(この稿、続く)