カイト・カフェ

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「高齢者:俺たちに明日はない」~知識・技能の賞味期限と現実 

高齢者が新技術に乗り遅れる理由のひとつは、
手に入れたところで長く生かせる気がしない、というのがあるだろう。
使う見通しがなければその技能はなくてもいい。
だが、稀に必要になることもあるから困りものだ。
という話。(写真:フォトAC)

【映画「俺たちに明日はない」】

 1967年のアメリカ映画「俺たちに明日はない」は、原題を「Bonnie and Clyde」といって、禁酒法時代の実在の銀行強盗を描いたアメリカン・ニューシネマの名作です。ボニーとクライドといえばアメリカ人なら誰でも分かる二人、ということなのかもしれませんが日本人には何のことやら。そこで「俺たちに明日はない」になったのだと思います。

 なかなかの粋な邦題で、当時70年安保闘争に向けて「明日のない生活」を送り始めていた若者に受けて大ヒットしました。犯罪映画なのに退路を断った生き方に共感する人が多かったのでしょう。
 将来を考えて汲々と生きるのではなく、欲望のままに刹那的に生きる、それは昔も今も若者の理想的な生き方のひとつです。しかし若者だからいいのであって、高齢者のこととして考えると変なふうになってしまいます。
「高齢者、俺たちに明日はない

――そりゃそうだよね。これがまず基本的な感じ方でしょう。単に事実を言っているに過ぎないともいえます。
 ただし言い方によっては、
「いや、いや、そんな寂しい言い方をしなくても・・・」
と取りなしたい気持になる場合もあるでしょう。
「明日どころか、明後日も、明々後日も、いくらでも先はありますよ。きっと」

 しかし「明日はない」は極端にしても、「10年後はない、もしかしたら5年後もないかもしれない」と考えるのはかなり現実的な話で、そのことが案外老人たちの生き方を規定しているのではないかと、最近、思うようになっています。

【知識・技能の賞味期限】

 しばらく前、
「高齢になって社会から遠ざかると必要な知識・技能しか手に入らなくなる。とりあえず不要な知識が偶然目に入ったり、勝手に入り込んでくることはほとんどない。だからICTなどで遅れを取る」
といったお話をしました。

kite-cafe.hatenablog.com

 しかし老人が遅れを取る理由はほかにもあって、そのひとつが「俺たちに明日はない」ではないかと思うのです。
 例えば11年前、父が亡くなったときに遺品となったガラケーは、その後、母に引き継がれることなく、さっさと契約解除になってしまいました。家族としては固定電話より携帯の方が捕まえやすく安心できるのですが、母は「今から覚えても2~3年」とさっさと捨ててしまったのです(それから11年経って95歳になってもいまだ元気ですが)。

 母の言い分も分からないではありません。高齢者には、
「何を学んでも賞味期限はごくわずか(かもしれない、に違いない)」
という思いが付きまとうのです。
 努力や時間の償還ができない気がするのです。
 携帯を手に入れても何ほどのことか、写真を撮れるようになったところで撮った写真をどうするのか。見て懐かしむような私はいるのか。SNSで誰と繋がるのか――それが高齢者に二の足を踏ませます。
 確かに95歳の母にスマホを覚えろというのも酷かもしれません。間もなく60歳代も終わる私にしても、今からWordやExcelを習うとなったら意欲のハードルはものすごく高くなります。もう今から新しいことはいい――。
 ところが私たちの世代には、母たちとは異なった事情もあったりします

【みんなZoomをやっている!?】

 今年、妻が共同購入組合の班長をやっています。コロナ禍にも関わらず月に一度の会議にはマメに出ていたのですが、感染拡大の合間を縫って続けてきた会議が第7波に至ってついに支えきれなくなり、LINEで次のような連絡が来ました。
「現在の状況では全員を会議室に集めての会議というわけにはいかなくなりました。そこでZoom*1を使ったオンライン会議と、会場参加の両方を組み合わせたハイブリット会議を提案します。つきましてはZoomと会場参加のいずれを希望するか、グループLINEでお知らせください」
 95歳にはこんな連絡は来ませんが65歳には来ます。

 それを見て妻が、
「私もZoom参加にしたいんだけど、あなた、やったことある?」
 私は、
「そんな慣れないことはしないで、会場参加があるならそちらにすれば?」
と気のない返事をするのですが、
「だって全員Zoom参加なのよ。私だけ会場ってわけにいかないじゃない」

 妻は子どもと一緒で、しばしば「みんなやってる」みたいな言い方をします。そこでは私も少し気色ばんで、
「そんなワケないだろう。見せてごらん」
と言ってLINEの画面を覗き込むと、なんと25名の参加者全員が「Zoom希望」と書いてあるのです。妻まで「Zoom」と書いてすでに送信済みでした。

(この稿、続く)

*1:ズーム:ウェブ会議用アプリ