カイト・カフェ

毎朝、苦みのあるコーヒーを・・・

「絶賛、陣痛中!」~シーナ、レインボーママ(にじの母)になる1 

 当てごととフンドシは先から外れる
 無痛の計画出産だったはずのシーナの分娩は
 赤ちゃんの都合で突然変更され
 深夜の救急搬送となった
 その運命やいかに

というお話。

f:id:kite-cafe:20190617071540j:plain(写真はイメージ。本人ではありません)

 

【どんなお産も100%安全ではない】

 無痛分娩で産むらしいと話したら、同じく娘を持つ私の弟が、
「なんでそんなことを許したんだ」
と驚きます。

 別に許した覚えはなく許せる立場にもないのですが、弟の気持ちも分からないではありません。
 子は陣痛に耐えて産むものだと古いことを言うつもりはありませんが、脊髄に麻酔を打つと聞いただけで昔の人間は震えるのです。

 そんな危険なことをしなくても赤ん坊は生まれる、少なくともシーナは経産婦だから自然分娩でも驚くほどあっさりと産んでしまうかもしれない。それを敢えて麻酔に頼る必要もないだろう――もちろんそういう気持ちはあります。

 ただ、長男のハーヴを産んだ時のこと(2015/9/14「いのちのこと」1〜シーナは幸福とともにある以下参照のこと)を考えると、出産に対するシーナの怯えは理解できますし、無痛分娩自体は欧米では常識の世界に入っており、メーガン妃が出産のが翌日には赤ん坊を抱いて外に出て来れたのも、おそらく出産による体力消耗がほとんどなかったからでしょう。

 ハーヴを産んだ時のシーナは総計60数時間もかかった出産のために心身ともにボロボロで、立って歩く気力もありませんでした。おまけに生まれた赤ん坊は全身紫色で息をしておらず、新生児科の医師の蘇生術によってようやく息を吹き返すという際どい状況で、それを考えると自然分娩で産むのと無痛分娩で計画出産(陣痛が始まらなくても日時を決めて産ませてしまう)するのとでは、どちらが危険なのかは分かりません。

 テレビドラマの「コウノドリ」で主人公の医師が言うように、
 どんなお産も100%安全ではありません。赤ちゃんを産むということは誰にとっても命がけなんです
ということなのでしょう。

 ですから私はシーナの決心を尊重しようと思いました。どちらに決めても安全ということがないなら、自身の決断が一番です。

 ところが人生は思うに任せない。
 気軽にものごとを決める娘ではありませんからおそらくものすごく悩んで決めただろう無痛分娩が、いとも簡単にキャンセルされてしまうのです。
 私はときどき神様の差配が分からなくなる時があります。
 
 

【シーナ、危機に際して素早く気持ちを切り替える】

 シーナから「破水したかもしれない」と電話が入ったのは先月末の水曜日、9時過ぎのことでした。実はその日の午前中、シーナは無痛分娩を行うはずだった病院で日取りを決めて、私たちに知らせてきたばかりでした。
 それが一転して破水となり、かかりつけの病院から救急車で大学病院へ搬送され、落ち着いたのが深夜の0時過ぎ。
 一緒に移動していた婿のエージュと息子のハーヴはそこからタクシーで自宅に戻り、床に就いたのが1時半ごろだったと言います。

 私たちも迷ったのですが、深夜に東京に向かってもできることはほとんどなさそうでかえって迷惑かもしれないと考え、とりあえず朝一番の電車で私だけが行くことになりました。
 シーナのことは病院に任せるしかないのですが、小学校教員の婿のエージュは三日後に運動会を控えてとても休める状況になく、ハーヴの保育園への送り迎えや日常のことは誰かが代わってやらねばなりません。4人のジジババのうち職業を持っていないのは私だけですので、私が動くのが一番いいのです。

 病院につくとシーナは驚くほど落ち着いていました。計画がとん挫したことについてはすぐに気持ちを切り替えることができたようです。
 破水が何だかは知っていますが、それがどういう事態を引き起こすのか、この先どうなっていくのについてはまったく知識がないので聞くと、
1 完全破水をしてしまうと通常は1日か二日で陣痛が起こり、出産に至る。
2 稀に長引くこともあるが、その場合はできるだけ長くお腹に留めておく方向で考える。
3 ただし感染症などがあった場合は早める。
というようなことでした。
 
 とりあえず元気そうですし男の私がいても何の役にも立ちそうでなかったので、その日は家事の細々とした指示を受けて家に戻ることにしました。その夜の最後の連絡でも、出産の気配はないようです。
 

【絶賛、陣痛中!】

 翌、金曜日。
 超仕事人間で休日に出勤することはあっても勤務日に休むことのない妻が、異例の年休をとって車で駆け付けます。歳をとっても2時間~3時間のドライブをまったく苦にしない人です(だから心配)。

 私はハーブの世話や何かで忙しいので、妻だけが車を置いて電車・バスを乗り継いで病院へ。陣痛が始まっているとしたら私が行ってもシーナが喜ばないことは前の経験から知っていましたし、あちらにいるよりこちらに残る方が役に立ちそうです。
 今は昔と違ってLINEという便利なツールがあるので、それでやり取りすればわざわざ現場で待つ必要もありません。

 ところが、頼みの綱のLINEがさっぱり働かない。既読がつかない。
 ケータイを送信専用機だと信じて自分が必要な時にしか開かない妻はまだしも、受信機の機能もあるからと時々チェックするシーナの機器が開かれていないというのはかなり不安です。

 ほとんど30分おきに「おーい」と呼び掛けても(何してるんだ私は?)一向に返事がない。妻が出発して4時間余りもたった11時ごろ、さすがに心配に耐えきれなくなって病院に向かおうと用意をしかけたとき、ようやくシーナからが返事が来ます。

「絶賛、陣痛中!」


 ナ、ナンダ? 絶賛、陣痛中って?