スマートウォッチは万人に幸せをもたらすものではない。
特殊な働き方をしている人々、スポーツアスリート、
そして年寄りにこそこの装置は役に立つ。
クリスマスも近い、ひとつ考えてみよう。
という話。
(写真:フォトAC)
【AppleWatchはどこまで便利か。搭載されたアプリあれこれ】
スマートウォッチがどれくらいすごい装置かというと、おそらくそれほど大したものではありません。
65年前の電気炊飯器、60年前の白黒テレビ、55年前の電気洗濯機・電気冷蔵庫、50年前のガス瞬間湯沸かし器、45年前の電子レンジ、30年前のWindows95(+インターネット)、20年前の携帯電話(いずれも私の手元に来た年)、それらは日本人の生活を根本的・劇的に変えました。しかしスマートウォッチにそこまでの力はないでしょう。Apple Watchが発売されてから10年弱。もし前述の機器と同程度の力があったなら、すでに爆発的に流行しているはずです。そうならなかったのはその程度の製品だからということです。しかしダメな機器ということではなく、万人受けするような製品ではないということでしょう。
搭載されたアプリ*1を見ても昨日お話しした「アクティビティ(日々の運動量や消費カロリーを記録)」「睡眠管理」「血中酸素」「心電図」「心拍数」の他に「マインドフルネス」という心理状況の記録、「服薬管理」「生理周期」「バイタル」「月経周期」などはスマートウォッチならではのものですが、「オーディオブック」「計算機」「カレンダー」「連絡先」「デバイスを探す」「アイテムを探す」「人を探す」などはスマホがあれば用の足りるものですし、「メール」「メッセージ」あるいは「LINE」「Youtube」などは後で確認すればいいもので、腕時計型でなくてもかまいません。
「Paypay」などのバーコード決済や「Suica」は慣れれば楽そうですし、「アラーム」や「ストップウォッチ」「タイマー」、あるいは「コンパス」「水中深度」「マップ」「翻訳」「ボイスメモ」「リマインダー」といったもの、人によっては腕時計型が便利という人もいるでしょう。しかしそれが決定的に便利でスマホを凌駕するかというと、そうでもなさそうです。
「カメラリモート」はiPhoneのカメラを遠隔操作して、自分も入った集合写真を撮るのに便利だったりしますが、よからぬ使い方をする人も出てくるかもしれません。
スマートウォッチの特徴は、
- 身体に密着していること、
- PCとは違って人間と一緒に移動しやすいこと、
- スマホのような置き忘れの可能性が少ないこと、
という点です。この3点をしっかり意識しないと、スマートウォッチの長所を生かせなかったり短所に足元を掬われたりといったことになりかねません。
*1:Apple Watchのアプリ
【要注意:位置情報の家族との共有】
よからぬと言えば世の中のたいていの製品は悪人の使用を想定していませんから、悪事には向かなかったり、逆にやたらと便利だったりするという事態も出てきます。盗撮などその最たるものですが、スマートフォンやスマートウォッチが抑止力となる場合もあるはずです。
例えば、新婚の時代に
「お互いに今、どこにいるかは、いつも知っておきたいね」
とか甘いことを言われて位置情報を共有して、後になって心から後悔している日本人のなんと多いことか(「チコちゃんに叱られる」風に)。
スマホだけだったら会社に忘れたで済みますが、スマートウォッチまで共有してしまうと、
「オラ、オラ、オラ! スマホだけじゃなくて、ウォッチもわざわざ外して忘れるんかい!」
ということになりかねません(Apple WatchがGPSタイプでしかもwi-fiと繋がっていなければ通用するかもしれませんが)。浮気防止にはなりますが、浮気をしたい人には不便極まりない装置と言えます。
しかし位置情報を共有することが、決定的に大事な場面もあります。
事故の場合です。
【緊急時の対応】
勤労感謝の日に畑へ勤労に出ようとして、転んで頭を打った話はしました* 2。その際、Apple Watchが振動し、警報が鳴って、画面に「大丈夫ですか?」みたいな表示がでました(右の写真)。
対応の仕方が分からないので少し慌てましたが、意識があったので下の「大丈夫です」を押して事なきを得ました。しかし大丈夫でなかった場合はどうなるのか――調べたら以下のことが分かりました。
- 意識があって、しかし“大丈夫とは言えない状況”である場合は、真ん中の「SOS 緊急電話」を押します。すると次に「警察」「海上保安庁」「火事、救急車、救助」からひとつを選択する画面が出てくるので、選択した上でタップするとそこに電話がつながる。
- 意識がなくて1分間なにもしないでいると自動的に119番に通報してくれるそうです、しかも位置情報もつけて。
さらに通話後、緊急連絡先(私の場合は登録してある妻)に宛てて《転倒検知機能が働いて緊急通報サービスに連絡したことを知らせるメッセージ》が、着用者の位置情報を添えて送信されます。*3
同様の機能は衝突事故の際にも働いて、緊急通報が行われます(右図)*4。この機能は従来からiPhoneにも搭載されていたもので、iPhoneとApple Watchに共通の仕組みですが、あまり頼りにしたくない機能でもあります。
*2:2024.11.27「老人が、頭を打ったらどう対処するか」~踏み台を踏み違えて、転んで頭を打った。
*3:Apple Watchで転倒検出機能を使う
*4:事故に遭ったときに iPhone や Apple Watch の衝突事故検出で助けを呼ぶ
【クリスマスも近い、年寄りこそスマートウォッチが必要だ】
さて、こうやって見てくるとApple Watchを始めとするスマートウォッチを本当に必要とする人たちは案外少ないかもしれません。
トラック・ドライバーの中で比較的電話がかかってくることの多い人々(それとて車にハンズフリーの機能がついていれば事足りる)、会議中でもそれとなくメールや株価をチェックしなくてはならない人、身体の情報を取りやすいところからフィットネス・トレーナーやスポーツ選手、日常的に運動をする人たちにも向いていると言えます。そう言えばApple watchの最上位機種「Apple Watch Ultra 2」は私のSeries10の2倍(128,800円から)もする高価な製品ですが、スポーツ、特にマリンスポーツに強く、水深40mの水圧にも耐えられるそうです。
さてそれ以外にスマートウォッチが向いている人たち――身体の細かなチェックが必要で、適度な運動を強制されないとなかなか動かない人たち、転倒しやすくそのくせ転べば大事になり易いひと、家族が位置情報を把握しておいていざという時には探しに行かなくてはならない人たち――、
オレじゃん!
そしてようやく理解するのです。スマートウォッチは私たちジジイこそ購入すべきなのです。近い将来、自分では外せないバンドが発売され、充電も本人が意識しないでできる時代が来るかもしれません。データはすべて家族のスマホと共有できるようにしておけばいい。
本人の危険や他人の迷惑を考えると、徘徊老人の人権などとは言っていられません。意識のしっかりしている今から着けていれば、何の抵抗もないでしょう。
お若い皆さま、クリスマスも近い。保険のつもりで、今のうちにプレゼントしたらいかがでしょう? 私たち夫婦は持っているので必要ありませんが――。
(この稿、終了)