カイト・カフェ

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「週休4日、学校から子どもがいなくなる」~日本でオンライン学習が進まない理由⑤ 

 「オンライン学習」――非常時だからと言って突然始められるものではない。
 日常的に使い慣れていることが必要だ。
 ということは非常時が日常であるような制度変更が必要になるということだ。
 毎日が非常時では私たちは大変だが、
 政府や民間の一部にとって、かなり悪い話ではないのかもしれない。

というお話。

f:id:kite-cafe:20200609071510j:plain(「都市の夕景」フォトACより)

  《私がT文科大臣の体で記者団の前で話しています》

【T文科大臣、大いに語る】

 皆さま、長らくお待たせしました。そして先ほどの無礼をご容赦ください。大石内蔵助が籠城・殉死の希望者を募って血判状を書かせたようなもので、本気でオンライン学習を推し進めようという人だけを集め、その人たちとだけで、この大事を成し遂げたいと思うのです。

 ICT教育の遅れたというこの国で、オンライン学習を始めることは容易なことではありません。教師も一般の人々も、いまだに昭和の教育を引きずっているのです。
 親と子と教師の三位一体、教職は聖職、燃えろ青春、そうしたものはすべて昭和の遺物です。教育の世界に平成はなかったようなもの。
――それを私は何とかしたい。

 

【今しかできない】

 「9月入学」では知事さんの中に「今やらなければ二度とできない」とおっしゃった方もいますが、「オンライン学習」だって同じです。

 実際に「オンライン学習」を熱望しているのは、新型コロナ休校のためにゲームばかりやっている子どもを見て不安になった親たちが一番。そこに「何でもかんでも日本が一番じゃないと気が済まない“ニッポン一番万歳教団”」、そしてリーマン・ショック以来の不況を学校ICTで乗り切ろうという電機関係者が乗って進められている話です。
 だからごらんなさい、緊急事態宣言が解除されて子どもが学校に行き始めたら親の声は急にしぼんで、「オンライン学習」を求める声自体が小さくなってしまった・・・。

 それではいけないのです。もう一度みなさんと力を合わせ「新型コロナ第二波に向けて、『オンライン学習』を全国に!」の声を上げなくてはなりません。
 もちろんそのために、全児童生徒数のタブレットPCは何としても予算化したい。しかし「各家庭にWi-Fi環境を」まではできない。なぜなら通信費は永続的にかかってしまうから国としては負いきれないのです。
 そこで親に負担してもらわなくてはならないのですが、これがなかなか難しい。他にもプリンター、スキャナ、デジカメもしくはスマホとなると、「オンライン学習」のために各家庭にお願いしなくてはならない出費はかなりのものになります。
 だから新型コロナの今、みんなが困っている今しかないのです。

 

【オンライン学習で授業の何が変わるのか】

 まず言えるのは、新型コロナの感染拡大による一斉休校のハードルがいきなり下がるということです。前回は唐突すぎるとたいへんな非難が寄せられましたが、今度はオンラインがあるから大丈夫と説明できます。

 学校の先生には初めて「オンライン」で授業を進めてもらうわけですが、もう十分な時間を置きましたから、いまさら「できません」は通らないでしょう。
 もちろん最初のうちはぎこちなかったり、さまざまな問題が発生したりするかもしれませんが、遠からずそういうことも解消されるでしょう。うまくいかなかった部分は学校が再開されたときに教室で練習しなおせばいいのです、第3波に備えて。ここが一番のミソです。

 文科省としては練習用にEテレの高校講座のようなコンテンツを大量に用意します。全国学力学習状況調査で問題をベネッセなどに委託したように、全国の学習塾・予備校に声をかければ、オンライン用のコンテンツなんて瞬く間に集まります。おまけに出てくるのは各校えりすぐりのカリスマ教師ばかりですから授業が面白くないわけがない。

 教室で担任の先生たちは、チームティーチング(TT)のように机の間を回って、コンピュータの扱に疎い子たちを支援すればいいのです。そうこうしているうちにまた新型コロナ第3波がやってきて、今度はオンライン慣れしていますから授業はすんなりと進められるでしょう。

 早ければ1年、遅くとも2年もあれば今回の新型コロナ事態も終わってしまいます。そうなるとオンライン学習も必要性がなくなってしまうでしょう。しかしだからといってせっかくそろえたインターネット環境、オンライン学習環境を棄てておくわけにはいきません。公費も私費も、山ほど投じられたのですから。

 義務教育の小中学校では、今度はいつくるか分からない新・新型コロナもしくは鳥インフルエンザ禍に備えて、算数・数学、国語、理科、社会科、英語あたりの学習はすべてオンラインで続けてもらうようにします。家庭の機器は宿題を乗せることで有効利用してもらいましょう。例えば10時までに宿題を学校に送信しないと、タブレットの警告が鳴り続けるとともに保護者のスマホに通知が届くとか、いろいろな面白いやり方が考えられます。

 そうこうするうちに学校内で文科省の集めたコンテンツを利用してのオンライン学習が定着するようになります。繰り返しますが、全国レベルのカリスマ教師による授業ですから、平均的な担任教師よりもはるかにうまく教えてくれるのです。
 そうなると次に起こることは何か――。
 少なくとも数学や国語に関しては、学校に行かなくてもよくなるのです。

 

【オンライン学習でこの国は変わる】

 言うまでもなく、オンライン学習に向く教科とそうでない教科があります。
 体育なんてオンラインでできるのは体操と筋トレくらいなもの、器械体操も陸上も、ボール競技もできません。音楽の合唱は――会議システムを使ってできなくはないでのすが、やはり一か所に集まってやるのが妥当です。
 そうした実技教科は全廃にしてしまえという大胆な発想がない限り、つまり“学校”は残らざるを得ません。体育や音楽、そして日々の学習の確認のために、子どもたちは週3日ほど学校に来てもらいましょう。それぞれ半日でかまいません。

 そういう制度改革の何がいいのか。
 実はいいことだらけなのです。
 まず、

  • 子どもたちはオンライン学習を通して一流の先生の授業が受けられる。
  • しかも全国一律の授業なので地域差が付きにくい。
  • その気になれば登校日に学校の先生に質問もできる。
  • 新たな感染症ばかりでなく、毎年のインフルエンザにも休校措置で対応できる。
  •  機器のために投入した資金・税金が無駄にならない。
  •  先生たちも学校三日制で過重労働から解放される。
  • 部活動はかなり自由にできるようになる。
  • 予算的に重荷だった理科の実験機材、社会科の地図や掛け軸、算数数学の大型三角定規(一組8000円もするのですよ)、そんなものも全部いらなくなるから、全国で3万校もある公立小中学校の分だけでも相当な節約になる。
  •  そして何より、中学校で実技教科以外の教科担任が不要になり、小学校でも理科や図工、家庭科の専科教員がいらなくなる。その分の教育予算の削減幅は、とんでもなく大きなものになる。
  • 子どもたちは数少ない体育などの授業を受けに、週3日ほど、半日ずつ学校に行くので人間関係ができにくい。したがっていじめも起こりにくい。また学校で実施するのは基本的に体を動かしたりモノをつくったりという楽しい授業ばかりで、日数も少ないので不登校も大幅に減る。
  • 最後に、また元に戻るのですが、新たな感染症拡大の際にはいつでも全面的「オンライン学習」に移行でき、しかも現在のように子どもの学力低下を心配する必要がない。

 ホラ、すごいでしょ。いいことだらけだ。
 前にも言いましたが、問題解決学習をやれば、あるいは体験的な学習をやれば、さらに総合的な学習をやれば――、豊かな人間性が育つなんて科学的エビデンスはどこにもないのですよ。そんなことのために長い間、私たちは大変な予算とエネルギーを注ぎ込んできた。まったくアホらしいことです。

 新型コロナ事態は不幸です。
 しかしその不幸を乗り越え、その先に新時代を迎えようではないですか。日本中の子たちがコンピュータの操作を自由に行い、自分に合った、自分だけのオンライン学習を受ける時代です。

(以上でT文科大臣の記者会見は終わる。単なるたわごとですが、その一部は近い将来、実現するのかもしれません)