カイト・カフェ

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「煙立つ都」〜今では信じられない!昭和の常識ランキング(goo)1

 一昨日(9月25日)のgooランキングに「今では信じられない!昭和の常識ランキング」というのがあって面白く読ませていただきました。

 それによると、
1位は「電車内でタバコが吸えた」(136票)
 以下、
2位「1ドルは360円」(134票)
3位「電車のトイレは線路上に垂れ流し」(132票)
4位「飛行機でタバコが吸えた」(109票)
5位「病院の待合室でタバコを吸っている人がいた」(103票)
となっています。

 調査方法は、
 gooランキング編集部が「リサーチプラス」モニターに対してアンケートを行い、その結果を集計したものです。
 有効回答者数:500名(20〜30代男女各250名:複数回答)
となっていますが、要するに数十の選択肢に対して投票を求めた結果なのでしょう。
 私でもさらに「客車の乗車口には扉がなかったので、乗客はしばしば走り始めた列車に飛び乗ったり、完全に停車する前にプラットホームに飛び降りた」とか「醤油や砂糖が切れると隣の家に借りに行った」とかいくらでもできるのですが、際限なく聞いても負担になるだけですからある程度のところで切り上げたと思われます。
 それでも十分おもしろい結果が得られています。

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 【煙たなびく国】

 ランキングを見てすぐに気づくことは、トップ5の中にタバコに関するものが三つも入っていることです。
 この「タバコ」ネタは6位以下にもかなりあって、「映画館でタバコが吸えた」(7位)、「職員室で先生がタバコを吸っていた」(13位)、「会社の中でタバコを吸いながら仕事をしていた」(15位)とすべて上位にランクされています。
 12位には「子供でもお酒やタバコが買えた」というのもあります(もちろん“お使い”で買いに来ているだけで自分用ではありません)。
 確かに私が子どものころは、男たちはどこでもタバコを吸っていました。
 レストランで吸う、バスの待合室で吸う、歩きながら吸う――。
 私の中学校の理科の先生などは授業中、ルツボを乗せた三脚の下にアルコールランプを滑らせ、その炎でおもむろにタバコに火をつけると、
「ようく変化の様子を見てろよ〜」
 私は熱心に、先生がタバコを吸う様子を観察していました。

【見慣れた風景=「チンダル現象」】

 記憶に残る限り私が初めて観た映画は、父に連れられて行った「皇室と戦争とわが民族」(1960)です。その最初の方に神武天皇の弓先に金のトビ(金鵄)がとまる場面があって、その燦然と輝く姿がもうもうと立ち昇る観客席の煙の向こうにくっきり浮かんでいるのを今でも覚えています。座席につくなり大人はすぐにタバコに火をつけるので、映画の始まるころには周りが雲の中みたいになるのです。

 とにかく大変な煙の量で、映写機からスクリーンに向かう光の束がゆらゆらと揺れるのが見えます。「チンダル現象」です。
 この現象を説明するのに今は「森の中で、木漏れ日が空気中の水蒸気に反射して、光の筋のようになって見える現象」とか言いますが、昔の子どもには「映画館で見えるアレ」で済みました。
「朝、雨戸の隙間から差してくる光が、部屋の中の空中のホコリに当たって光の筋のように見える現象」
 でもよかったのですが、今は雨戸もなければ(あっても隙間がない)「チンダル現象」が見えるほどの埃っぽい部屋というのもありません。
 密閉性の高い現代住宅では外から入ってくるホコリもほとんどないし、あっても掃除機で吸い取ってしまうからです。昔は今よりもずっと丁寧に、回数多く掃除をしましたが、ホウキで掃く掃除など半分チリを舞い上げているようなものですから、いつでも室内は埃っぽかったのです。

【街は都会も田舎も煙の中】

 全身にタバコくさい匂いをつけて映画館を出ても、外がきれいな空気に満たされているわけではありません。車がバンバン排気ガスを出して走るので別の煙の臭いが鼻を突く。工場も平気で煙突から煙を、ガンガン噴き出していました。
 田舎に住む私ですらそうでしたから、都会はさらに大変だったに違いありません。

 ただし昭和も40年代になると、雪国では冬はゴムにピンを打ったスパイクタイヤが増え、それがアスファルトを削って粉にしてしまいます。春になって道が乾くとそのアスファルトの粉末がもうもうと舞い上がり、排気ガスと相まってとんでもない匂いと汚れをまき散らしました。車が走り抜けるたびに黒い粉が土埃のように立ち昇ったのです。

 また車道と歩道の段差のところには、無数の白や茶色のチップが転がっています。捨てたタバコのフィルター部分です。吸い残しのタバコの部分は雨風に傷んで崩れ流されてしまいますが、フィルターは残る、それもものすごい量で残る。


【昔の人なんかちっとも偉くない】

 近年、訪日する外国人観光客が増えて、皆一様に街の清潔さを誉めてくれますが、ほんの40年ほど前の日本はそんなものではなかったのです。
「DNAに染み付いたような高い美意識・道徳性、昔から日本人は・・・」
などと平気で言う人がいますが冗談じゃない、それはここわずかの間に急速に仕上げてきたものなので、昔の人間はそんなに立派じゃなかった。それは覚えておいていいことです。
(ただしだからと言って喫煙者が蛇蝎のように嫌われ、蔑まれる現代の風潮がいいとは必ずしも思わないのですが)

(この項、続く)