生粋のファンでもないのに狂おしかった半月間。
何度も心臓が止まりかけて正視できなかった七日間。
大仰なアメリカと可愛いアメリカが交錯する大リーグの、
中身をちょっと見てみよう。
――という話。
(写真:フォトAC)
【狂おしい半月、緊迫の七日間】
3日前の11月1日(土)と一昨日11月2日(日)は、私にとってともにしんどくて、ともに歓喜に満ちた日でした。
野球のワールド・シリーズで3勝2敗と追い込まれたロサンゼルス・ドジャースが、3勝3敗とブルージェイズに並んで、ついに逆転優勝した二日間だったからです。
私は正真正銘の“根性なし”で「超」がつくような“臆病者”ですので、2日の第6戦は9回表に1アウト2・3塁になった時点で、勝っていたのにも関わらず見ていられず、テレビ(Amazonプライム)を消して日課のウォーキングに出てしまいました。30分かけて戻ってきたら勝っていた。
一昨日の第7戦は大谷選手が3ランを打たれたところでテレビを消し、インターネットの「一球速報」(一球ごとに図とテキストで進行を見せてくれる)をチラッ、チラッ、と見て、9回の表に同点にしたのを確認したものの、裏でブルージェイズにサヨナラ勝ちされるのが怖くてテレビは見られず、時間を置いてネットを見たら11回に1点入っていたので、もしかしたら勝ったのかもしれないと恐る恐るテレビをつけたら、すでに試合は終わっていました。
午後になってAmazonプライムの《見逃し配信》を8回の表裏からすべて見ましたが、リアルで見なくて本当に良かったと心から思いました。あんなとんでもない試合、実際に見ていたら少なくとも20回は心停止で死んでいます。
【国内大会が世界大会(?)】
もともと特に野球ファンと言うわけではありません。ワールドカップ・サッカーの年はサッカー・ファンですし、ワールドカップ・ラグビーの年はラグビー・ファンです。夏のオリンピックの年には日本人選手の活躍しそうな競技の熱心なファンですし、冬季オリンピックも同様です。大リーグについて言えば、かつてはロサンゼルス・エンジェルスのファンでしたが、現在はドジャースです。要するにいつも最も旬であるような競技と人を追いかけているというだけで、今は大谷翔平が、私にとって旬なのです。
それにしてもアメリカの国内チームだけで戦う頂上決戦が「ワールド・シリーズ」とも大げさな話で、第一回が行われた1903年は日本で言えば明治36年ですから、まだこの国にプロ野球はなく、日本にないからにはおそらくアメリカ合衆国以外のどこに国にもプロの野球はなく、だから「合衆国一は世界一」は分からないでもありませんが、同じ理屈で言えば大相撲も名古屋場所あたりは「世界相撲選手権王座決定戦名古屋大会」でいいし、「わんこそば」大食い大会も世界でも岩手県でくらいしか行われていませんから「わんこ世界大会」で十分なはずです――と書いて、もしかしたら1903年の第一回ワールド・シリーズを企画したアメリカ人たちも、同じノリで「世界大会」の名前を冠したのかもしれない――と思うに至りました。アメリカ人って、そういうところありますよね。
“Make America Great Again”
ですから。
【アメリカンフットボールと野球のチーム名】
私は若いころ、夜の仕事(と言っても学習塾関係)をしていた関係で帰宅は深夜。そこから見ることのできるテレビ番組と言えば、古い日本映画(例えば「社長シリーズ」「寅さんシリーズ」)と、アメリカン・フットボール(NFL)くらいのものでした。ですから当時の人間としては珍しくアメリカン・フットボールのプロリーグに詳しいところがあります。
そのころの贔屓のチームはサンフランシスコ49ers(フォーティーナイナーズ)とロスアンゼルス・ラムズ、マイアミ・ドルフィンズ。宿敵はシカゴ・ブルズ、ダラス・カーボーイズ、ピッツバーグ・スティーラーズといったところでした。
49ersは日本語に訳すと「49年組」で、1848年にカリフォルニアで金鉱が発見された際に大挙して西海岸にやってきた(ゴールド・ラッシュ)開拓者たちの総称です。ラムズは「牡羊」、ドルフィンはもちろん「イルカ」。それに対してブルズは「牡牛」、カウボーイは「カウボーイ」、鉄鋼の町ピッツバーグのチームは「鉄人たち(スティーラーズ)」と、強者の印象の強い名前ばかりです。
NFLにはそのほかにも、ベアーズ(クマ)、ライオンズ、バイキングス、ジャガーズと、強そうな名前がたくさんありました。
それに対して野球の方(MLB)は案外可愛くて、ホワイトソックス(白い靴下をはいていた)、レッドソックス(赤い靴下をはいていた)、マリーンズ(魚のマカジキ)、カブズ(小熊)、エンジェルス(天使)といったところ。ダルビッシュのパドレスは「神父」で何のことやら。その他、カージナルス(枢機卿)、ガーディアンズ(守護神)、ブルワーズ(ビール醸造者)などといったのもあります。
【アオカケス(ブルージェイズ)と、ひらひらかわしてよける人たち(ドジャース)】
大リーグのチーム名を調べ始めたのは、もちろん一昨日まで戦っていたブルージェイズとドジャースの両方の意味が分からなかったからです。調べるとブルージェイズの方は簡単で、北米で見られる美しい鳥、アオカケスから取られたものだそうです。球団名に鳥の名を当てる例はほかにもオリオールズ(ボルチモアムクドリモドキ)があって、カージナルスも先ほどは「枢機卿」と言いましたが、枢機卿の着る式服そっくりの赤い羽根をもったミズーリ州の州鳥「ショウジョウコウカンチョウ」のことをいう場合もあるそうです。球団のロゴを見る限りでは、どうやら鳥の方が正解みたいです。
さて、ドジャースです。ドジャース(Dodgers)のDodgeは、ドッジボール(dodgeball)のdodgeと語源を同じくしていて、直訳すると「かわしてよける人たち」ということになります。ドッジボールは “ボールをかわしてよけるゲーム”ですが、野球の方はボールをかわしてよけていては話になりません。別のものをかわします。何をかわすのかというと、その昔、ニューヨークのブルックリンを本拠地としていた時代に短期間(1911年 - 1912年)に使っていた正式名称にその答えがあります。
「ブルックリン・トロリー・ドジャース」
=ニューヨークの中心街、ブルックリンでひらりひらりと路面電車(トロリー)をかわしながら歩く人々
――それがドジャースです。
日本ならさしずめ、「渋谷のスクランブル交差点を、誰にもぶつからず平然と歩く都会人」といったところでしょう。私のような田舎者にはできないことです。ちなみにニューヨーク・メッツの「メッツ」はメトロポリタン(都会人・大都市に住む人)の略だそうですから、これも「洗練された人々」といった感じなのでしょう。
ブルックリン・ドジャースは初めて黒人選手と正式契約を結んだ大リーグのチームとしても有名です。1947年のジャッキー・ロビンソンです。当時の球団オーナーがニューヨークに多くの黒人が流入することを見越して行った決断でしたといいます。どんなにヤジを投げつけられても決して怒らず、ふてくされず、黙々とプレーしてアメリカ国民に黒人の実力を見せつけ、認めさせた偉大な黒人選手。
2004年以降、MLBはジャッキー・ロビンソンが初出場を果たした4月15日を「ジャッキー・ロビンソン・デイ」に制定し、現在はその日に行われる全試合ですべての選手、コーチ、監督、審判がジャッキーの背負ったゼッケン42番のユニフォームを着て試合に出場するようにしています。毎年ニュースになるので見た人も多いでしょう。
ブルックリン・ドジャースは1958年、本拠地をロサンゼルスに替え、現在のようにロサンゼルス・ドジャースと呼ばれるようになっています。
調べてみると、いろいろ面白いことが出てきますね。
(この稿、続く)