カイト・カフェ

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「若き情報弱者の犯罪と偏り」~ネットが世界を狂わせる①

 あれほどあからさまな死刑台へのエレベーターに、
 若者はなぜかくも易々と乗ってしまったのか――。
 そこにはネット時代と特有の、
 情報過多と偏りがあるのかもしれない、
という話。(写真:フォトAC)

【若き情報弱者の犯罪】

 右の画像は先週、ネットのあちこちで引用されていたテキストの画像です。
『「横浜で老人を撲殺した闇バイト宝田「僕は何年で出られますか?」→弁護士「は?一生出られませんよ」』
という長いタイトルともに貼られたもので、今年10月15日に横浜市青葉区で75歳の男性を殺害して20万円を奪ったとして逮捕された22歳の容疑者についいて書かれたものです。
「接見した弁護士
 何名も接見しましたが、あの子たち総じて俗にいう情報弱者ですね
 ふだんからニュースを何も見ていません
 興味のあるモノ以外何も知らないのです
 また強殺は重罰ということも一切知りません
 一生棒に振ることも理解していません
 何年で出てこられますか? いやもう出られないですと答えると呆然としていました」

 なるほどと感心させられる内容だったので出どころを調べたのですが、なかなか出てこない。そのうち私と同じように調べている幾人かが、
「ソースがない」
「どうやら(大型掲示板の)『5ちゃんねる』から広まったようで、おそらく創作だ」
という話になって、昨日あたりから画像自体は使われなくなってきています(ただし文章は引用され続けている)。

「闇バイトに応募するような若者は一種の“情報弱者”だ」という見方は、どうもネットの特定の場所では常識だったようで、それが今回、要領の良い文章を得て人の目につきやすい場所に現れた、ということのようです。
 言われてみればその通りですが、
「一日24時間スマホをいじっているような若者の中に“情報弱者”いる」
という考えかたは、このさき社会を考える上で、重要な視点となりそうです

 それにしても「強殺*1は重罰ということも一切知りません」という言葉の持つ重さはしっかりと考えなくてはなりません。その子は私の息子、あるいは孫かも知れないからです。
*1:強殺=強盗殺人

【常識が全く分かっていない】

 日本の刑法では強盗致傷(強盗の際にケガを負わせた)・強盗致死(強盗の際の傷害で人を死に至らしめた)・強盗殺人(強盗の際に殺人の意図をもって人を殺した)は、一括して240条(強盗致死傷)に次のように表現されています。
「強盗が、人を負傷させたときは無期又は六年以上の懲役に処し、死亡させたときは死刑又は無期懲役に処する」

 注目すべきは普通の殺人罪が、「人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の拘禁刑に処する」(第199条)と有期刑が定められているのに対し、強盗致死傷罪の後半、「死亡させたときは」の部分には有期刑の記述がないことです。強盗殺人は行った時点で「死刑または無期懲役」と決まっているのです*2

 もちろん法律家でもない普通の人間にそうした知識がないのは当たり前ですし私も調べながら書いているのですが、「強盗」ですから当然被害者に落ち度はなく、「殺人」ですからタダでは済まない、その二つが重なれば尋常な罰では収まらない、その程度は想像がついて当然だと思うのです。ところがこの容疑者はそうならなかったのです。

 そもそも「日給15万円」に応募すること自体が尋常ではありません。外科医の免許を持っていてそれなりのキャリアもある、敏腕弁護士としていくつもの事件を解決してきた、駆け出しだが人気の出て来た芸能人、それくらいだった稼げる金額かも知れません。何しろ月収に換算すれば300万円~450万円、年収だと3600万円~5400万円。なんの特殊技能も資格もない高校中退の22歳が、どうしてそんな高収入にありつけると信じたのか。その奇異の説明として、
「あの子たち総じて俗にいう情報弱者ですね
 ふだんからニュースを何も見ていません
 興味のあるモノ以外何も知らないのです」
は、非常に説得力をもつと言えます。
*2:「強盗殺人」ではなく「強盗致死」と認められた場合は有期刑になることもある。

【偏り】

 さて総選挙です。私がこれを書いている27日午後9時の時点ではまだ、
衆院選 自民・公明 過半数確保は微妙 自民の過半数割れ確実」
という状況です。「自民党にお灸をすえることは必要でも、政権交代は勘弁してほしい」というのが私の本音ですが、開票結果については明日、改めて考えることにして、この選挙期間中、私はX上で非常に気になる動画を見たのでそれについて記しておきます。

 それは千葉5区のえりアルフィア候補の街頭演説に関わって、応援に来た河野太郎氏に対して「人殺し」の大合唱が繰り返される動画です。2021年からワクチン接種推進担当大臣として新型コロナワクチンの接種拡大に励んできた河野氏に対して、反ワクチンの人々が激しいヤジを飛ばしているのです。

 私は反ワクチンに対しては懐疑的です。知り合いにもそのような人はいて、盛んにやめるように勧めてくれるのですが、すでに7回も打ってしまった人間がいまさら健康被害を訴えられても気分が悪いだけですし、見方によれば「私たちが危険を冒してワクチン接種をしたおかげで集団免疫が完成し、危険を冒さなかったあなたたちが守られた」とも言えるので素直にはなれません。
 およそ3年半のパンデミックの間に新型コロナのために亡くなった方は5万人と推計されていますが、反ワクチンの人たちは「接種が始まってから2年半の間に311万5千人がワクチンのために殺された」と主張しています。それが「河野太郎=人殺し」の根拠なのですが、とてもではないですが信じられる数字ではありません。

【根拠は数、問題は私】

 しかし彼らがそう信じるだけの理由があります。なぜなら同じ主張を信じる人は日本国内だけでもおそらく数十万人はいて、SNS上では圧倒しているからです。
 それが50万人だとしても日本国民の0・4%程度、1000人に4人くらいにしかなりませんし、SNSで盛り上がっているといっても、現状に満足している人や肯定的にとらえる人たちは不満や不安を書き込んだりしないものです。反ワクチンは全体として見ればごく少数で、以前だったら問題にならなかったはずです。

 彼らを情報弱者の仲間に入れるのはどうかと思いますが、その情報源は余りにも偏っています。ただし本当の問題はここからで、私自身が自分の偏りを理解できなくなっているということになります。
(この稿、続く)