カイト・カフェ

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「エコーチェンバーとフィルターバブル」~反ワクチン派なぜかくも頑固なのか③ 

 インターネットこの方、世界はむしろ分かりにくくなった。
 声が大きいだけなのか多数なのか。
 そこにはネット特有の陥穽があり、
 唯々諾々とはまってしまう恐ろしさがある。

という話。  

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(写真:フォトAC)

【反ワクチンがワクチン派をノックする】

 この夏、NHKは専門家と協力して反ワクチンの中でも特にワクチン接種と不妊を関係づけた約20万件のツイートを分析しました。

www3.nhk.or.jp

 それによるとこの情報の発信者及び拡散者は極めて少数で、上位20の発信者だけで全体の約4割をも占めていたというのです。最も多い発信者では2500ものアカウントにシェアされていました。
 もちろんこれを打ち消そうとするツイートも少なくなく、8万アカウントが否定側に立ち「ワクチンで不妊や流産」を訴える5万アカウントを凌駕しています。ところが投稿数に目を転じると打ち消す投稿が17万件なのに対し、危険を訴える投稿は28万件と圧倒しているのです。

 どうしてこんなことになるのか。NHKによるとこうです。
「根拠が無い情報を否定する人は『これはデマだと1回発信すればそれで役割は終わり』と思ってしまいますが、それを信じている人は『またこんな情報が出てきた』と新しい情報が出るたびに内容を更新して拡散するということだと考えられます」東京大学大学院 鳥海不二夫教授)

 つまり肯定派と否定派は対等な立場にいるのではなく、肯定派が発信したことを否定派が受けて投げ返す非対称の関係にあるのです。これは例えていえば野球のノックのようなもので、次々と打ち放たれるボールを拾っては投げ、拾っては投げ返す方が疲れるに決まっています。
 次々と”新資料“を持ち出す反ワクチン派に対して、否定派はいつか疲弊しきって論争の場から退室していきます。もちろん否定派は以後も繰り返し供給され、それがアカウントの多さに反映するのですが、投稿自体は反ワクチンを圧倒することができません。

【エコーチェンバーとフィルターバブル】

 私は大昔、「2ちゃんねる」(当時)の教育板で、今でいう“論破”に励んでいた時代があります。
 現場を良く知る現職の教員で、自分が有利に働ける場を選んでの参戦ですから圧倒的に強く、しばしば完全勝利して全員を黙らせることに成功します。ところが同じスレッド(特定のテーマでくくられた議論の場)に誰も書き込みをしなくなって数週間後、それまでのすべてのやり取りを無視して、「だが、やっぱりなあ」と話を振り出しに戻す輩が出てくるのです。すると私が論破したはずの考え方が次々と参戦してきて、あっという間に元の状態に戻ってしまいます。
 いちど黙った人たちが再びしゃべり始めるといった感じではありません。新しい参加者が過去の書き込みを読まずに話し始めるのです。延々と続く果てしないモグラたたきです。それでその世界から足を洗いました。勝っても勝ち切ることは絶対にできないからです。

 やがて私の去ったスレッドは私と異なる考えをもった人々に占領され、そこで発せられるひとことひとことは多くの賛同者によって増幅・強化され本人のもとに戻ってくるようになります。つまりその世界で「自分の声」はいつまでも響き続けるわけです。これを「エコーチェンバー」または「エコーチェンバー現象」というのだそうです。

 彼らは自分の意見を補強するために、さらに探索と研究を続けます。自分の足で情報を集めようとするのです。
 しかし(私たちも同じですが)、この人たちが実際に図書館に行ったり、大学の研究室に足を運んで先達の教えを乞うたりすることはめったにありません。探索と研究はもっぱらインターネットの中でのみ行われるのが普通です。
 そしてネットの世界独特の影響を受けることになります。

 具体的に言うと、フィルター(検索サイトやSNSが提供するアルゴリズムが、ユーザーが見たくないような情報を遮断し、欲しがる情報を優先的に提示する機能)に支配されるわけです。聞きたいことしか聞こえてこなくなる――この状況をフィルター・バブルというのだそうです。

 ネットを使って情熱的に調査・研究を続ける限り、私たちは自分の聞きたいことしか聞こえなくなり、SNS等で発信すると同じ声ばかり響き渡り、間違った場所で自信を深めることになりかねません。
 しかも調査・研究は誰から強制されたわけでもない「自らが主体的に行動し、自らが判断して、自ら決定した」ものです。これほど強い確証はありません。

【テレビや新聞も侵されているのかもしれない】

 そうした囚われから自由でいるためには、できるだけ多くの情報に接していくしかありません。ネット上では意図的に自分とは異なる意見に耳を貸すこと、そしてネット以外のメディアを多く活用するようにすること。
 書籍・雑誌についてはできるだけ幅広く目を通すようにします。テレビや新聞はその会社の特徴をよく確認し、可能な限り偏らないように配慮します。
 情報源は多ければ多いほどいい――。

 ただしそんなふうに言いながら、私は一般人である自分たちにそんなことが可能かどうかと、訝ります。ネットではフィルターに囚われないよう検索ワードに常に気をつけ、毎朝、新聞は朝日と産経を同時に読み、テレビでNHKと民放で同じニュースを確認する。しかもそれで十分というわけではありません。
 最近のテレビや新聞が、ネット情報に侵されているかもしれないからです。

  • オリンピックの開催反対派は実は少なかった。
  • 白鵬の支持者は意外と多かった。
  • 国民の多くは必ずしも眞子内親王の結婚に反対ではなかった。
  • レジ袋有料化反対は思ったよりはるかに多かった。
  • 日本の若者に反ワクチンは必ずしも浸透していなかった・・・。
    のですから。