ネット上で、訊くに堪えない、
大人どうしの電話のやり取りを聞いた。
腰の低い上司と生意気な部下。
しかしそこに単純ではないものが見えてくる。
という話。
(写真:フォトAC)
【聞くだに、苛立たしく腹立たしい、電話のやり取り】
先週の中頃、X(旧ツイッター)をいじっていたら、《寝坊して出社しない部下とその携帯に電話を入れた上司とやり取り》といった面白い録音がアップロードされていて、しばらく聞き入りました。部下の受けごたえの傲慢さと上司の低すぎる姿勢に、かなり苛立って相当に頭に来ていたからです。
内容は次のようなものです。
(黒字が上司・青字が部下)。
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「遅刻だよ」
「遅刻って…」
「ごめんね、朝から、起こしちゃって、電話で。電話で起きちゃった?」
「言い方、悪いよな」
「あ、ごめんね、ごめんね。ちょっとあの、上司としてさ、ちょっとここは言っとかないとなぁと思って。ごめんね。あの、朝、不機嫌、イライラしているのは分かるけどさ、電話して」
「はい」
「どうですぅ? 気分は」
「ああ?」
「気分は、ど・・・いかがですか? ◯◯くん」
「いいえ、ど、どういうことすか? なん・・・何が言いたいんですか?」
「あ、体調が悪いってわけでは、ないの?」
「別に、悪くはないですけど」
「ごめんね」
「はい」
「じゃあ普通に寝坊しちゃ・・・った・・・かな?」
「ね、寝坊っていう言い方がなんか、ちょっと癇に障るというか・・・」
「◯◯くん、こらっ」
「あのね、そういうのいらないんすよ」
「ああ、ごめんね、ごめんね」
「そういうのいらないです」
「ああ、ごめんね、ごめんね」
「なにが、何が言いたいんすか」
「あ、だから」
「はあ?」
「あの、ね、遅刻は、なんか良くない・・・」
「いや、遅刻っていうかって、・・・なんか、電話」
「んじゃないかな・・・・」
「電話、遅くないっすか? なんか」
“これはいつかどこかで使える”と思って何度も聞き直しながら文字起こしをし、その時点でXのポストをブックマークするなりURLを記録するなりしておけばよかったのですが、うっかりそのままにしておいたらすぐに分からなくなってしまいました。どう探しても分からなかったのが昨日になってティックトックの中からふたつ見つかって、ところが最初にXで見たものを含めてみっつは同じ原本から別々の人が切り出したものらしく、微妙に位置と長さが違っているのです。
Xの方は分からなくなりましたが、ティックトックのふたつにリンクを貼っておきますので、興味のある方は行って聞いてきてください。繰り返しますが、両方とも私がXで聞いたものとは違い、二つを合わせるとおそらく原本に近い内容になると思います。また、聞けば相当に苛立ちます。
https://www.tiktok.com/@sakaru1013/video/7376793196661148935(冒頭から途中まで)
https://www.tiktok.com/@sesesoso_osusume/video/7328722869389692162(途中から最後まで)
【録音の音から聞こえて来るもの】
文字起こしをして思うのは、文章にすると元の録音の苛立たしさ、腹立たしさが十分の一も伝わらないということです。最初の「遅刻だよ」ひとつをとっても、文字だけだと、皮肉っぽい言い方なのか強く責めての言葉なのか、深いため息が聞こえてきそうな言い方なのか、一切分かりません(実際には、単純に事実を指摘しているだけの「遅刻だよ」です)。
2行目の「遅刻って・・・」に至っては、録音の方はもう誰が聞いても憎々し気な、不機嫌な言い方ですが、文字だけだと戸惑っているとも返事に窮しているとも思えます。
実際の音声にはそうした曖昧さはありません。明らかに上司はパワハラで訴えられることをおそれて部下に気を遣う、管理者としての能力もあまり高くない気弱な人ですし、それに対して部下の方は、世の中のことをまったく分かっていない癖に舐め切っていて、うまくいかないことがあると必ず責任転嫁するような、大人になり切れない永遠のガキです。こんなことでよく就職できる年齢にまでなったものです。
【文字起こしの文字から見えてくるもの】
けれど目に見えるもの、音に聞こえるものがすべて正しいとは限りません。優しく親切な態度は詐欺師の常套ですし、女の子がキラキラ輝く瞳でこちらを見ていたからといっても必ずしも恋をしているわけでもありません。
部下の、いかにも憎々し気でイライラした感じの言葉も、いったん文字にして平板にすると、そこに全く異なるさまざまな色付けをすることが可能になります。上司の「ごめんね」「ごめんね」も何となく胡散臭い気がしないわけでもありません。両社とも、音声で感じたものはもしかしたら語調や声色に騙されているだけで、真意や事実は別のところにあるのかもしれないとも思えてきたりもするのです。
この青年は単純に寝起きが悪く、半分夢の中にいて、事態が呑み込めていないのかもしれません。上司にではなく、眠りの安逸から引きずり出されたことに苛立ち、事態がよく分からないことにも苛立って、それが口に出されただけなのかもしれない。
人が良いだけで能力も高くない上司の、単に事実を指摘しただけに聞こえた最初の「遅刻だよ」も、もしかしたら経験が生み出したあざとい罠で、やがて来るかもしれない“部下に早期退職されて管理能力を問われる日”とか、“部下からパワハラで訴えられるとかいった日”のために、いかに横暴でロクでもない部下だったかを証明するための証拠集めなのかもしれません。
少なくとも部下には電話のやり取りを残す理由はないので、録音したのは上司の方で、そこには何かの理由・意図があったようにも思えるのです。その方が合理的でしょう?
(この稿、続く)