カイト・カフェ

毎朝、苦みのあるコーヒーを・・・

「誰が得をして、誰が損をした話なのだろう」~私たちは子どもに罠をしかけていないか②

 ネット上で拾った優しく弱腰の上司と生意気な部下との会話。
 結局、誰が得をして、誰が損をした話なのだろう?
 そこから自ずと社会の構造が見えてくる。
 なんやかや言っても、大人の社会は底が硬いのだ。 
という話。(写真:フォトAC)

【誰が得をして、誰が損をした話なのだろう】

 犯罪映画や推理小説に出て来る犯人捜しの基本中の基本のひとつは、「誰がその犯罪で得をしたのか。得をした者が犯人だ」です。

 昨日は「朝寝坊で出勤できなかった部下」と「そこに電話を入れた上司」とのやりとりという、これが創作だとしたらあまりにも優れすぎていて、かえって素材として面白いお話を紹介しました。
 ところでこの話、基本的には「《何という逆ハラ社員》v.s《可哀そうな上司》」という常識的な捉え方でいいと思うのですが、いったん文字起こしをして文書にし、語調や声色を消してしまったら、「案外、上司の方がしたたかだったのかもしれない」という可能性もありそうな気もしてきました。そこで最初の「誰がその犯罪で得をしたのか。得をした者が犯人だ」が出てくるわけです。
 あの録音、100人が聞けば99人以上は「かわいそうな上司、ロクでもない部下」と考えるでしょう。そうなると最終的に得をしたのは上司の方ということになります。社会の同情を勝ち取っただけでなく、仮にこの先もうまく行かず、パワハラだの横暴だのといった話が出てきたら、黙ってこの録音を差し出せばいいのです。上司の方が有利なのは明らかです。
 ですから定義からすれば、「事件の犯人は上司」(=状況を仕掛けたのは上司)ということになります。

【気の毒なのは部下の方だという、可能性ゼロでもなさそうな話】

 そうした観点から徹底的に社員の側に寄り添って、社員の主観から事態を見直せば――、
 とりあえず気持ちよく寝ていたところを電話で起こされて、生理的に気分が悪い。それでも何ごとかと思って電話に出ると――、
 (黒字が上司・青字が部下)
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「もしもしぃ」
「あ、もしもし」
(なんだい?こんな朝早くから)
「◯◯くん?」
「ああ、はい」
(なんだろう?)
「あの・・・」
「な、なんすか?」
(ていうか、そもそもオマエ、誰?)
「遅刻ぅ~だよ。遅刻だよ」
(え? 遅刻? 遅刻って何?) 
「遅刻って・・・」
(え?オレ、寝坊したの? 遅刻なの? なにやってんだオレ?)
「ごめんね、朝から、起こしちゃって、電話で。電話で起きちゃった?」
(いや、ごめんねじゃねぇだろ。普通、遅刻だったら起こすだろ? それを「電話で起きちゃった?」なんて、オレは腫物か?)
「言い方、悪いよな」
「あ、ごめんね、ごめんね。ちょっとあの、上司としてさ、ちょっとここは言っとかないとなぁと思って。ごめんね。あの、朝、不機嫌、イライラしているのは分かるけどさ、電話して」
(「ごめんね」「ごめんね」って、オマエ、U字工事か? いや違う、え? 上司? あ、課長か? 課長が何で電話して来るんだ?)
「はい」
「どうですぅ? 気分は」
「ああ?」
(なんだ? 気分って? どういう文脈だ?)
「気分は、ど・・・いかがですか? ◯◯くん」
「いいえ、ど、どういうことすか? なん・・・何が言いたいんですか?」
(ちょ、ちょっと待ってくれ、話が読めんぞ。どこから気分の話になったんだ?)
「あ、体調が悪いってわけでは、ないの?」
(そっちかよ! だったら最初からそう言ってくれよ、頼むから)
「別に、悪くはないですけど」
「ごめんね」
(また「ごめん」か)
「はい」
「じゃあ普通に寝坊しちゃ・・・った・・・かな?」
(終わった・・・この会社のオレ、もう終わった・・・)
「ね、寝坊っていう言い方がなんか、ちょっと癇に障るというか・・・」
(あ、言い方、間違えた!)
「◯◯くん、こらっ」
(こらって、もうどうでもいいでしょ)
「あのね、そういうのいらないんすよ」
(いちいち面倒くさいことはもういらない、おなかいっぱい)
「ああ、ごめんね、ごめんね」
(また「ごめん」? いいじゃない、どうせもう終わりでしょ?)
「そういうのいらないです」
「ああ、ごめんね、ごめんね」
「なにが、何が言いたいんすか」
(この上なんの話があるわけ?)
「あ、だから」
「はあ?」
(だから?)
「あの、ね、遅刻は、なんか良くない・・・」
(遅刻がよくないなんて当たり前でしょ! )
「いや、遅刻っていうかって、・・・なんか、電話」
「んじゃないかな・・・・」
(もう、どうでもいいや!)
「電話、遅くないっすか? なんか」
(あとは野となれ山となれ、次の電話は退職代行だな)

 まるっきり可能性ゼロの話でもないなと思いながらここまで書いてきて、しかし私は思わざるを得ないのです。
 なんて面倒くさい世の中なんだ令和は!
(この稿、続く)