カイト・カフェ

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「伏魔殿に子を送る覚悟」〜連休中に考えたこと①

(カール・ヴィルヘルム・ディーフェンバッハ 「死の島」)

 【あれは何だったんだろう】

 5月2日のTOKIOの記者会見、あれは何だったろうと、今も首を傾げています。
 終わってみれば何も決まっていない、山口の処遇もこれから、TOKIOの今後も「考えていく」。事件の詳細が出てこないのは仕方ないにしても、メンバーそれぞれの想いを語って何を実現しようとしたのでしょう?

 邪推するに、先月末の山口達也の単独記者会見が大失敗で、「帰れる場所があるなら戻りたい」とか言って大バッシングを受け、事務所としては事態の落としどころが分からなくなってしまったのではないか、そんなふうに思うのです。
 山口の解雇だけで済むのか、TOKIOの無期限活動停止とか解散とか、そこまで行かなければならないのか、会社としてどのあたりを着地点とすれば一番非難が少なくて済むのか、そこでとりあえずTOKIOに謝らせてみた、そんな印象があります。

 しかし子どもじゃあるまいし、それぞれ別の生活を持ち、別々の活動をし、互いの私生活も十分に分からなくなってきた40歳過のおっさんが、「一人5人のために、5人は一人のために」とか言って連帯責任とは! 
「とうに滅びたと思っていたのに、これは現代の『五人組』か?」
とチャチャも入れたくなろうというものです。

 あんなもの、会社がさっさと処分を出してTOKIOのメンバーが深々と頭を下げ、
「山口を制御できなかった責任を取ってしばらく活動を自粛します」
とか言って時間をつくり、その間に体制を立て直すとか、個人活動の幅を広げておくといったふうにしていけばよかっただけのことです。これまでもそんなやり方で凌いできた芸能人、グループ、組織はいくらでもありました。
 それをあんな大げさな人間ドラマにしてしまうから話はさらに大きくなる。

「もうすでに崖から落ちている」
「山口のやったことは絶対に許されることではない」
「被害者とご家族の苦しみは計り知れない」
 そんな話を聞いているうちに、「たかがキスだろう」くらいに思っていた人たちも、「これは表に出ないだけで、本当はキスどころではなかったんじゃないか」と、邪推を重ねることになります。

 記者会見の最後の方で城嶋も言っていましたが、これが被害者と被害者家族の「そっとしてほしい」という願いにかなうものとは到底思えません。

 【伏魔殿に子を送る覚悟】

 事件が長引くにしたがってネット上では被害者が特定され追跡され、ワイドショウでは被害者の非をあげつらう大御所レベルの芸能人が出て来て、
「夜、男のマンションになんかに行った女子高生にも問題がある」
とか言うので、メディアのポリティカル・コレクトネスに忠実なMCやコメンテータや、ネット上の「沸騰型正義漢」や「重箱のスミつつき隊」の集中砲火に会って炎上し、それで収まるかと思ったらさらに大物の大御所が出てきて同じことを言うので、お祭り騒ぎは延々と終わらない。
 被害者の女の子はこの先もずっと話を蒸し返され、山口の両親や元妻や子どもまで追い回される――これでいいのか?

 テレビでは話題が「酒」に振られると、
「いや、俺だって酒の匂いをさせて現場に来ていろいろ言われることはあっても、酒で人に迷惑はかけたことがない」
とか、
「酒を言い訳にしてはいかん」
とか。それに対して、
「いや、そういうことってあるよね」
と年がら年中酒臭いことで有名なMCが相槌を打ったりしますが、ちょっと待て!
 年がら年中酒臭くても勤まる職場って、酒場と芸能界以外にどれだけある?

 ついでに言えば、契約書や企画書(または台本)、口頭の説明にあって自分が納得すれば、初めての相手とでも抱き合ったりキスしたり、時には全裸になったりする職場って、芸能界と風俗以外にどれくらいある?

 労働時間に何の規定もなく、一発当てれば20代でも月収が数千万円という職場――思いつくのは芸能界と闇社会くらいなものです。

 それだけ芸能界は異常な世界であって、常識では測りきれない場所なのです。だから普通の親たちは子が芸能界に入りたいと言えばこぞって反対する、な不安になる、怯える、それが当たり前です。逆に言えば親も子も、何らかの形で芸能界に関わろうとするなら、それなりの覚悟をしなければいけない。

【一般社会であり得ない話だろう】

 今回の事件について言えば、これが芸能界でなく、大型デパートのアルバイト高校生と正社員、46歳バツイチ、との話だったらどうでしょう。夜、電話でマンションに呼び出されて、高校生はホイホイと出かけたでしょうか、親はどう考えたかでしょう。そもそも一般社会は、自分の会社にバイトできている女子高校生を、自宅に呼び出すような行為にも許容的でいられるでしょうか?

 16歳の女子高生に、そこまでの分別を求めるのは酷だというのは一応受け入れられる説です。しかし芸能界のような特別な場所で仕事をさせる以上、親は相応の手を打っておかなければならなかったはずだ――それが私の内なる声です。

 まだ娘のシーナが高校生だったころ、数人の仲間とともに女友だちの家に一泊させてもらうというときですら、私は手土産を持たせた上で電話を一本入れ、「よろしくお願いします」と挨拶したものです。それが他人の家に泊まるときのしきたりだと娘に教えることがひとつ、保護者としてそうした特別の状況には深くかかわっていくと伝えるのがもうひとつの目的です。
 帰宅が8時を過ぎるような特別な場合は必ず迎えに行くようにしました。それは学園祭だとか、部活の遠征とかいった場合で、中年男のマンションを訪ねるといったことは親子双方にとってとてもではありませんが、考えられないことでした。

 芸能界は特別な場所です。ですからそこで持つことになった人間関係によって、山口達也のマンションに「行かない」という選択肢がなかったのかもしれません(とメディアは説明します)。そうだったとしたら、高校生は親に言って電話をかけてもらえばよかったのです。保護者から「よろしくお願いします(きちんと扱えよ、妙なことをしたら許さんぞ)」と言われれば、それだけで行動は抑制されたはずです。もしかしたらその時点で「けっこうです。やはり話は、明日、会ったところでします」という話になったかもしれません。

 もっともシーナが高校生だったのは10年も前の話です。当時とは時代が違うと言われればそれまでですが、それでも私は「いったい親はどういうつもりだったのだ」と問いたいのです。

※この記事を書いて予約投稿をした後で、「山口達也契約解除」のニュースが入りました。よく練られた文かと思いました。ただし、余りにも遅きに失した感は否めない。やはり特殊な世界です。