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「オッパッピーで1億稼げる不条理」~芸能人の値段①

 一般に大卒の方が高卒より賃金が高いのは、大卒の方がお勉強をして頭がいいからではなく、高卒に比べて4年間分、社会人になる前の投下資本が多いからと説明されます。本人が払ったか親が払ったかは別ですが、その分を回収できないとしたらやはり気の毒です。返済義務のある奨学金だけで大学を卒業した人には良く分かる論理です。

 しかし別の考え方もあって、それは生涯賃金を割り出し、そこから逆算して大卒の初任給を計算しようというもの。例えば60定年の会社に18歳から勤め始める高卒社員は42年勤続退社、それに対して大卒は38年勤続退社、つまり4年分の給与が不足するわけです。しかももらえないのは39年目と40年目、そして41年目・42年目の給与、つまり一番高額な部分がもらえないのです。当然退職金にも影響します。
 ですから高卒と大卒の初任給を同一にし、出世のペースも同じにしてしまうと大卒の生涯賃金はとてつもなく低くなってしまいます。それを揃えるために大卒の給与は高くなる――それがもうひとつの説明です。

 もちろん企業の規模や業績によって異なりますし、高卒と大卒では出世のハードルが違ったりしますから必ずしもその通りになりませんが、日本の場合普通のサラリーマンなら大雑把にこの枠の中にあると言えます。
 逆に言うと、才能だの家柄だのといった特殊な要素によって収入の格差が生まれる側面は、日本の場合、極端に少ないように思われます。

 以上、教育の現場にいるとき、私は子どもたちにそのような説明してきました。非正規雇用が増えたり貧困率が高くなったりしたおかげでだいぶ色あせましたが、今でも十分通用する考えだと思います。
 しかしその説明では子どもが納得しない事例があります。
 芸能人やプロスポーツ選手の年俸です。いくら実働年数が短いとはいえ、年俸5億円とか月収1千万円超となると説明に窮します。

 もちろん広島カープの黒田の6億円だとか俳優の渡辺謙が1億円だとかはいいのです。何とか説明ができます。しかしそれが綾野剛の1億円だとか佐々木希の3億1千万円だとかだと難しくなってきます。二人ともいい俳優、いいモデルであることは分かりますが、生徒の保護者の年収との差をどう理解させるのか、なかなかアイデアが浮かばないのです。ましてや小島よしおの1億円となると何と言ってあげたらいのでしょう? 海パンひとつで「オッパッピー!」と叫んでいる若い兄ちゃんは、生徒の父親より若いのに20倍もの収入を得ているのですから。
 私だって納得できません。コツコツと真面目に、時には息の詰まるような思いをしながら40年近く働いた人間の生涯年収を、35歳の海パン男は1年でたたき出し、そんな生活をも10年近くも続けているのです。

 収入は生活の糧ですが一面で“評価”という意味も持ちます。そうなると小島よしおは私の10倍の価値を持つ男、ということにもなりかねません。
 納得もできなければ説明もできない話です。

(この稿、続く)