カイト・カフェ

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「世界にとってもっとも危険な私の隣人とホストの純情」~度し難い傾向を持つ人々の話②

 最悪のことを考えると、あまりにも危険な人物が側にいる。
 趣味の取り合わせが悪すぎる。
 時には悪所にも純な精神がある。
 しかしそこに、
不純な精神が百万倍もある。
――という話(写真:フォトAC)

【世界にとってもっとも危険な私の隣人の話】

 近所にちょっと怖そうな感じのおじさんがいます。もう80歳近いお歳かと思うのですが1m80cmはあろうという高身長で、病気をするまでは体重も100㎏は優に超えそうな巨漢でした。今はやせ細っています。
 普通のサイズの中古住宅を買い取って屋根瓦を葺き替え、黒い破風に立派な金の装飾を施したかと思ったら、正面に立派な門を立て(棟門というのかな?)、少し中途半端ですが堂々としたお屋敷風の建物にしてしまいました。乗る車はもちろんベンツです。

 世の中には時々取り合わせの悪い趣味を持つ人がいますが、この方の趣味は「酒」と「運転」。どうにも危険な匂いしかしません。案の定10年ほど前、飲酒だか酒気帯びだかで事故を起こし、そのまま免許取り消しになってしまいました。

 免許はなくなったはずなのにその後もベンツは売却されることはなく、駐車場に置き放しになっていたので“不思議だなあ””もったいないなあ”と思っていたら何年かのち、今度は初心者マークがつくようになってびっくりしました。
 70歳をはるかに超えて運転免許を取り直したようなのです。その根性にも驚かされますが、「あの齢で、あのベンツで、初心者マーク」というのが無邪気とも、滑稽とも、不可思議とも――。しかも運転しているのが「あの強面(こわもて)」ですから、もうそこまでくると「かわいい」とさえ言いたくなるよう感じでした。それから2年――。

 久しぶりにお宅の前を通ったらベンツがない。たまたまその日だけなら外出ということもありますが、いつ通ってもない。そこである日、地域の物知りに聞いたら、
「いやさアイツ、また飲んで運転して、側溝に落ちて車が大破だってさ。それも――どこで事故を起こしたと思う? ○○市だぜ。そこまで行く間のことも、何も覚えていないって言うんだぜ」
 教えられた町はここから250㎞も先のところにあります。とりあえずそこまでどうやって行ったのか、高速道路を使ったのか、一般道なのか、はたまた飲みながら運転していたのか――。
 自分が死ぬならまだしも、事故で人を何人も殺していたら、その罪は寓話のサソリの比ではありません。

「サソリとカエル」を聞いてすぐに思い出したのがこのおっちゃんのことです。しかしちょっと印象がずれるかもしれません。

【ホストの純情をどう計算するか】

 最近終わったフジテレビの木曜劇場『愛の、がっこう。』*1
「高校教師である小川愛実は生徒からの信頼を得られずに悩み、婚約者との関係にもどこか不安を抱えていた。そんなある日、教え子がホストクラブに入り浸っていることを知った愛実は、彼女を連れ戻すべく店へと駆けつける。だが、そこでホスト・カヲルと出会い、彼と関わり続けるうちに禁断の恋へと足を踏み入れる」(Wikipediaから抜粋要約)
 そういう話だったようです。
 このドラマが気になったのはほんの2週間ほど前、ネットで「“ホストと客の間に純粋な愛がある”という面を強く押し出すと、視聴者に間違ったメッセージを与えることになりかねない」(大意)という評論を目にしたからです。「サソリとカエル」の寓話を知ってから、なおのこと気になりました。

 そこで最終回だけでも見ておこうと視聴したのですが、やはり1回分を見ただけで感想を語るのは難しそうです。
 ただ、一般論としては次のようなことは言えるでしょう。

  1. ホストと客との純粋な愛は確実に存在するだろう。
  2. しかしその世界には客から収入を得るための偽の愛の方が圧倒的にはびこっていて、ここで純粋な愛を求めることは海に落としたダイヤモンドを探すほどに稀だろう。
  3. ホストとの丁々発止を楽しめる人ならまだしも、素人が真剣なものを求めていくにはあまりにも危険な場所だ。
  4. 一切合切を奪った後で、
    「ごめんよ、我慢できなかったんだ。これがボクの性(さが)なんだ」
    そうつぶやくホストの顔が、思い浮かぶ人だけが行くべきところだろう。

 「愛の、がっこう。」 困っている人がいる以上すべてを投げうってでも助けに行こうとする女性主人公(木村文乃)の職業が”高校教師”という、いかにもありそうで、いかにも危険な組み合わせなので、余計にそう思いました。
 (この稿、続く)