学校教育の要諦は教育基本法が定め、
学校教育法が背骨を通し、施行法が肉付けをする。
それだけでがんじがらめのようだが、
見方を変えれば、学校独自にできることは山ほどある。
という話。(写真:フォトAC)
【クイズ:どれがなくせる仕事かな?】
クイズです。
次の中で、校長先生が独断で廃止できるものはどれか、すべて挙げよ。
- 運動会
- 通知票
- 小学校英語
- 家庭訪問
- 総合的な学習の時間
- 中学校文化祭
- 音楽会
- 修学旅行
- 教員評価
- 卒業式
実は答えは2セット用意できます。
1セット目の答えは「廃止できないもの3・5・9、廃止できるもの1・2・4・6・7・8・10)というもの。
2セット目は「どれも廃止できない」。
まず、前者について説明します。
【廃止できないもの】
まずは廃止できないものは、「小学校英語」「総合的な学習の時間」「教員評価」。いずれも法的根拠があって代案がないので廃止できません。小学校英語と総合的な学習の時間については指導することが学習指導要領に明記されています。
さらに英語については「第4章外国語活動」という項目に書かれているのでフランス語や中国語でもよさそうな気がしますが、最後まで読むと「英語を取り扱うことを原則とすること」とあるので英語でなくてはならないのでしょう。また後者(総合的な学習の時間)については「よのなか科」など名称を変えて実施する学校もありますが、内容は指導要領にある通りでなくてはなりません。
9番の「教員評価」は学校教育法第42条、第43条、および学校教育施行法規則66条、67条で、学校が自ら評価を行ってその結果を公表することや、保護者や地域住民などの関係者による評価を行うことが求められています。ですから校長が独断でやめることはできません。
全国学力学習状況調査も同じです(教育基本法第16条第2項が根拠)。
【単純に廃止できるもの】
「通知票」と「家庭訪問」はそれに代わるものを置かなくても単純に廃止することができますし、すでになくした学校もあります。
「通知票」はもともと児童生徒の学校での様子を報せるもので、多くの場合は学校に残す公簿である「指導要録」の内容に準拠するようにできています。指導要録というのはその子が学校に在籍した期間の全記録で、本人氏名や保護者氏名、入学前にいた場所や進学先について書かれた在籍の記録が20年、指導の内容(出欠日数、成績や活動など)の記録が卒業後5年間、学校に保管されることになっています。一般の目に触れるものではありませんが、自分に関する情報がどんなふうに書かれているか、本人が知らないというのはやはり問題ですから、その一端を通知票で知らせる、という形を取るわけです。
また、指導要録は高校に提出する調査書(内申書)とも同調しますから、通知票を通して「調査書の内容はこんなふうになりますよ」と、予め本人や保護者に覚悟を決めてもらうための道具とも言えます。
いずれにしろ手間をかける価値のあるものですが、公簿ではありませんからやめてもかまわないのです。
家庭訪問も同様です。元は就学援助との兼ね合いで、家庭の様子を知らないと書類も掛け合いので始められたものと承知しています。就学援助を受けたい家庭を見に行くというよりは、受けたがらない、あるいは制度自体を知らない家庭に勧めるために行くのが一般的でした。ただし家の中の様子を知ることによって、その子の成長の背景も分かるわけですから、重宝がる教師も少なくありません。特に4月に新たに受け持つことになった子について、本人から読み取れる以上のことが家の雰囲気から分かることがあって、私は好きでした。
けれど家庭の様子・雰囲気を知られるのが嫌な保護者たちが、プライバシーを盾に取ることで、この制度も廃って行きました。そのため指導の質は下がりましたが、保護者の強い希望であればしかたなかったのでしょう。
【代替を用意してやめることのできるもの】
「運動会」「文化祭」「音楽会」「修学旅行」「卒業式」、これらはいずれも代替を用意して廃止できるものです。
学校の行事のほとんどは学習指導要領の「特別活動」に根拠を持つもですが、例えば運動会については、「第6章特別活動」→「第2 各活動・学校行事の目標及び内容」→「〔学校行事〕」→「2 内容」→「(3)健康安全・体育的行事」に、
「心身の健全な発達や健康の保持増進,事件や事故,災害等から身を守る安全な行動や規律ある集団行動の体得,運動に親しむ態度の育成,責任感や連帯感の涵かん養,体力の向上などに資するようにすること」
とあるだけで運動会をやりなさいとは書いてありません。指導要領に定められた「学校行事」には違いありませんから、何かやらなくてはならないと思うのですが、運動会である必要はないのです。
学校で一番重要な行事である「卒業式」はどうでしょう?
卒業式の最重要な法的根拠は、学校教育法施行規則第五十八条の「校長は、小学校の全課程を修了したと認めた者には、卒業証書を授与しなければならない」です。しかし式を挙げろとは書いてありません。
学習指導要領にも「(4)儀式的行事 学校生活に有意義な変化や折り目を付け,厳粛で清新な気分を味わい,新しい生活の展開への動機付けとなるようにすること」とあるだけで特に卒業証書授与式に関する記載はありません。
ただ、最後の方に「入学式や卒業式などにおいては,その意義を踏まえ,国旗を掲揚するとともに,国歌を斉唱するよう指導するものとする」という記述がありますから「卒業式はやってもやらなくてもいが、やるなら国旗を掲揚し国歌を斉唱しなさい」と読み取ることもできます。証書の授与は必要ですがあれほど厳粛にやる必要はないのです。担任が教室で厳かに渡すだけでもいいのです。
文化祭や音楽会は「(2)文化的行事」、修学旅行は「(4)遠足・集団宿泊的行事」ですから、教室内で何か文化的なことをしたり歌合戦をしたりして、そのあと近くの児童公園に遠足したまま学校に戻ってお泊り会でもすれば、一応は全部やったことになります。
【校長は万能だ!】
SNSで、「先生たち! 校長先生はたいへんな権限を持ってるよ。校長先生にしっかり働いてもらいましょう」という一文を読んで思い迷い、最後にたどり着いた着地点がここです。
そうです、法的に回避できないものは別にして、校長の権限で学校行事などを片っぱし縮小ないしは廃止すれば、時間外労働などあっという間に半減どころか一割にさえ縮小できるかもしれないのです。
大げさな卒業式も入学式もなくし、家庭訪問も懇談会も通知票もなく、その上で職員の足並みをそろえるために学級通信も出させないようにする。運動会は校内マラソン大会に、音楽会は学年合唱に、修学旅行は近隣への遠足と学校宿泊体験で済ませる(それだって楽しそうですが)。もちろんその前に、地域移行ができようができまいが、部活動は廃止しておきます。
そうすれば職員が始業10分前までに出勤し、定時に気持ちよく退勤できる学校が生れる――ああ、校長って何でもできるのだなと、いまごろようやく気づいたわけです。
(この稿、続く)