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「水泳の練習時間はとりあえず半減にされる」~学校から水泳指導がなくなる④

 夏休み中のプール開放がなくなると稼働率は極端に下がり、
 維持管理費と補修費が重くのしかかる。
 行政は民間のプールの利用を考えるが、
 はたしてそれでうまく行くのだろうか。
という話。(画像:フォトAC)

【学校のプールはなくなる】

 夏休み中にプールを開放する学校が少なくなっているという朝日新聞デジタルのニュースから話をはじめています*1

 考えてみれば昭和の時代、お盆を除いたひと夏を、まるまる使いっぱなしだった学校のプール、そのプール開放がお盆までとなり、やがて夏休み当初の一週間だけに減らされて、いよいよ取りやめとなる。すると実質的なプールの使用期間は、梅雨明けから終業式までのわずか10日間だけといったふうになってしまいます。50日近く使っていたものが10日以下に減らされるわけで、そうなるとプールの維持管理費、補修費は学校に重くのしかかってきます。
 今後、学校のプールが改築されたり新築されたりすることは、もはやないのかもしれません。1960年前後に雨後の筍のようにつくられた学校プールは、今や一斉に老朽化して、捨てられようとしているのです。
*1:夏休みの水泳指導、取りやめ相次ぐ理由 子の泳力に影響、懸念の声も(2024.08.01 朝日新聞デジタル)

【その代わりをどうするのか】

 現在、進められているのは水泳指導の民間委託で、近隣のスポーツ施設のプールに移動し、そこで専門コーチに指導してもらうというやり方です。今年5月20日の関西テレビで特集報道をやったみたい*2ですが、それによると京都市立の小中学校4校が、今シーズンから体育の水泳の授業を民間のスイミングスクールに委託する取り組みを試験的に始めたというのです。
 理由としては60年前につくられたプールの老朽化、プールを管理しなくてはならない教員の負担軽減、気温上昇による熱中症の回避、そして維持管理費の削減、そのあたりのようです。経費削減については、取材に応じた京都市立正親小学校の場合で170万円にも及んだといいます。
 民間のプールは屋内で天候に左右されることもなく、水温も一定のため必要なら冬場でも授業が行えます。専門のコーチに教えられて子どもたちも満足そうですし、先生たちにも好評だと関テレニュースは言います。
「お話の仕方とか見させてもらって、思わず僕も習ってみようかなと思うくらい、上手に教えていただいて・・・・」
*2:『学校からプールがなくなる? 小学校が水泳授業を「民間委託」 維持管理費の削減とプロ指導に学校側も期待』(2024.05.20 関西テレビニュース)

【スイミングスクールに特別の技があるわけではない】

 しかしこういう取材に対して、人は良いように言うものです。
 後日、放送されることが分かっていながら、「あの程度ならボクにもできます」とケンカを売る教師もいないでしょう。私も同じように答えます。
 しかし腹の中では、
「同じことはオレでもできる。児童の個々の性格を掴んでいるという意味では、たぶんオレの方がうまい」
と思っています。なぜなら学問やスポーツに王道はないからです。
 学校でかけ算九九や方程式の解き方を教えても、すらすらとできるようになるかどうかは結局、本人の努力次第。それと同じように、泳げるようになるか、スイスイと上手に速く泳げるようになるかは結局本人次第なのです。
 
 私は自分の二人の子どもに水泳を学ばせるため、ほぼ10年間、毎土曜日の午後にスイミングスクールに送り迎えをし、その間の1時間あまりは練習の様子を見ながら教え方の勉強をしていたのです。その結果わかったことは、確かにメニューのつくり方などは学ぶべきことがたくさんありますが、コーチングそのものは教員が経験から編み出したものとあまり変わりないということです。オリンピック選手を育てようというのでなければ、やることは同じ。間違った泳ぎ方をしていないか繰り返しチェックしながら、できるだけたくさん泳がせること、それが上達の近道です。正しい泳ぎ方が教えられるようになると(教則本に書いてあることが言える程度でいいのです)、問題は練習時間をどれだけ増やせるのかということになります。

【日本人の泳力は保護者が支えてきた】

 小学校高学年以上の体育の授業時数は年間105時間(小学校45分、中学校50分を1単位時間として)。そのおよそ1割、10時間強が水泳に当てられるのが一般的です。しかしそれだけで泳げるようになるわけではありません。
 昔の子どもは、保護者の引率してくれる夏休みのプール開放のために、とんでもなく長い時間を水泳練習に費やしていました。当然、泳ぎもうまくなります。今はそこまで泳ぎ込むことはしませんが、代わり小学校入学前に、多くの保護者が、
「水泳の授業が始まってウチの子が泳げないのは可哀そう」
ということで、直接プールで教えたりスイミングスクールに通わせたりしてくれるので、かなりの子が泳げるようになって入学してきます。
 1年間に10時間という水泳練習は十分なものではありませんが、古今の保護者の支援によって、この国で育った子どもたちは海や川を怖れることなく、むしろ楽しんでつき合うことのできる人間に育ってきたのです。

【授業時間は削減される】

 さて老朽化したプールが建て直されることなく放棄され、京都市が実験的に行っているように水泳の授業が民間施設に委託されるとなると、その先はどうなるのか――。

 まず考えられるのは練習時間の減少です。
 関テレの特集で取り上げられた市立正親小学校のスイミングスクールを利用した水泳の授業は年5回です。学校のプールは老朽化のため放置されていますから、今年の水泳はこの5回がすべてだと考えて間違いないでしょう。 
 徒歩で移動するのも授業時間内ですから往復の時間を含めて1回の利用が1.5~2(単位)時間くらい。つまり5回のスイミングスクール利用で年間に使える水泳の履修時間(10時間)はだいたい使ったことになります。計算上は問題ありません。しかし実際にプールに入っている時間は、これまでの最低10時間から半分の5時間に減ったことになります。
 
 水泳の練習時間がこれまでの半分になっても大丈夫かという問題は、「水泳指導のプロが教えるから」ということで担保されているかのように見えます。しかし先ほども申し上げたように、学問とスポーツに王道はないのです。プロのコーチに教えられればカナヅチが5時間でスイスイ泳げるようになるわけではありません。
 さらに問題なのは、専門家が教えてくれるのだからということで、保護者が予め泳げるようにしておくこともやめてしまうのではないかという恐れです。結局はスイミングスクールでタダで教えてもらえるのだから、前もって自腹で行かせることもない――そう考えるのが普通ですよね?
 (この稿、次回最終)