カイト・カフェ

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「昭和と違って、令和の悪い奴はしんそこ悪い」~教え子をアホな受け子や強盗にしない方法①

 1968年のアメリカ映画「華麗なる賭け」、
 そこで描かれる犯罪とよく似た事件が令和の日本で頻発した。
 映画は犯罪グループの頂点にいた男が主人公だったが、
 現代の事件について、私は実行犯の方に興味がある。
 という話。(写真:フォトAC)

スティーブ・マックイーン華麗なる賭け」】

 1968年のアメリカ映画「華麗なる賭け」は、主人公のスティーブ・マックイーンが5人の手下を使った銀行強盗を計画し、まんまと260万ドルの現金を手に入れるところから始まります。その犯人を追いつめる女性保険調査員がフェイ・ダナウェイで、これこそ華麗なる配役と、見る前から心ときめいたものでした。私はまだ中学生でした。

 この映画の面白さの核心は、その銀行強盗のしかた――押し入った5人はその瞬間が初対面だというところにあります。黒幕の富豪実業家(スティーブ・マックイーン)が一人ひとりと顔を合わせない形で面接し、それぞれの役割を指示して5人を銀行に突入させたのです。全員が確実に仕事をするための保証、現金を持ち逃げさせないための保証はどうだったのか、そのあたりは忘れました。いずれにしろマックイーンはうまくやりおうせて、見ていた私はその格好良さに頭がくらくらしていました。

 それから数年後、日本では有名な3億円強奪事件があり、犯罪者というのはなかなか賢く格好いいものだと誤解しかけたのですが、以後これに比肩する事件は二度と起こりませんでした。そこで学んだのは、
① 結局、「華麗なる賭け」はフィクションだということ。
三億円事件もけっこうな偶然に助けられているということ。
③ 本当に賢い人間は犯罪などせずとも金持ちになっているということ。
 特に3番目は、肝に銘じて今日まで生きてきました。「華麗なる賭け」のスティーブ・マックイーンにしても犯罪で金持ちになったのではなく、金持ちが犯罪をしただけといった印象で、誰もあんなゲームみたいな銀行強盗を考えたりしません、と思っていた・・・。
 ところが令和になって、この日本で、犯人たちが犯行当日、初めて顔を合わせて強盗をするといった事件が頻発したのです。
――フィリピンでルフィーを名乗った男たちによる、あの犯罪です。

【昭和のスーパースターが令和のおっさんに置き換えられる】

 犯人はスティーブ・マックイーンに比べくもないでっぷりと太った中年男たちで、頭も良さそうに見えないのですが、経験知と集団知とインターネットによって、昭和・平成では考えられないような犯罪が企画され、実行されました。

 経験知と集団知と言ったのは、いわゆる特殊詐欺の担当者として長く仕事をする中で、ずっと悩まされてきた二つの課題、
① 一番危険な仕事である詐欺被害金の受け取り役=「受け子」をどう雇い入れるか。
② 悪質な(?)「受け子」による詐欺被害金の持ち逃げをどう防ぐか。
に目星をつけたからです。
 前者の課題はネットをつかった、いわゆる「裏バイト」のリクルートで、後者については予め「受け子」の個人情報を大量に握っておいて、それで脅すという方法で解決したのです。そしてしばらくそのやり方で仕事をするうちに、彼らは突然、気づくのです。
 このやり方だと警察の手は絶対に自分のところまで届かない。だったら特殊詐欺などという面倒くさいことをする必要はなく、そのまま強盗をやらせればいいじゃないか。
 かくして昭和の「華麗なる賭け」は、令和のでっぷりと太ったおっさんたちに置き換えられてしまったのです。

【「受け子」はどう扱われたか】 

 一昨日のNHKニュースに『「闇バイト」で検挙 少年たちの証言まとめた事例集公表 警察庁』というのがありました。午後9時のニュースで扱ったと思うのですが、私は見落としていて翌朝(昨日)のニュースで見ました。
 内容はこんなふうです。
高額の報酬をうたい、特殊詐欺や強盗などの実行役を募る、「闇バイト」の実態や危険性を伝えようと、警察庁は、検挙された少年たちの証言をまとめた事例集を公表し、安易に応募しないよう呼びかけています。

事例集では応募してから検挙されるまでの基本的なパターンが紹介され、多いのは、みずからSNSなどで「高額報酬」などと検索するケースで、応募すると続いて犯行グループから秘匿性の高い通信アプリ「テレグラム」や「シグナル」を入れて、やりとりするように指示されます。
その後、「アルバイトをするための登録情報として必要だ」などと個人情報を送るように求められ、保険証や住民票、顔写真に加え、家族構成や勤務先、交際相手の情報などをことば巧みに聞き出してくるといいます。

こうした個人情報を送信すると、仕事の詳細が伝えられますが、詐欺だと気付いてやめようとすると、その個人情報をもとに脅されます。中には、
「『自宅に押しかける。母親から狙う』と脅された」とか、「『家族全員殺す』などと脅迫された」といった証言があり、犯行グループの末端として加担せざるをえなくなる状況に追い込まれるのです。一度加担すると、逮捕されるまで抜けられなくなるということです。
その挙句、犯行グループに「報酬は口座に振り込む」と言われたものの支払われずに逮捕されたケースや、報酬を上回る金を巻きあげられたうえ、警察に密告されて逮捕されたケースなど、都合よく利用されたあと「捨て駒」として切り捨てられる実態がわかります。

警察庁の担当者は、「『闇バイト』はアルバイトではなく犯罪だ。たった一度でも手を染めれば、必ず警察に検挙される」として、安易に応募しないよう呼びかけています。

 私は言葉を失ってしばらく天を仰いでいました。

(この稿、続く)