カイト・カフェ

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「逮捕されることが幸せという逆転はなぜ起きるのか」~教え子をアホな受け子や強盗にしない方法②

 犯罪に走った子どもたちを自業自得と切り捨てることは簡単だ。
 しかしそれにも限度がある。
 余りにも無知で蒙昧な犯罪者予備軍は、
 やはり助けてやらなければならないと思う。
 という話。(写真:フォトAC)

【わが子がいたぶられるようで、絶句する】

 昨日ご紹介したNHKニュース『「闇バイト」で検挙 少年たちの証言まとめた事例集公表 警察庁』の一部、

  • 詐欺だと気付いてやめようとすると、その個人情報をもとに脅されます。
  • 『自宅に押しかける。母親から狙う』『家族全員殺す』一度加担すると、逮捕されるまで抜けられなくなる
  •  その挙句、犯行グループに「報酬は口座に振り込む」と言われたものの支払われずに逮捕されたケース
  •  報酬を上回る金を巻きあげられたうえ、警察に密告されて逮捕されたケース
  •  都合よく利用されたあと「捨て駒」として切り捨てられる実態

 昨日私は、
「言葉を失ってしばらく天を仰いでいました」
と書きましたが、それが自分の二十歳前後の息子の話だと想像してみてください。
 つまらぬ気の迷いから応募したばかりに「犯罪を行うか、家族を殺されるか」という、どちらに転んでも地獄の二者択一を迫られ、家族は犠牲にできないので意に副わない強盗の片棒を担ぐことになり、蛮勇と自棄の末に事件を起こしたものの一銭の実入りもない。それどころかなけなしの自分の財産まで巻き上げられ、さらに別の犯罪まで押し付けられて、もうだめだ、これ以上は支えきれないと、この際、次の犯罪情報を手土産に、交番にでも駆け込むしかないと覚悟を決めたころ、悪事に関しては二枚も三枚も上手の上層部は見切りをつけて、新たな計画を漏らされる前に一足早く密告して縁を切る。
 棄てられたこの子のここ数か月間、その青春、その人生とは何だったのだろう。ただ怯え、意に反する犯罪の実行者となり、なんの儲けもないまま捨てられて警察に逮捕される、名前が公表され、家族には失望され嘆かれ、古くからの友だちや先輩・後輩たちには呆れられ見放され、いたとしても恋人とはもう連絡もとれない。未来は閉ざされた――。
 
 それが私の息子だったら何と声をかけたものか、それが私の教え子だったらどう救えるというのか――それが私の天を仰いだ理由です。
 バカな子には違いありません。しかしバカはバカなりに数か月間、塗炭の苦しみを味わってなんとか態勢を立て直そうともがいてきたはずです。
 私は何とかしてその子たちを救ってあげたい。

【逮捕されることが幸せという逆転】

 もっとも逮捕された時点で、その子はもう救われたのも同じなのかもしれません。警察のツバのついた若者を犯罪者集団が追い続けることはあり得ないからです。
 本人にしても元々《九分九厘、自分の家族は襲われない、奴らはそれほど暇ではない》と思いながらも、《万が一に見せしめの対象が自分の家族だったら》と考えと逆らえない--そういう状況にあっただけなので、警察の懐に入ってむしろ安心したことでしょう。
 
 逮捕されることが幸せという逆転した世界で、彼は十分な時間を与えられることになります。
あとは本人がどういう人生を選び取るか、それだけですが、犯行の過程で誰かを死なせてしまったという例もありますから、選べる人生の幅が極端に狭まっている場合もあるでしょう。そうなると絶望もまた、深くなります。
 
 世の中のたいていのことは起こってからは極端に打つ手が減るものです。事前に対策を打つ方がどれほど楽か分かりません。我が子や教え子を、こんな形の加害者・被害者にしないためにどんな手が打てたのか、やはり考えておく必要があります。

【若者の一部は、社会をほんとうに理解していない】

 ひとつヒントになるのは、受け子として逮捕された若者(あるいはルフィの強盗犯たち)の大半が、闇バイトの先になにがあるか、まったく知らなかったという事実です。彼らはテレビどころかインターネットのニュースさえ見てはいません。私が「新しい学校のリーダーズ」や「水曜日のカンパネラ」を知らなかったように、若者の一部は無知・無防備な「受け子」たちが日本全国で毎日のように捕まっていることを、遠い島宇宙での出来事のようにしか思っていないのです。
 
 もうひとつ注目しなくてはならないのは、彼らの一部が「おいしい話には必ず裏がある」という社会の原則を舐め切っているということです。ハイリスクを採らなければハイリターンはないにしても、採るべきハイリスクにも限界はあるはずです。
 (この稿、続く)