「生贄たちの探索」

       〜犯罪被害者の検索の仕方

 神奈川県座間市のアパートで男女9人の遺体が見つかった事件は、まだ捜査が始まったばかりですので何かを言うつもりはなかったのですが、ふと思い立ったことがあってここに記録しておきます。

 それはひとつの事件や状況を端緒に、特定のグループが発見されることの意味と危険ということです。

【集団の発見】

 古くはピンクレディによる「すさまじい購買力をもった小学生」の発見です。

 これについては何回か書きました(2015/5/29「歌謡曲考」�B〜子どもの発見 他 )ので改めて触れませんが、この発見によって芸能界は関連商品を文房具や玩具にも広げ、曲も振りも発信するメッセージもお子様仕様に広がりをみせたのでした。

 「事件」にかかかわるものとしてはまず「宮崎勤事件」(1989年)。

 この事件を通して私たちは世の中に互いを「オタク」と呼び合う人々が存在することを知りました。

 陰惨な幼女連続殺人事件によって掘り出された「オタク」は、しばらく怪しげな人々、危険な面々といった扱いを受けましたが、「オタク文化」が商業ベースに乗り、外国からも高く評価されるようになるといつの間にか宮崎の影は消え、今日ではむしろ積極的な意味で語られることが多くなっています。

 世紀末の2000年5月3日に起こった「西鉄バスジャック事件」では、「2ちゃんねらー」と呼ばれるネット上の集団があぶり出されました。

 「アゲ」だの「サゲ」だの、あるいは「アボーン」などと言った特殊な符牒を使う人々は、突然陽の光を浴びるようになってむしろ戸惑ったみたいでした。しかしとんでもない数のカテゴリ(板)を用意して丁々発止とやり合い、煽り、生き生きと潰し合うような情報交換の場があるということを、私たちはこのとき初めて知ったのです。

【“彼”のしたこと】

 そういう観点で座間の事件を見直したとき、もしかしたらこの事件の最大の問題性は“死を求めて孤独に彷徨うネット上の若者たちの存在”を広く世の中に知らせてしまったところにあると言えるのかもしれません。しかも彼らは2か月間に9人というすさまじい速さで容疑者の元に吸い寄せられていくような人たちです。

 宮崎勤が4人の幼女を誘拐して殺すのに要した月日はおよそ1年、アメリカの伝説的連続殺人鬼、ジェフリー・ダーマ―が16人を殺すのに要した年月は3年5カ月です(実際には10年前に一人殺しているため13年5カ月で17名という計算もできます)。

 宮崎勤もジェフリー・ダーマーも自分の足で対象者を探し、声をかけ、自分の場所に招きいれるしかありませんでした。それは危険なことです。だから犯行の頻度は落ち、宮崎は実際に事件を起こしている最中に被害者の父親によって取り押さえられ、警察に突き出されています。

 しかし座間事件の容疑者は2カ月で9人。平均すると実に週ひとりの割合で殺していきます。そのスピードは、白石隆浩というシリアルキラーが一度決心すると、被害者をほとんど無制限に手に入れることができたからです。

 しかも彼は被害者を探すのに一歩も歩きません。すべてスマホで処理できるので略取の現場で取り押さえられる心配がない。生贄は向こうから来てくれる。

 さらに都合いいことに相手は自殺志願者ですから、孤独で寄る辺がない、釣り出しやすい、その多くが突然姿を消しても違和感のない人たち、周囲は家出や自殺を疑っても犯罪の匂いを嗅ぎ取らない、だから本格的な操作も始まらない。

 ある意味、完璧なまでに安全な餌食を、ほとんど入れ食い状態で手に入れることができたのです。

【これから注意すべきこと】

 これまで出会い系サイトや家出サイト、神待ち掲示板などが犯罪の温床として警戒され注意喚起も行われてきました。あえてそうした場所に踏み込む人たちもそれないりの覚悟をしてはいって行ったはずです。しかしそのとき意識されたのは性犯罪が中心で、ネットがシリアル・キラーの狩場となる可能性についてはほとんど誰も語りませんでした。ましてや一見殺人とは何の関係もない「#自殺募集」が、被害者蒐集の場になろうとは誰も想像しなかったことです。

 もちろん現在の状況で「#自殺募集」を検索して殺人を犯そうとする人はいないでしょう。

 みんな警戒していますから。

 しかし今回の事件を通して、私たちはハッシュタグの下に適切な単語を入れることによって必要なタイプの人間を必要なだけ集められることを知ってしまいました。

 そして気持ちの上では自分の命をまったく軽々しく扱うことのできる人々の存在も、強く示唆されました。

 今もこの時間、「#」の下に置く言葉をあれこれ真剣に考え、作業に熱中する人がいるかもしれません。

 私たちは何を警戒し、どんな対応をすればいいのでしょうか。