ウクライナで死んだロシア兵のメールが、国連で公開された。
今や世界から非難されるロシアだが、
ウクライナの最前線で、
誠実なロシアの若者が孤独にうめいているのだ。
という話。(写真:フォトAC)
【母さん、ボクはウクライナにいるよ】
ウクライナの戦闘で亡くなったロシアの軍人が、亡くなる直前に母親とやり取りしたという携帯メールの内容が国連で公開されました。報告したのはウクライナの国連大使です。死の数分前に残されたメッセージだそうですが、母親が「なぜこのように返信が遅いの?」「まだクリミア半島で訓練中なの?」「父も聞いているよ」「何かあるの?」と訊ねるのに対して、息子の返事はこうでした。
「母さん、ボクはウクライナにいるよ。ここでは本当に戦争が起きているんだ。ボクたちは行けば歓迎されると聞いたのに、実際はそうではなかった。ボクは怖いんだ。ボクたちは都市を爆破していて、さらに民間人を撃っている。彼らは身を投げてボクたちが通り過ぎる道を遮っている。彼らはボクたちをファシストと呼んでいる。母さん、ほんとうに辛い」
戦争中ですから偽情報はいくらで出ます。ですからこれがほんとうのやり取りだという保証もないのですが、それにしても切迫感のある文です。これが事実ではないとしても、ウクライナに動員されたロシア兵は20万人と言われていますから、同じ感想を持つ兵士はいくらでもいるはずです。
【私の赤ん坊たち】
私は若いころ、というより子どものころ、「あゝ同期の桜」だとか「きけわだつみのこえ」とかいった太平洋戦争で亡くなった兵士たちの手記を集中的に読んだことがあります。当時の私よりも2~3歳年上の人たちの文章ですから切実でした。
しかしそれから半世紀も経って死んだ兵士たちの祖父ほどの歳になると、感じ方も違ってきます。
太平洋戦争で亡くなった兵士も、今日、ウクライナの土地で死んだウクライナ兵もロシア兵も、今の私から見れば赤ん坊のようなものです。
攻め込まれて否応なく戦わなくてはならないウクライナ兵も、都市を破壊し民間人を殺し、ファシストと罵られながら進まなければならないロシア兵も一様に不幸です。
誰が赤ん坊たちにそんなことをさせているのか。
【世界で最も弄ばれた国民、世界で最も粗雑に扱われた兵士たち】
昨日も申し上げた通り、ウクライナはヨーロッパの西と東からなぶり者にされるような歴史に、耐えながら今日を生きている国です。ですからその国に生まれた若者たちは、最初から背負わなくてはならない過酷な運命がありました。
一方、ロシア兵は世界で最も乱暴で粗末な扱いをされてきた人々です。そのことは単純に第二次世界大戦の死者数を比べるだけで分かります。日本兵212万人、ドイツ兵430万~550万人、アメリカ兵41万人、イギリス兵38万人。それに対してソ連兵はなんと870万人~1385万人もの死者を出しているのです(Wikipedia)。いかにいい加減な扱いを受けて来たかは一目瞭然です。
今回のウクライナ侵攻でも、圧倒的な兵力と十分な準備期間と言われながら、最前線では食料・燃料・弾薬の不足に苦しんでいるようです。その程度の支援で送り出されているのです。考えてみればベラルーシとの合同演習を名目に移動してきたわけですから、もう何週間もテント暮らしを続けているのです。その状態から大義の感じられない戦争に駆り出されてくる――。
「母さん、ほんとうに辛い」
子どもにこんなことを言わせてはいけません。
それにしても平和であることのなんと難しいことか――。