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「ウクライナ戦争について、子どもに訊ねられて困らないために」~この戦争は何をもたらすのか① 

 ウクライナ戦争について子どもに聞かれ、
 アタフタしているようでは沽券にかかわる。
 今回ロシアは何をやらかしたのか、この戦争は何を引き起こすか。
 ある程度の定見をもって、子どもたちの前に立ちたいものだ。

という話。

(写真:フォトAC)

ウクライナ戦争について、子どもに訊ねられても困らないように】 

 学校の先生たちは、子どもたちにウクライナ戦争のことをどのように説明しているのでしょう?
 もちろん小学校2年生と中学校3年生、高校3年生とでは子どもの疑問もこちら側の説明もずいぶん違ったものになります。ですから相手次第で噛み砕き方が違うのですが、それにしてもタネとなる知識や考え方、今後の展望などにある程度しっかりした定見がなければ、噛み砕きようがありません。

 こうした大きなできごとがあったときはいつどんな形で質問されても、相応の答えが返せるよう、きちんと勉強しておかなくてはならない――私はいつもそのように考えて実践して来ました。管理職の先生方は権威に関わりますし、社会科や地歴・公民の先生方は他の先生から突然振られたりしますから要注意です(「私、分かんないから社会科の先生に聞いてごらんなさい」)。

 授業ではよく「具体的事象に触れてこそ知識は身につく」と言いますが、現在進行形の戦争について語った内容は、特に印象深く、頭と心に残ってしまうのかもしれません。誤ったことやいい加減なことを伝えれば、日ごろに授業よりもはるかに深く、簡単に身についてしまうかもしれないということです。そのことを怖れましょう。


【ロシアは何をやらかしたのか】

“その時代に当然と考えられていた物の見方や考え方が劇的に変化すること”を「パラダイムシフト」と言います。英語嫌いの私でも使いたくなる便利な言葉です。いま、世界はまさに「パラダイムシフト」を迎えているのかもしれません。

 第二次世界大戦後の世界は、米英仏中露の五大国が国際政治に責任を持つという前提で動いていました。これらの国が己の利益のみを考えることなく、世界大戦という大きな犠牲を払ってできた世界秩序を、互いに協力し合って守っていく――そうした擬制のもとに、国際連合では拒否権が与えられ、核拡散防止条約では核兵器の独占が認められてきたのです。小さなほころびはありましたが、その大枠が崩されることはありませんでした。

 たしかにアフガニスタンイラクでは、アメリカ軍や多国籍軍が武力で政府を倒し、自分たちに都合の良い政権を打ち立てました。しかし倒されたタリバン政権やフセイン政権は決して国民から支持されたものでなく、国際的には極めて困った存在でした。そのことは各国のジャーナリストがさまざまな角度から検証しています。つまりそれが“真実”だったのです。
 今回のロシアはアフガンやイラクで起こったことを正確になぞっているように見えますが、前提部分が違っています。ゼレンスキー政権がネオナチの独裁政権で国民を圧迫し時には虐殺に及んでいる、そう言い立てているのはロシアとそれに追従する一部のメディアだけで、国際社会のほとんどは、正当な選挙で選ばれたまっとうな民主主義政権だと考えているのです。

 普通の政府を持った普通の国を、武力と国際社会における巨大な権限をもったロシアが、核兵器使用をチラつかせながら蹂躙したのです。この暴挙が成功するとしたら二匹目のドジョウを狙う大国は必ず出てきます。
 また1990年代には世界第三位の核保有国であったウクライナが、国際社会の圧力に屈してすべての核を放棄したことこそ間違いで、北朝鮮のように耐えて核保有国であり続けることが、大国から侵略されない唯一の道だ、といった誤った認識も広がりかねません。
 だからウクライナには絶対勝ってもらいたい、少なくとも負けないでほしい、というのは、西側諸国に共通の思いでしょう。


【ロシアは長期的には必ず負ける】

 ではどういう状態になったら“ウクライナの勝ち”ということになるかというと、侵略戦争では常にそうですが、侵略した側が撤退したら被侵略者の勝ちなのです。ロシア・ウクライナは共にたくさんの血を流し戦費を費やしましたが、ロシアは失わなくてもよかったもの失い、ウクライナは守るべきものを守ったからです。

 今後の戦況はどうなるか分かりません。しかし長期的なロシアの負けははっきりしています。
 ロシア軍は太平洋戦争における日本のように、軍備を失う一方です。最近では電化製品を解体して半導体を取り出し、兵器に転用しようとしていると噂されるほどです。それに対してウクライナは、おそらく太平洋戦争の時のアメリカのように、終戦時には戦前よりも大きな軍事力を手に入れているに違いないからです。
 両者ともに傷ついていますが、血を流しっぱなしの戦士と、輸血を受け続けながら戦う戦士とでは後者が有利なのは明らかです。

 さらに先を見ると、ロシアは今回失った兵士・兵器を回復するのに何年もかかるでしょうし、その間に欧米の経済制裁はじわじわと効いてきます。
 今、西側諸国は苦しみながら新しい天然ガスや石油の輸入先を探していますが、やがてつくられる新たな供給網は、戦争が終わって制裁が解かれても、元に戻ることはありません。今回の侵攻でロシアから去った企業も資本も、そう簡単に戻ってくるはずがない。
 ロシアはやがてバカでかい北朝鮮のようなものになって行きます。

 現在ロシア国内の情報が厳しく統制され、プーチン大統領の支持率も高いままです。しかしほどなく人々も首を傾げはじめます。
 これほどの正義の戦いを、世界中のほとんどの国が支持しないというのはどういうことなのだろう。連戦連勝のロシア軍がなぜこうも転戦を繰り返すのか。あれほどの兵士がなぜ遺体となって帰ってこなくてはならないのか。この経済困難に見通しはあるのか――ロシア国民は今後十数年の間、長い長い冬を続けることになるでしょう。それはどう見ても戦勝国の姿ではありません。
 以上がこれまでに分かっている大まかな現状と未来です。


【さて日本と日本人と日本の教育は、どう変わっていくのか】

 現在のウクライナに対して私たちが直接できることは、せいぜいのところ寄付をしたり関心を持ち続たりする程度のことです。しかしこの戦争が本当にパラダイムシフトを引き起こすとしたら、私たちの日常も大きな影響を受けないはずがありません。
 今回のことが日本と日本人、中でも子どもと学校に何をもたらすのか、しっかりと考えておかないと思うのはそのためです。
(この稿、続く)