カイト・カフェ

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「教員が、ものさしを持ち出して髪の長さを調べる日が来る」~東京都議会ツーブロック問題① 

 都立高校の多くで禁止されている髪型「ツーブロック
 細かな差異を無視して一括で校則違反とするには理由がある。
 しかしそれでもツーブロックを違反にすべきでないというなら、
 議会が決めて責任を取ればいいのだ。

というお話。

f:id:kite-cafe:20200720061938j:plain(「えんじ色シャツ髭の外国人男性7」 フォトAC より)

 

【聖・池川議員の不信】

 先週の「キース・アウト」で扱ったBazzFeedの記事『事件に遭うからツーブロック禁止? 都立高校の校則に「意味不明」「データはあるのか」と批判殺到』はさまざまな意味で興味深いものでした。

 都立高校において
 なぜ、ツーブロックはだめなんでしょうか。
と質問した東京都の池川議員、
 その論点は以下のように、まとめられます。

  1. ツーブロックと言ってもかなり広い定義の髪型なのに、なぜ全体として禁止してしまうのか。
  2. 大人の世界ではスタンダードである髪型なのになぜ禁止されるのか。
  3. 校則を決めるときに、生徒の声がほぼ聞かれていない。会社であればその過程でいろいろな意見を聞くのに、学校では校長が一方的に校則を押し付けている。

 そして最終的な主張は、
「校則は大人によって変わるものでなく、子どもたちの意見を聞いて変わっていくものだと伝えること」
ということのようです。

 そのひとつひとつに反論するのもバカげていますが、考えてみれば池川議員の疑問は平凡と言っていいくらいよく聞かされるものです。もう何十年も前から尋ねられ、何十年も前から繰り返し答えられたものなのにいまだに言われているのは、やはり学校の広報が不十分だということなのでしょう。教育長のような立場ある人が強く言ってくれればいいのですが、それが無理なら下々で対処するしかありません。繰り返し、訴えてくだけです。

 

【なぜきめの細かなことをせずに一括で対処してしまうのか】

 ツーブロックと言ってもかなり広い定義の髪型なのに、なぜ全体として禁止してしまうのか。
――その答えは、一言でいって「面倒でバカげているから」です。

 ツーブロックは池川議員のおっしゃる通り「広い定義の髪型」で、一方の極みが「人を威嚇するような『ほとんどモヒカンのツーブロック』」なら、反対側の極みは「『それでもツーブロックのつもりなの?』と言っていいほど『地味なツーブロック』」です。
 いかに池川先生と言えど「ほとんどモヒカンのツーブロック」まで許可せよとは言わないでしょう。都立高校が片端いま再び評判のテレビドラマ、「今日から俺は!」の私立軟葉高校みたいになるのは困るはずだと思うのです。
(もし、髪型は表現の自由だから一切規制してはならないというお考えなら、これからお話ししようとしている局面と別のものですから、場を改めましょう)

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 そこで「ほとんどモヒカンのツーブロック」を抑制して、なおかつ「全体として禁止しない」ことを考えると問題になるのは、どこにボーダーラインを引くかということです。そこで機能するのは数値だけでしょう。
 したがって「ほとんどモヒカン」を排除する校則は例えば次のようになります。
ツーブロックの場合、借り上げ部分は耳の上部から4cm以内として、頭頂部の髪の長さは5cmまで、しかも逆立てない」
 これで池川議員は満足でしょうか?

 翌日から学校職員は物差しを持ち出して、校門前で頭髪検査をせざるを得なくなります。それまでは見た目で“段差”があれば「ツーブロック、即違反、家に帰ってやり直し」で済んでいたものがミリ単位の抗争となるのです。
 「逆立てない」に至っては主観の問題ですからさらに厄介で、あちこちで「逆立っている」「いやこんなのは逆立ってない」紛争が巻き起こります。
 
 教員はそんなことは面倒でやりたくないのです。
 できればさっさと教室に入れて授業をしたい――しかしだからと言って「ほとんどモヒカン」を見逃して学校内を彼らが跋扈し、休み時間に下級生を、放課後に他校生を脅す事態は、それはそれで面倒です。

 必ずしもそうなるとは限らない――、そうお思いですか?
 では試してみましょうか?

 学校としては元に戻すのが大変ですから試すことさえ嫌なのですが、議員が議会で決めてその責任も取ろう(原状回復のために必要な十分な数の教員を追加配当するなど)というならやってくださっても構いません。教員が毎日ものさしを振り回して刈り上げ部分を計っていると揶揄されたら、議会が決めたことだからと庇ってあげてください。それが責任ある態度というものでしょう。

 

 【繰り返されてきた過去】

 私たちは過去に多くの愚かな失敗をしてきました。例えば「スカートは膝上3cmまで」といった校則です。そんなものをつくったばかりに教員は女生徒一人ひとりの膝にものさしを当てなくてはならなくなりました。
 世間からバカにされるだけでなく、今ならセクハラです。

 世間の流行に合わせて女の子たちのスカート丈が短くなっていったとき、学校は腹をくくるべきだったのです。その短すぎるスカートのために女生徒が性被害に遭っても家庭の問題として学校は一切責任を負わないと突っ撥ねるか、ものさしなど持ち出さずともすぐわかる「スカートは膝上まで。それ以上長くても短くても不可」みたいな融通の利かない一括規制にするか、二つにひとつしかなかったものを、安易に妥協したばかりに大変な目にあいました。
 もうそんなことは繰り返してはなりません。一括で「ツーブロックはダメ」でいくか、そもそも髪型の指導を諦めるかです。
 前者だったら学校も守らせる努力をしましょう。後者の場合は議会が責任を負ってください。

(この稿、続く)