カイト・カフェ

毎朝、苦みのあるコーヒーを・・・

「GAFAにはあげるけど、キミにはあげない」~この先のコロナ対策とプライバシー①

 個人情報保護が大切だということは分かるが、
 私たちはプライバシーを守るべき相手を間違ってはいないか?
 GAFAは生活を便利にしてくれるから情報を差し出してもいい、
 政府や公共機関は、面白いものをくれるわけではないから渡すべきではない、
 と、私たちは個人情報を消費財の対価に使っているのかもしれない。

というお話。

f:id:kite-cafe:20200421074521j:plain(「デジタル ネットワーク」フォトACより)

【佐川急便、一時的にタッチパネル・サインを取り下げる】

 私の家で来客といえばほぼ95%は宅配便です。したがってチャイムが鳴ると、まず印鑑を持って玄関に走ります。なぜかこの仕事は我が家では私がやることになっています。
 先日も、ドアを開けると案の定、佐川急便で、差し出された伝票に印鑑を押そうとして、
「あれ!?」

 佐川はここの所ずっと印鑑ではなく、スマホサイズのタブレットに指でサインをしてきたはずです。
 すると私の疑念を察した担当者が、
「コロナが終わるまではこれに戻すそうです」

 確かにだれが触ったか分からないタッチパネルに指を乗せるのを嫌がる顧客もいるかもしれません。さらに現実問題として、佐川急便が配達した家から次々とコロナ感染が出たとなると真っ先に疑われるのは端末でしょうから、会社としても予防策を取ったのでしょう。納得できる話です。
 ただし私は今回のコロナ事態のずっと 以前から、佐川の指サインはイヤだったのです。衛生面の問題ではなく、“指紋を取られていないのか”という疑念がずっとあったからです。

 もちろん佐川さんは大きな会社ですからそんなことはしないと思いますが、システムをつくった末端の技術者までは信用することができません。
 科学者や技術者というのは知的好奇心のためなら原子爆弾すらつくってしまう人たちです。宅配だと住所・氏名・電話番号・購入履歴が指紋つきで手にはいりますから、中にはこれをせっせとため込んで、あとで何かに使おうという輩がいるかもしれません。技術屋・科学者はそのくらい信用ならないと思っています。
 佐川急便さん、印鑑復帰、おめでとうございます。
 
 

【個人情報保護が煩わしいと思うとき】

 ところで、そこまで言うなら私はプライバシー保護の意識が強い人間かというとそうでもないのです。指紋は今のところスマホの認証くらいにしか使っていませんが、将来はもっと重要な場面で使うことも考えられます。したがって強く守りたい気持ちもあるのですが、他はそうでもありません。
 利便性のためなら選択的に住所や氏名はいくらでも出せます。そして出したいにも関わらず出せない場面もあります。

 例えば病院に行くとき必ず持って行く「お薬手帳」。しょっちゅう忘れるのであれは何とかならないものか、といつも思っています。薬局でいちいち薬の内容を書いた紙を貼ってくれるのですが、私が見たところで役立つものでもないし、医師と薬剤師が検討の対象にすればいいだけですからオンラインで何とかなるはずでしょ?

 例えば健康保険証に紐づけておけば、日本中どこのお医者さんに行っても番号ひとつでコンピュータ上に私の飲んでいる薬が表示され、それを見て医師が追加の薬の種類と量を決めて打ち込む。そのあと患者が薬局に行って保険証を差し出すとコンピュータ上に医師の指示した薬が表れ、薬剤師が薬をそろえる。それでいいじゃないですか。

 おそらくシステムとしてはものすごく簡単にできるはずです。それがいまだに旧時代の「お薬手帳」だというのは、どこかに法律上の問題があるのでしょう。

 今回、決まった一人当たり10万円の給付金も、マイナンバーカードに銀行口座が紐づいていればあっという間に個人の手に渡ったはずです。それなのに、今から口座申請書を郵送してそれを返送し、あらためて番号を入力しなどとやっていたら、一部の人はお金が手に入る前に干上がってしまいます。

 私はマイナンバーカードについて全く不勉強で、どうしてこういうことになったのかわからないのですが、個人情報を政府にとられないということは、それほど重要なことなのでしょうか?
(この部分は反語ではなく、純粋な疑問です)
 
 

【プライバシー保護の苦々しい思い出】

 日本という国はかつてプライバシーなどほとんどない国でした。
 家の各部屋は障子と襖の文字通り紙一重で区切られているだけでしたし、屋外に対しても鍵など掛けない国でした。江戸の九尺長屋などは壁越しに他人と話せたくらいです。

 近代、昭和に至っても街には「出しゃばりお米」(昭和歌謡「愛ちゃんはお嫁に」の登場人物)みたいな人がいて、しょっちゅう他人の家に入り込んであれこれ詮索し、井戸端では女房たちが根掘り葉掘りのうわさ話に花を咲かせていました。
 それがいつの間にか、他人の世界に分け入らないことが不文律になった――その境目がどこにあったか、記憶にありません。
 しかし教員生活の最期の数年間(というのは10年前くらいから)になると、プライバシー保護の立場から連絡網は作らせない、家庭訪問も許さないといった風潮が広がって、学校はえらく難渋したことは事実です。
 同じ時期に、子どもたちはゲームしたさに、母親たちは限定商品やポイント欲しさに、そして父親たちは家族にも言えない秘密の楽しみのために、個人情報をネット上にバンバン上げていました。

 学校のような公的な機関には情報は出せないが、企業には差し出して構わないというのは重大な二律背反です。あたかも学校は信用できないが民間企業、特にアメリカの大企業は信用できると宣戦布告されているようなものです そこに恨みがあります。

 しかしそう言いながら、かくいう私自身もGoogle社に大量の個人情報を奪われているのですからこの世はままなりません。
 
 

【未来の悪の帝国はすべて“企業”だ】

 4月12日のNHKスペシャル『デジタルVSリアル(2)「さよならプライバシー第2回 さよならプライバシー 」』(動画はdailymotion)では、性別も年齢も明らかにしない被験者が差し出した位置情報、画像履歴、検索履歴をもとに、その人の氏名・年齢・住所・職業、仕事の経営状況、性向。恋愛体験や今後の変化、体調などを鮮やかに暴き出していく様子が映し出されていました。たった三種類の情報だけで、完全に本人を特定し、見事に細部まで描き出すのです。

www6.nhk.or.jp

www.dailymotion.com
 私の場合、Googl検索は四半世紀も行ってきていますし、写真はGoogleフォトに入れ、文書の一部はGoogleドライブに入っています。Googlのアカウントからゲームもしていますから位置情報、行動の履歴も取られています。

 Googleはおそらく“私”の8割以上をしっかりつかんでいるのであり、20年前に何を検索したかなんて自分でも覚えていませんから、ある意味で私自身よりも私に詳しいのかもしれません。

 SF映画に出てくる悪の組織は、ほとんどが民間企業です。
ターミネーター」で地球を破滅に追い込んだコンピュータ・システム『スカイネット』は合衆国のハイテク企業サイバーダイン社が生み出したものです。
ブレード・ランナー」で狂った人造人間「レプリカント」を産みだしたのはタイレル社。
「バイオ・ハザード」で細菌兵器を製造して漏出してしまったのは家庭医薬品メーカーの仮面をかぶった全米一の巨大複合企業、軍事企業のアンブレラ社です。
「エイリアン」で乗員たちが眠っている間に宇宙船を謎の惑星に差し向け、知的生命体を生きたまま持ち帰らせようとしたのも「会社」(映画の中では「会社」としか言いませんがウェイラン・ユタニ社という名前らしい)でした。

 未来の世界では“悪の帝国”はどこぞの国・地域ではなく「企業」なのだという強い想いが私たちにはあります。しかしそんな予感を持ちながらも、私たちはGAFAなどに平気で情報を与え続けています。
 もちろんそれ自体が大問題なのですが、いま話題にしたいのはそこではありません。

 GAFAには情報を出してもいいが、政府・地方公共団体、学校等公共機関には情報を出すべきではないというそのことです。

(この稿、続く)