カイト・カフェ

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「朝ドラ『なつぞら』の不幸な暗合、闇営業の危機管理」~今月の拾遺 1

 バタバタしているうちに もう夏休み
 私も休みを取るので
 書き洩らしたことを 慌てて整理しておく
 まずは芸能ネタと社会問題
というお話。
f:id:kite-cafe:20190722074416j:plain(「秋の四季彩の丘phtoAC より )

【NHK朝ドラ「なつぞら」】

 NHKの朝の連続ドラマ「なつぞら」が好調です。

 主演の広瀬すずさんの魅力もありますが、草刈正雄を初めとするイケメン俳優(草刈からスタートするところがいいでしょ?)が次々と出てくるのも理由の一つかもしれません。

 私が特に感心するのはセリフ回しで、例えば、強い絆で結ばれていた恋人同士が、たった10分の間に互いに対する不信感を高め、別れていく――そういった場面を、実に鮮やかに、納得できるかたちで進めていくところです。その手腕には惚れ惚れとさせられることがあります。

 全体の物語は、しかし好き嫌いで言えばむしろ嫌いで、北海道に広い牧場とたくさんの牛を持つ家の子は、都会に出てアニメーターなんぞになってはいけないのです。普通の会社員も公務員もダメで、牧場で地道に楽しく、豊かに生きるのが正しい生き方です。
 そういえばかつての「海女ちゃん」も、主人公は海を捨ててアイドルになるために東京に出て行ってしまいました。

「夢を追わない若者は若者ではない」
 そうしたメッセージは、マスメディアの中で昔から一貫しているものです。そんな言葉に騙されて、私も18歳の年から12年間、都会暮らしをしてしまいました。後悔はしていませんが、ちょっと損をしたのかな、という思いもあります。ぜひともマネしないように。
 
 

京都アニメーション放火事件との不幸な暗合】

 さて、今日「なつぞら」を取り上げたのは、しかしそうした私の思いを伝えるためではありません。このドラマのお陰で、私を含む日本中のお爺ちゃんお婆ちゃんたちが、アニメーターという年寄にはなじみのない職業の、具体的な姿、仕事の様子、夢や喜びを、知らず知らずのうちに知識として蓄え、情として理解してきたということをお話ししたかったからです。

 先週末の京都アニメーションの放火事件――その直前、建物の中で人々がどんな働き方をしていたのか、今や私たちはありありと思い浮かべることができます。京アニの名前は知らなくても、その作品を一本も見たことがなくても、そしてコンピュータ時代ですから具体的な風景は多少違うかもしれませんが、アニメーターたちの年齢や男女構成、仕事に向かう情熱、成し遂げたいと思っていることや願いに大差はないでしょう。その誠実な命が、一瞬にして失われてしまった――。

 若い人たちの死はいつの時代も、どんな状況でもやりきれないものです。 しかし今回ほど、被害者の姿が現実感をもって私たちに迫ったことはないのかもしれません。

 

【闇営業にみる危機管理】

 先週土曜日(20日)、闇営業問題の中心にいた宮迫博之さん(雨上がり決死隊)と田村亮さん(ロンドンブーツ1号2号)の謝罪会見がありました。
 所属する吉本興業創始者は、以前のNHK朝ドラ「わろてんか」のモデルです。

 スポーツ紙などは「宮迫・亮、大号泣!」とか書いていますが、「号泣」というのは「大声を上げて泣くこと」ですから、せめて5年前の野々村竜太郎兵庫県議くらいやってもらわないとだめだろう、とどうでもいいことを先に書いておいて――しかし今回の事例、危機管理という意味ですべての人にとって参考になる他山の石だったように思います。
 とにかくやることの手順が悪すぎる。

「仲間に誘われて特殊詐欺グループの宴会で小ネタを披露し、100万円ほどの報酬をもらった」

 なみなみとニトログリセリンを注がれた一升瓶を手渡されたような話です。なぜそれを『超ド級の危険物』と意識できなかったのか――。
 危機管理の一丁目一番地は「危険を察知すること」です。それが第一の問題。
 
 

 【あることないこと全部しゃべろう】

 第二の問題は事実を隠したこと、小出しにしたことです。
 映画「謝罪の王様」(2013年)で主人公の黒島譲(阿部サダヲ)はこう叫びます。
「この国(日本)じゃあなあ、車をぶつけてから謝ったんじゃあ遅いんだ! ぶつける前に謝れ!」
 それは大げさにしても、今の日本では罪を隠したり小出しにすることは本来の罪よりも重いのです。
 そんな事例は文春砲に撃たれたベッキー以来、いくらでもあるじゃないですか。

 ですから宮迫さんも亮さんも、最初の時点でやったことはもちろん、やらなかったことも全部挙げて、片端謝ってしまえばよかったのです。
「はい行きました。10回だか20回だか覚えていません。報酬としても10万円から100万円までいろいろありました。行ってみたらクリカラモンモンの怖いお兄さんばかりで、これはヤバいと思ったこともあったのですが、『来てみたらヤクザの会だったので今から帰ります』とはとても言えず、最後まで楽しくやってるふりをして慌てて帰ってきたこともありました。報復が怖くて会社にも言えなかった。
 お金? そんなもの怖くて返せないでしょ。

 でも実際に“明らかに暴力団”というのは30年間に2回か3回くらいなものです。30年間とはいえ2度も3度も引っかかるというのはバカなのですが、その都度確認しても分からないことはあって、ほんと、申し訳ありませんでした」


 その上で数日あいだをおいてから、
「すみません。先日申し上げた10回、20回というのは間違いで、調べたら5回だけでした。そのうち2~3回が“行ったら明らかにそれらしかった”という例です。
 なにかマスコミに出て怯えて、あれこれ思い出そうとしたらあれもこれも怪しくなって、つい“10回だか20回”とか言ってしまいましたが、反社会的組織と思われる人たちのところへ行ったのは全部で5回だけです。申し訳ありませんでした」

と言えばいいのです。
 数を減らすのはいっこうに構いません。腹黒いと思われるよりバカだと思われた方がはるかに有利ですし、芸人がバカだと思われるのはそれ自体が悪いことではないからです。
 これで話は「案外、小さなことだったんだな」と矮小化されることがあるかも知れません。(ここでも下心を出して「5回だったのに誤解しました」などと言ってはいけません)
 
 

【社長も社長だ――帝国の崩壊】

 吉本興業の社長も社長です。
 管理者にとっての危機管理の一丁目一番地は「事実の正確な把握」です。社長は田村亮さんにファミリーだと言ったそうですが、ファミリーならなおさらで、自分の子がどこまで白いか、徹底的に調べなくてはなりません。
 家でものがなくなったとき、家族を疑う前に警察に行ったり隣に怒鳴り込んでいく人はいないでしょ?

 子どもだから嘘はつかないと思っていた?
 冗談じゃない。嘘をつかずに済むのは古代の皇帝くらいなもの。弱い人間はいつだって嘘をつきながら生きています。私なんか妻に嘘ばかりついている。
 それをしっかり調べもせず、宮迫も亮も金はもらっていません、などと言ってしまうから切羽詰まる。
 切羽詰まって「様子を見る」という悪手に出る。

「様子を見る」というのは何もしないで怯えながら待つことではありません。何か手を打ってそれがどういう効果を生むか、確認するために時間を置くときの言葉です。
 なにもしないで見ているだけでは、主導権はどこかに持っていかれてしまいます。

 こんな杜撰な吉本興業は、今後大きく変質するでしょう。
 やってはいけないことをしていた(あるいはそういう噂を放置して利用していた)ジャニーズ事務所も同じです。

 時代が令和になったのですから、いつまでも昭和や平成を引きずってはいられません。

                       (この稿続く)