カイト・カフェ

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「美の共振」〜展覧会をはしごしてきた4

 日曜日(19日)に行った国立西洋美術館の「北斎とジャポニスム HOKUSAIが西洋に与えた衝撃」東京国立博物館特別展「運慶」について書いています。
 続いて北斎

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ジャポニズムとは何か】

 ジャポニズムとは何かというと、
「19世紀後半、写真の発明などによって行き詰っていたヨーロッパ芸術が、日本の浮世絵などの影響のもと、それを咀嚼し、昇華させて作り上げた芸術及び文化潮流」
と要約することができます。
 Wikipediaなどを見ると「日本趣味」といった表現が見られますが、あくまでも日本の影響を受けた「西洋の芸術」です。

 「日本にあこがれる魂」〜展覧会のハシゴをしてきた2 - カイト・カフェでも書きましたが、カメラの発達などによってヨーロッパの写実主義に限界が見えた時、様々なヒントを与えたのが日本の浮世絵をはじめとする絵画だったのです。

 考えてみると、
「絵の視点は画家の目の高さでなくてはいけない」
「遠近法に忠実で立体感がなくてはなくてはならない」
「物には影がつきものだ」
「事物は本物そっくりでなくてはならない」
「対象は樹木などに隠されてはならない」
「描く人物や物は画面からはみ出してはならない」
「動物や虫たちはそれ自体を描くものではない」
 日本の浮世絵を見たとき気づかされたのは、そうした知らないうちに身についてしまった西洋画の様々なルールです。逆に言えば画家たちは、そうした制約から一気に自由になる可能性を浮世絵の中に見たのです。

 その影響力の大きさは、パリに留学した日本人画学生に対してモネの言った、
「お前は日本に生まれながら、パリで何を学ぼうというのだ」
という言葉からも理解できます。

 モネは繰り返し繰り返し浮世絵を模写し、木々の間から見える風景や高い位置から見下ろす町並みといった浮世絵から構想を得た作品を多く描いています。
 「踊り子」で有名なドガは、今回の美術展のポスターにある通り、「北斎漫画」に登場する相撲取りの後ろ姿に魅かれ、腰に両手を当てる踊り子の姿を繰り返し絵の中に登場させます。
 セザンヌは故郷のサント=ヴィクトワール山を様々な視点から繰り返し描いています。今回、私は初めて知ったのですが、それはセザンヌ流の「富嶽三十六景」だったに違いありません。
 エミール・ガレの工芸品、電気スタンドや花瓶、飾り棚にも、北斎はふんだんに現れます。

北斎を生み出した国の国民として】

 今回の「北斎ジャポニスム HOKUSAIが西洋に与えた衝撃」にはそうした事例がしつこいほどに提示されます。
富嶽三十六景」をはじめ、「富嶽百景」「百物語」「北斎漫画」など、北斎ほど西洋の画家たちに研究されつくした日本人画家はいません。そんな北斎を生んだ国の人間として、私は非常に誇り高く思うのですが、美術展を企画した国立西洋美術館館長の馬渕明子さんはそうではないとおっしゃいます。

葛飾北斎は確かにすごいが、それを吸収、発展させた西洋の芸術家たちがすごい。どちらが勝ちという問題ではないが、北斎を生んだ日本美術を誇るなら、その後、日本が北斎北斎に連なるものを大事にしなかったことも反省しなくてはならない」

 確かにその通りです。
 私個人について言えば、浮世絵などの日本の絵画に心惹かれるようになったのは、ここわずか10年余りのことです。十代とは言いません、せめて40歳代になる以前に日本画の魅力に気付いていたら、もっと、もっと豊かな人生が送れたものを、と悔いるばかりです。
 この気持ち、若い人にも伝えたいものです。

【様子】

北斎ジャポニスム HOKUSAIが西洋に与えた衝撃」は来年1月28日(日)まで、国立西洋美術館で開催されています。今のところものすごく混んでいるというわけではありませんが、会場の最初の部分の展示はほとんどがガラスケースに入った“19世紀の西洋の書籍に描かれた北斎”ですので離れたところが観ることができず、来場者が全員最前列に向かってしまうためとんでもない混みようといった感じになります。
 もったいないですが展示作品は山ほどありますから、ざっと眺めて先に進むのもいいかもしれません。

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