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「公務員は手を汚さない」〜豊洲・五輪・全国学テ②

 豊洲問題について、メディアは相変わらず公務員の隠ぺい体質と言い、一般市民の口を借りて「着服があったに決まっているじゃないですか」と言わせ、小池都知事も、
「誰が、いつ、どこで、何を決めたのか、何を隠したのか。原因を探求する義務が、私たちにはあります」
といかにも重大な陰謀があるかのような発言をしていますが、盛土をしないことで浮いた300億円の資金を着服できる人は、公務員に限らず、そうはいないと思います。
 また、不明金があったという話も、今のところ出ていません。
 思うに、要するに虚を突かれてポカをやったのです。

 豊洲の土を全面的に掘り返して洗浄し、埋め戻した上にさらに新しい土を盛ると決めたとき、そこに建てる建物をどうするのかとかいう発想をする人は、専門会員の中に1人もいませんでした。それは専門委員の仕事ではなかったからです。
 大きな建物には地下空間が必要だという知識を持った人が誰もいなかった、更地となった上に(地下を掘らず)高床式のビルを建てると本気で考えた人もいなかった、とにかく汚染物質が上がってこない方法さえ考えれば彼らの仕事は済んだのです。

 一方、全面盛土の決定を受けて技術設計の段階に移ったとき、受け手だった建築屋さんたちは当然普通の建て方でいいと思い込んでいました。特別な、これといった指示がなかったからです。まさか杓子定規に全面盛土をし、そこを一切掘らないかたちで造らなければならないなどとは全く考えなかったのです。
 そして設計図が作られます。

 その段階で専門家会議は解散となっていますから積極的に「地下空間はだめだ」と言い出す人はいません。中には事情を知っていた人もいたかもしれませんが、その人は言いそびれます。建築屋さんがあまりにも平然と、自信ありげに地下空間のある計画を出してくるので錯誤するのです。
“あれ? 建物の下は盛土がなくてもよかったんだっけ?”
 実は建築屋さんは自信があったのではなく、盛土は絶対的なものであって手をつけてはいけないと知らなかっただけなのです。

 もちろん地下空間を造らず、盛土の上に高床式の建物を建てるのは可能でしょう。
 不安定な土地の建てるのですから強力な補強措置をしなければなりませんが、それとて予算を使って長いパイルをたくさん打ち込めばいいだけのことです。
 そこに2m〜3mの底上げをした、つまり高床をもったビルを建て、そのままではトラックが出入りできませんから周辺にはにさらにビルの嵩上げ分(つまり2m〜3m)の盛土をして道路を造り、高さを合わせればいいだけです(したがって建物以外の部分の盛土は総計6.5m〜7.5m、二階建てビル分の高さになる)。
 金はかかりますが技術的にはそう困難ではないでしょう。しかしそれをやるには最初から細かな指示が必要だったのです。

 豊洲の土を全面的に掘り返して洗浄し、埋め戻した上にさらに新しい土を盛る。その盛土は一切崩さず建物はその上に高床式に建て、その高床に合わせて道路・駐車場等の部分はさらに盛土をする――。

 それにもかかわらず、土壌屋さんは土壌のことしか考えていなかった、建築屋さんは条件を確認をしなかった、全体を見通せる段階に来た時、責任ある人たちはその不整合に気づかなかった、もっと重要な問題(それが何だったのかはわかりませんが)に気を取られていた――。

「いつ、だれが、(決めたのか)をピンポイントで特定するのは難しい」
という状況はこうして生まれました。
 特定するのが難しいのは都庁が伏魔殿だからでも、隠ぺい体質があるからでも、無責任だからでもありません。決めた人がいないから、分からないのです。

(この稿、続く)