カイト・カフェ

毎朝、苦みのあるコーヒーを・・・

「生徒に試される教師たち」~子どもたちは問い続ける

【第一話】

(昨日までの話とは別の、中2の女の子について)

 ある日一人の女子生徒が私のところにやってきて、「先生、Aちゃんに嫌われていると思う?」と尋ねます。Aとその子は“親友”とかで、とにかく年がら年中問題を起こす困った二人でした。ただしAに嫌われているという感じもなかったので、
「いや、嫌われているとも思わないが・・・」と答えるとその子が、
「Aちゃんは先生のこと大好きなんだよ。だから嫌われてるなんて思わないで・・・」

・・・大好きなら私にもっと優しくしてくれればいいものを、しょっちゅう悪さをして怒らせ、年中対決させられています。しかしなぜそんなふうなのか、そしてなぜ“親友”がわざわざそんなことを言いに来たのか、私にはよくわかりました。

 Aは私を試しているのです。多くの友だちにも親にも見放されたような子です。私がほんとうに見放さないのか不安なのです。そこで「ここまでやっても見放さない?」「こんな私でも大丈夫?」ということになるのですが、それは表面上、どんどん悪くなっているのと同じです。そんなことから“親友”も私が見放さないか、心配になってやってきたのです。

 教師として頑張れば頑張るほど悪くなっていくのですから、私としてもたまったものではありません。
「もういい加減にしろ。これ以上やったら私も知らないから」と喉元まで出かかるのですが、絶対に言ってはいけない言葉と分かっているので、いつも呑み込んでいました。
 しかし何と言えばよかったのか。Aの指導は最後までうまくいきませんでした。

 今なら分かります。正直にこう言えばよかったのです。
「もういい加減にしろ。オレは絶対に見放さないから、これ以上悪くなるのはやめろ。自分を捨てるな」
 それでよかったのです。

 

【第二話】

 若い女性の講師がチンピラ女子と教員住宅で飲酒をするという事件がありました。もう20年以上前の話です。保護者からその話を聞いたのも“事件”からずっと後のことだったので問題にもしませんでした。しかしひとこと言っておいた方がいいと思ってその講師と話をしました。

 聞くと突然数人が遊びに来て、部屋に入れるといきなり缶ビールを開け始めた。自分も勧められたが飲まなかった。何か怖くて注意できなかった、というのです。

 彼女は学校中で一番難しいこの子たちと、自分は繋がっているという喜びと、この細い糸を切ってはいけないという強い思いがあったのです。ここで自分までも離れてしまったら、誰も話ができなくなる、話ができなければ指導もできない、そこで飲酒を遮ることができなくなったのです。

 その話を聞いた時も、私は言葉を失いました。その感じが良く分かったからです。
 しかし今なら言えます。
「けれどそれでも叱らなければならなかった、怒鳴り上げてビールを取り上げ、住宅から追い出さなければならなかった」

と。

 その子たちも教師を試しに来たのです。意識するとしないとに関らず、自然に試しにかかったのです。
「この教師は、ほんとうに自分たちにとって“いい人”なのか、自分たちと対決し、自分たちを悪いことから守ろうとしてくれる人なのか」ということをです。

 ですから怒鳴り上げて一瞬険悪になったとしても、大した問題ではありませんでした。それよりは悪を見過ごし、対決を回避したことこそ大問題です。ほどなく彼女は‘彼女たち’から見捨てられます。真剣に対峙してくれない教師なんていらないのです。