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「教師と生徒の危険な関係」〜スーパーバイザーの必要性について

 生徒指導についてはあれこれ首を突っ込みましたが、一番勉強したのは何かと聞かれれば即座に答えられます。摂食障害です。かつて教え子にいて、実際に死ぬかも知れないと思っていたからです。

 摂食障害の原因は複雑に絡み合っていますが、その一つは確実に「自立心」の問題です。非常にまじめで努力家が多いのですが、価値基準が自分の外にあって自己肯定感が高まりません。簡単に言うと「他人からどう見られるか」がすべてなのですが、他人のさまざまな価値観に応えきれないのです。そのためまったく自分に自信がなく、またどうしても依存的になります。

 他人にすがって生きているので見捨てられ不安が強く、自分が信頼を寄せる人に捨てられるかもしれないと思うと恐怖のために何でもします。
 泣きます、怒ります、自殺をほのめかします、「今すぐに話を聞いてくれなければ死ぬ」と言って脅迫します。女性の場合(というか女性の場合が圧倒的に多いのですが)、性的に誘惑をすることもあります。

 そうした危険に常にさらされているのが、精神科医やカウンセラーです。職業として行っていることで24時間脅迫されるのはたまったものではありませんが、クライアントの危険なアプローチは延々と繰り返されます。これに誠実に応え続ければ、いずれどちらか一方が(あるいは双方が)破滅します。そこで多くのカウンセラーは自分の上にスーパーバイザー(監督者)を置いて、常にその指示を仰いで逸脱を避けようとしています。いわばカウンセラーのカウンセラーを置くのです。

 私の教え子はその時まだ中学2年生で、早い段階で治療に入ったためにコントロールが効くようになりました。また摂食障害の人がすべてこうなるというわけではありませんし、摂食障害以外の障害や病気で同じように医者やカウンセラーを引きまわす例はいくらでもあります。

 さて、この話をしたのは、教師と教え子の間でこうした危険な状況が生まれる可能性はないのかと危惧したからです。若くて熱意があって魅力的な教師が、非常に難しい女生徒と出会い、その子を救えるのは自分しかいないと思い込んだら。そしてその教え子がその教師に“見捨てられまい”と必死になったら、そこに抜き差しならない関係があっという間にでき上がってしまいます。相手が子どもの場合は、自分が誘惑しているということですら自覚できません。

 そうした危機を避ける方法は三つしかありません。

  1.  一つはそれらすべてが病気のなせる業なのだという事実を、教師自身が見据え続けることです。教師の方は“愛”(師弟愛や人間愛、人類愛や慈愛)ですが、生徒の方は “病気”なのです。
  2.  そしてできるだけ早くスーパーバイザーを持ち、常に客観的な目を近くに置いておくこと。
  3. 「その子を救えるのは自分しかいない」といった状況をできるだけ早く崩し、たくさんの支援の手がその子に伸びるように環境を整えなくてはなりません。

 そうしなければ誰かが破滅します。大人である教師の破滅は自業自得かもしれませんが、その上で生徒も救われないとなれば、それこそ地獄です。