カイト・カフェ

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「失うものがない人間は強いが、守るべき大切な人がいない人生は意味がない」~映画『悪人』を見ているうちに考えたこと

 たいていの場合、月曜日の「デイ・バイ・デイ」は前の週の金曜日に書いているので時期を逸することがあります。先週の日曜日に見た映画「悪人」について、少し調べて書こうと思っていたのが、時間がかかって今日になりました。
 何を調べたかったかというと、映画の最後の方に出てきた柄本明の台詞が気になっていたからです。

 娘を夜の山の中に置き去りにした大学生が、仲間とスナックで面白おかしく事件のことを話す姿や、犯人の祖母が入院中の夫の世話を丁寧にする様子、そして犯人のところに戻ろうと必死に急ぐ恋人の映像に重ね、柄本明が別の若者にこう言うのです。
 あんた、大切な人はおるね?
 その人の、幸せな様子を思うだけで、自分までうれしくなってくるような人は。
 今の世の中、大切な人がおらん人間が多すぎる。
 自分には、失うもんがないちゅう思い込んで、そいで強くなった気になっと、
 だけんよ、自分が、余裕のある人間と思いくさって、失ったり、欲しがったりする人を、馬鹿にしたうえで眺めとん。
 そじゃないとよ。そんじゃ、人間はだめとよ。

  こうして文章にするとずいぶんと薄っぺらくなってしまいますが、柄本が語ると本当に重い台詞です。

「失うものがない人間は強い」という言い方は肯定的に使われることが多いですが、はたしてそれでいいのか。

 守るべきものを持つ人たちは、いつも戦々恐々とあたりを窺い、争いを回避し、背を丸めて暮らします。その姿は時にみじめだったりかっこう悪かったりしますが、やはり人間として正しい姿でしょう。一時の激情や感情で簡単に動いては、守るべきものも守れません。

 柄本の「そんじゃ、人間はだめとよ」に対して、どうしてだめなのかと説明を求める人は、そうした人間の重みを理解しない人です。それは説明できないことなのです。説明しようとするとどんどん軽くなってしまいます。

 自分には大切な人がいるか。
 その人の、幸せな様子を思うだけで、自分までうれしくなってくるような人は。

 もちろん私にはいます。重要なことは、かたときもそのことを忘れないようにすることです。