「ニューヨークのビルのガラス扉の前で立ち止まったり、真っすぐ歩いて行ってぶつかったりするヤツはトーキョー帰りだ」
というジョークがあるそうです。何しろ東京ではタクシーまで自動ドアですから。
歌手のマドンナは12年ぶりに来日した際、最初に発した言葉が、
「またウォシュレットに会いに来たわ!」
だったとか(他に「暖かいトイレシートが恋しかったわ」とか「暖かいトイレに座ると日本に来たという実感がわく」とかさまざまなバリエーションがあります)。
また一説に、そのとき大量の温水洗浄便座を購入して帰国し、自宅は言うまでもなくツアーの際は行く先々のホテルやライブ会場、移動に使う航空機の会社に送り付け、自分の使用するトイレについては到着までに便座を取り替えておくよう指示していると言います(とんでもないヨタ話のような気もしますが、なにしろマドンナですからーー)。
また、少し古い統計ですが2013年の段階で、産業ロボットが普及している国とその稼働数は次のとおりです。(「世界で最もロボットの導入が進んでいる国は日本」 マイナビニュース 2016.03.31 )
日 本 310,508
米 国 168,623
ドイツ 161,988
韓 国 138,883
中 国 96,924
英 国 15,046
インド 7,840
ブラジル 7,576
見ればわかる通り日本はダントツ。第二位であるアメリカの経済規模や人口を考えると、とんでもない数のロボットが活躍している様子が分かります。
【ロボット好きの日本、嫌いな欧米】
かように日本人は自動機械が好きですが、外国、特に欧米はではさっぱり普及していく様子が見られません。
もちろん自動ドアについては石造りの古い建物が多いので設置が困難だとか、温水洗浄便座の場合は、欧米は硬水がほとんどなので水の噴射口が詰まりやすいとか、バスと一体のため電源の扱いが難しいとか、便器メーカーがシェアを囲い込んでいるために参入しにくいからだとかいろいろな説明がありますが、結局は“嫌い”だからじゃないかと私は疑っています。
この件については昔聞いた、
「日本人はロボットと聞くと鉄腕アトムを思い出して親近感を持つのに、欧米人の頭にまず閃くのはフランケンシュタインだ」
という話が一番すんなりと心に落ちるのです。
【恐ろしきアメリカのロボットたち】
確かに映画ひとつをとっても、欧米にはろくなロボット、AIがありません。
ターミネーターを筆頭に「スターウォーズ」のバトル・ドロイド、「ブレードランナー」のレプリカント、「エイリアン」のアッシュ、みんな悪い奴です。
AIでは「2001年宇宙の旅」のHAL2000、「アイロボット」のヴィキ。「マトリックス」の巨大コンピュータ。人類を破滅に導こうとするヤカラばかりです。
少しマシなのを探しても「ロボコップ」は頭脳が人間、「アイアンマン」は中身がそっくり人間。
「スターウォーズ」にはC-3POとR2-D2という魅力的なロボットが出てきますが、弱っちくて無害で、味方としては戦力になりません。
「ウォーリー」は孤独で気立ての良いロボットです。しかしそれは人類がいなくなった無機質な世界での出来事。スピルバーグの「A・I」の主人公も人類のいなくなったあとが幸せな子どもロボットです。
つまり共生できない。
本格的に人間の味方というと「トランス・フォーマー」とか「ベイマックス」。しかしどちらも日本由来か日本人が産みの親という設定です。
日本人が作ったから人間に味方する変わり者で、普通の人間が作るとロボットは悪者になるーーアメリカには本当にいいロボットがいない。
【気持ちを変えました】
さて、私はこの記事を次のような計画で書き始めました。
- 日本にはたくさんのロボットや自動機械があるのに欧米には少ない。
- それはどうも日本人のロボット好きと欧米人のロボット嫌いによるものらしい。
- アメリカ映画でロボットやAIの出て来るものを見てもそれはよくわかる。
- 今でもアメリカ人の心の中にあるロボットは、人類に襲いかかるもの、怖ろしいもの――現実社会では“俺たちの雇用を奪う”ものといった役どころなのだろう。
- ところでロボットは味方だという日本人の感じ方と、恐ろしいものエイリアンみたいなものだという欧米人の見方と、どちらが正しいのだろう。
- つい最近まで私はそのことを考えてもみなかった。ロボットやAIを中心とする技術革新は私たちに益すると信じ込んでいたのだ。
- しかしこの10年間をとっても、ロボットやAIにとって替わられた仕事は少なくない。
- このまま現在の人手不足が続けば、人間がやってきた仕事の多くを機械にやってもらわなくてはならなくなる。人手不足が賃金を釣り上げ、機械の方が安上がりという時期になれば、どんどん置き換えられる。
- けれどそれは再び人余りの時代が来た時、人間の戻る職場がなくなっているということなのだ。
- オックスフォード大学が『あと10年で「消える職業」「なくなる仕事」』を発表してから3年もたっている。
- 予言通りだとすると、そのとき真っ先に仕事を失うのは妻が勤務するような特別支援学校の生徒、そして私が教えてきた大半の生徒がそうであるような、“これといって才能のない普通の子”たちなのだ。
- この先どうなっていくのだろう。
しかしそんな計画で映画の部分まで書いくうちに、気持ちが変わってしまったのです。
そうです。『あと10年で「消える職業」「なくなる仕事」』自体がロボット嫌い・AI嫌いの欧米人の考えたことです。
前半で引用したマイナビニュースの「世界で最もロボットの導入が進んでいる国は日本」でも、
2020年までに遺伝学、人工知能、ロボットなどの技術開発によって15の先進国および新興国で200万人分の雇用が産まれるものの、700万人分の雇用が失われるだろう
などと言っていますがそんなことは分からない、どうせ米国Bank of America Merrill Lynchの考えたことですから変なバイアスがかかっているに違いありません。
この問題、改めて考えてみたいと思います。