江戸の耐火建築

 昨日、出勤の際、○○の集落の入り口でりっぱな土蔵造りの建物に気づきました。もう一年半も通い続けた道なのに、案外見ていないものです。

 土蔵造りというのは日本の伝統的な建築様式のひとつで、外壁を土壁として漆喰などで仕上げているところが共通の特徴です。しかし「土蔵」と聞いて私たちがすぐに思い浮かべるのは、「なまこ壁」と呼ばれる黒と白のひし形の美しい壁のことでしょう。

 しかしこれ、何だと思います?

 土蔵というのは家の蔵、重要な金品の保管庫です。そのため「土蔵」と言うように土で厚く壁をつくり、窓を小さくして、二重三重に防犯・防火対策が採られています。「火事と喧嘩は江戸の華」と言われるように江戸時代を通じて火事も喧嘩も耐えませんでしたから、蔵の耐火化は重要な問題だったのです。

 壁の白さは漆喰(しっくい:語源は「石灰」)と呼ばれる消石灰を主成分とした塗料で、これも防火・防水の役割をしています。さらに繰り返される火災から、どうも屋根から突き出た軒と壁の間(軒下)に熱がこもりやすく、ここが深ければ深いほど類焼を免れないということがわかってきます。

 そこで今度は軒を極限まで切り詰めるのですが、そうなると雨が直接壁に当たるようになり、いかな漆喰でも壁の劣化を防げなくなってきたのです。特に雨の跳ね返りもある壁の下半分はどんどん崩れていってしまいます。

 そこで今度はその部分に耐火パネルを貼り付けることを考えます。江戸時代には優れた耐火パネルが大量に生産されていたのです。つまり屋根瓦です。

 これを竹釘で45°に傾けて打ちつけ、目地を漆喰で塗り固めるのです。ただし重い瓦ですから半端な量の漆喰ではすぐに剥げ落ちてしまいます。そこで時代が進むにしたがってどんどん厚塗りになっていき、ついにはナマコほどの厚みになってしまいました。それが「なまこ壁」です。

 ナマコ壁は値段も高く、重量もそうとうなものですからなかなか壁全面というわけには行きません。しかし実際には全面を覆っている場合も少なくなく、またそのデザインも横並びのものやレンガ積みのもの、六角形の瓦を使ったものなど、各地の職人が技巧を競った様子が見られます。

 もともとは機能的なものですが、それを美にまで高めてしまうところが、いかにも日本人らしいと言えます。